アイドルプロデュース業について語る佐久間氏
アイドルプロデュース業について語る佐久間氏

『青春高校3年C組』5人からのプロデュース依頼から、自分の名前を冠してのオーディション開催、そしてラフ×ラフ始動! "請われて始まった"アイドルプロデュース業は、天才バラエティプロデューサー・佐久間宣行さくま・のぶゆき)にとってなんなのか? アイドル観から、お笑いとの違いについてまでもガッツリ語ってもらったロングインタビュー!

【写真】佐久間氏がプロデュースするラフ×ラフ

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■一度はプロジェクトを閉じようと思った

ラフ×ラフ (下段左から)吉村萌南、永松波留、林 未梨、藤崎未来、(上段左から)日比野芽奈、齋藤有紗、夏目涼風、高梨 結、佐々木楓菜
ラフ×ラフ (下段左から)吉村萌南、永松波留、林 未梨、藤崎未来、(上段左から)日比野芽奈、齋藤有紗、夏目涼風、高梨 結、佐々木楓菜

――元『青春高校』の5人から自分たちをプロデュースしてほしいと頼まれて、すごく悩まれた結果、広くメンバーを募るオーディションの開催を決断されたわけですが、その期間の佐久間さんの苦悩ぶりがすさまじくて、アイドルのプロデュースというより〝大人が与えられた仕事にどう向き合うべきか〟のドキュメンタリーという印象でした。

佐久間 当初、5人の話を聞いていても、〝このままこのコたちがアイドルやってていいのかな?〟としか思えなかったんですよね。

モチベーションもバラバラで、世に出たい気持ちはあるけど、全員が全員アイドルに強い思い入れがあるわけじゃない。とりあえずドキュメンタリーを撮り始めたんですけど、いっこうに意識の差が埋められなくて......。

もともと青春高校ってグループが、アイドルを目指してたわけじゃなくて、友達がいなかったり、何かもっといい青春を送りたいみたいなキッカケで集まったコたちだから、プロとしてのモチベーションがそこまで高くなかった。

今の時代、例えばYouTuberでも、そこでしかできないクリエイティブをやってる人か、そこに命をかけてる人しか生き残れないので。一度はプロジェクトを閉じようと思ったんですよ。

――公式YouTubeの配信3回目ではカメラが回ってる中「俺はムカついてる!」と激白されていて......。

佐久間 ありましたね(笑)。でも5人はもう路頭に迷った挙句、僕のところに来てるわけだから、僕が断ったら全部なくなっちゃう。

さんざん悩んで、一緒にやってる放送作家のなかじま(はじめ)とも話して、続けるにしろやめるにしろ、一度オーディションをやったほうがいいんじゃないかっていうことになったんです。それで誰も追加で受けてこなくても、別にいいやと思ってたんですよ。

そしたら思ったより大勢の人が応募してくれて、会ってみたいコもいて、 会ってみたら〝おや?〟って思う面白いコもいて......。5人を試すことが主な目的で始まったオーディションだったけど、新しいコたちも含めて、ちゃんと向き合ってみようって思っていった感じですね。

――特にオーディションの過程で印象に残ってるメンバーはいますか?

佐久間 元『青春高校』の5人の中では齋藤が、オーディションに向けてしっかり準備してきて、昔はあんなワンワン泣いてたコが、人をたくさん笑わせてたのがすごいなって。ちょっとヤセてキレイにもなってたし、本気で臨んでたのがすごい伝わってきました。

新しいコの中では永松が、3次面接のときには緊張してひと言もしゃべれなくて下向いてずっと泣いてて、正直僕以外にスタッフで引っかかる人はいなかったんですよ。でも僕がちょっと面白いなと思ったのと、一瞬顔上げたときの顔がすごいすてきだったんで、もう一回会いたいなって思って。

それで次の面接でちゃんとプロのメイクさんがメイクしたら、みんなビックリしちゃって! 僕が尊敬するすごいクリエイターの方が後で動画を見て、「あのコは誰?」って連絡をくれたんです。「いい事務所に頼んで仕込んだんじゃないの?」ぐらいの感じで(笑)。それもけっこうおっきな出来事でした。

あと林と藤崎っていう(当時)15、16歳のコンビが、どっちもすごいメンタルが強くて面白くて、本当に普段テレビとか見てないんだろうなみたいな、粗削りな感じがインパクトありましたね。

――そういうコたちとの出会いもあって、これはちょっと自分なりに面白いことができるかもしれないっていう手応えから、プロデューサーとしてグループを始動する決意を固めた感じでしょうか?

佐久間 そうですね。ただ今回、自分なりの面白いことをやるっていう欲はあんまりなくて、彼女たちの人生が変わってくれて、なんかこう、自分の人生の夢に1個でもいいから引っかかってくれたらいいなって気持ちだけですね。そのために、どういうアプローチが一番良いのかなってことを考えてます。

■アイドル番組なら向いてないから

――さて、この機会に佐久間さんの今までのアイドルとの関わりについてお伺いできたらと思うんですが、若い頃とか、オタク的に誰かにハマったこととかあったんでしょうか?

佐久間 いわゆるアイドルファンではなかったですよね。10代の頃、音楽はロックやテクノが好きで、洋楽も邦楽も両方とも聴く感じで。

ただアイドルの曲は好きでした。小泉今日子さんや中山美穂さんの曲とか。人で好きだったのは深津絵里さんかな。ドラマや映画で見てて......。今好きなのはハロプロとかエビ中で、歌がうまくて、実力があるコたちが好きですね、まあ楽曲派というか。でもみんなキッカケは基本的に仕事です。

自分がテレビ東京に入ったのは1999年なんですけど、当時は会社全体がモーニング娘。祭りみたいな状態で、テレ東にいたらモー娘。の仕事が必ず何かは降ってくるみたいな(笑)。

僕はそんなに多いほうではなかったけど、音楽特番で担当したり、冠番組の『ハロー!モーニング。』を作ってるのが同期だったり、後藤真希卒業特番を手伝ってくれとか、最初の5年間くらいのAD時代はよくモー娘。の仕事をしてましたね。

ただ自分は20代のうちに企画が通ってお笑いをやらせてもらえることになって、そこから音楽班のヘルプとかにも呼ばれなくなって、アイドルから縁遠くなっていった感じです。

そこから改めて仕事でアイドルというのを意識したのは、2011年に『ウレロ☆未確認少女』って番組を始めたときに、ももクロと出会って、ももクロ辞めたばっかりの早見あかりと出会って、番組には早見あかりに出てもらって、劇中曲はももクロに歌ってもらいました。

それがきっかけでももクロのラジオやバラエティを担当したりしたんで、ももクロとはけっこう長く付き合った感じですね。

――バラエティのイメージが強いですけど、アイドルの最前線ともがっつり関わってこられたんですね......。そして18年に『青春高校3年C組』が始まるわけですが、それまで秋元(康)さんとは面識はあったんですか?

佐久間 いや、まったくなくて。だから、話をもらったときはほんとにビックリしました。その頃は完全にバラエティでお笑いの番組しかやってなかったので。

会社でプロジェクトが進んでるのは知ってたんですけど、始まる2ヵ月前くらいに一回打ち合わせで入ってくれって言われて、それが秋元さんとの初対面でしたね。

正直、それまで秋元さんに対しては〝THEフィクサー〟的なイメージで、そんなに一緒に仕事したいとは思ってなかった。それがその最初の打ち合わせで、秋元さん自身がめちゃくちゃアイデア出すんですよ。〝ああ、この人って本当にクリエイターなんだ!〟ってビックリして。

しかもそのアイデアが、どんどん保険をなくしていって、フルスイングせざるをえない状況に追い込んでいくものばっかりで、すごい勝負する人だなって......。「うわ秋元 康、面白っ!」って思ったんですよね。

『青春高校』も、アイドルじゃない普通のコたちのドキュメントを見せるって企画で、そんなの見たことがなかった。声がかかったとき、もし普通のアイドル番組だったら、自分には向いてないから断ろうと思ってたんですけど、「じゃあ入ります」って言って一緒にやることになりました。

――『青春高校』は夏の文化祭アイドル部のデビューなどもあって盛り上がりつつも、ちょうどコロナ禍と重なってしまって3年で終了になりました。今回のキッカケをつくった5人もだと思いますが、佐久間さん的にもあの時期にやれなかったことのリベンジという気持ちはあるんでしょうか?

佐久間 結局最後の丸1年半ぐらい、コロナでなんにもできてないですからね。ライブもできないし、収録もリモートでしかできないし。なんにもできなかったんで......。やっぱ切なかったですね。

■〝本当〟を動かしたい

――今、「普通のアイドル番組だったら、自分には向いてないから」と言われましたが、やはりご自身では、アイドル主体のものより、お笑い中心のバラエティのほうが得意分野と思われてる感じですか?

佐久間 そのときはそう思ってましたね。やってなかったんでわかってなかったというのもあると思うんですけど。僕自身が器用ではないというか、会社の仕事ですって割り切ってできるプロデューサーじゃないので。

出てる人に興味がないと、面白いものを作れないっていうのがやっぱ一番大きくて。おぎやはぎを面白いと思ってるとか、バナナマンが面白いとか、その人を面白いと思わないと......ぶっちゃけ、やる気が出ない(笑)。

ほかのプロデューサーの場合は、自分の中にやりたいこととか、作りたい表現があって人を集めてるのかもしれないですけど、僕はそんなことはできなくて、目の前に面白い人がいて、その面白さをどう世の中に伝えるか、そういう発想じゃないと仕事できないんですよ。

――アイドルって、極端に言うと面白さという基準ではゼロの段階でも、かわいさやタイミング次第で、デビューして人前に出てきてしまうジャンルですよね。

佐久間 そうですね。だから僕は生粋のアイドルプロデューサーではないんだと思います。「よし、おまえら5人に声かけてもらってラッキー! 俺の理想のアイドルをつくるぞ~!!」とは絶対思えない。もちろんアイドルってジャンルにも、朝日奈央や野呂佳代みたいな、めちゃくちゃ面白いコもいるんですけど。

――そう聞くと、今回のプロジェクトで途中からオーディションに踏み切ったのが、佐久間さんの価値観において、本当に必然だったんだな~と痛感します。

佐久間 あのとき、目の前にいる5人の〝本当〟を、動かしたいって思ったんだけど、その5人の〝本当〟がブレてて、見つからなかった。

〝本当〟を見つけるには、ちゃんともう一回競ったり、もう一回内面を出してもらったりしないと、0から1になる〝1〟がつくれないなって、種火がつくれないなって思ったのが一番大きいですね。僕は種火がない人をプロデュースしたことがないんですよ。

――〝佐久間流〟のまったく新しいアイドルが生まれそうですね。メンバーひとりひとりについて改めてコメントをいただけると。

佐久間 齋藤は最初出会ったときは、ただ本当にふわっとした女のコだったんですけど、本当にお笑いが好きになって、ひとりでルミネtheよしもととか通うようになって、たぶん僕が仕事したアイドルの中でも一番に近いぐらいお笑い偏差値が高いコですね。

永松は最初に言ったように、本当にビックリです。振付師の竹中夏海さんは、「永松さんが見つかっただけでもラッキーですよね」って言ってました。藤崎は、オーディションからめちゃくちゃ面白かったんですよ。メンタルも強そうだし、いろんなところで活躍できるんじゃないかなと思ってますね。

夏目は本当に最初の面接で、僕も含めたスタッフがみんな好きになっちゃって。華があって、何より周囲に気配りもできて、すごいすてきな女のコ。あと日比野は本当に、一番思い入れもあるけど一番怒ってて。芸能経験もあるし、かわいいのになんでこんなフワフワしたままなのか?(笑)

――なんか急に娘に対するようなトーンに(笑)。

佐久間 そういうことかもしれない。一番心配なコですかね。佐々木はすごい一生懸命で、きっとアイドルに本当になりたくて、いろいろ努力をしてきたんだなってのが伝わったのと、あとアイドル畑でやってきたスタッフが「こういうコが力になります」って言ってくれたのが大きいですね。

高梨は、ドキュメントを通じての変化がすごくあって、共感する人がたくさんいるだろうし一番物語を背負ってくれるんじゃないかなと思いました。林は最初のオーディションからずっと面白かったです。気が強くて、頭も良くて。あと何よりビジュアルがすごいパッと目に入ってきてかわいいと思いました。

吉村はとにかく現場でも優しくて、スタッフがみんな本当にいいコだって言ってて。あとアイドル好きにすごく刺さるビジュアルだと思いますね。

――新人のアイドルって〝キャラが薄い〟〝インタビューの切り口が見つからない〟ってことが多いんですけど、この9人に関しては本当にそれがないんですよね。

佐久間 こんなことを言ったら不遜って言われるかもしれないけど、一応僕、人を見る目はあると思ってるんですよ。僕が面白いと思った人は面白い。さすがにこれは言ってももう怒られないよね?(笑)。

この9人は自信を持って面白いコたちだと思うし、ちゃんと売れてくれたら芸能界も世の中も面白くなると思うんで、よろしくお願いします!

これからYouTubeの中に冠番組があるような感じで、ちゃんとしたバラエティをお送りしながら、近いうちにライブができるよう楽曲に関しても準備をしているところです。関係者の方々、得意不得意も含めて紹介しますんで! もちろん関係者以外の方々も!!

●佐久間宣行(さくま・のぶゆき) 
1975年生まれ 福島県出身 
◯『ゴッドタン』『あちこちオードリー』(ともにテレビ東京)などを手がける敏腕テレビプロデューサー。現在は『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)のパーソナリティや、自身のYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。
公式Twitter【@nobrock】

●ラフ×ラフ 
◯2022年12月に始動した、佐久間宣行が総合プロデュースを手がける9人組のアイドルグループ。グループ名には「粗削りの"ラフ"と笑いの"ラフ"」「成長中の彼女たちがいろんな人を笑顔にする」という意味が込められている。
グループ公式 Twitter【@roughlaugh_o】 
グループ公式Instagram【@roughlaugh_official】 
グループ公式TikTok【@roughlaugh_official】 
公式YouTube【@roughlaugh_official】 

取材・文/山下剛一 撮影/YOROKOBI

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