1月10日から放送中の連続ドラマ「大奥」(NHK総合、毎週火曜 午後10時)が、SNSを中心に話題となっています。同作は、漫画家のよしながふみさんが描く“男女逆転の大奥”に、俳優の冨永愛さん堀田真由さん、仲里依紗さんら実力派のキャストとスタッフが新たな新風を吹き込む本作の魅力について、原作ファン目線で紹介します。

原作ものを手がけたら随一、脚本家・森下佳子の手腕が光る

 大奥は、紙・電子版併せて累計発行部数600万部突破した大ヒット作品。舞台は、江戸幕府三代将軍・徳川家光の時代に若い男子のみが感染する奇病「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」が流行し、男性の人口が女子の4分の1まで激減した世界です。

 そこでは、あらゆる家業が女性から女性へと受け継がれ、徳川幕府の将軍職もまた家光以降は女性が務めることに。大奥では将軍の威光の証しであるがごとく希少な男子を囲い、俗に“美男三千人”と称される男の世界が築かれていきます。

 いわゆる、“もしも”の世界=パラレルワールドを描いたこの漫画はこれまで一部が映画、ドラマ化されてきましたが、ラストとなる大政奉還までを初めて映像化するNHKの壮大なプロジェクトに製作決定の一報が出た当初から注目が集まっていました。

 そして、1月10日に初回15分拡大でNHK版「大奥」がスタート。同じくNHKの時代劇「大河ドラマ」と見まごうほどの豪華絢爛(けんらん)な映像世界に、よしながさんの描く男女逆転の大奥が遜色なく見事に映し出されていました。

 物語の序章に当たる第1話「八代将軍 吉宗・水野祐之進編」では、八代将軍に就任した吉宗(冨永さん)と、幼なじみとのかなわぬ恋を断ち切るため、大奥入りを決意した旗本の息子・水野祐之進(「「Hey! Say! JUMP」」中島裕翔さん)の目線で外界から閉ざされた大奥での生活やしきたりが紐解かれていきました。

 後に水野は吉宗に見初められ、最初の夜伽の相手である“ご内証の方”に選ばれるのですが、それによって死罪を言い渡されることに。しかし、吉宗の粋な計らいに命を救われ、進吉と名を変えて新たな人生を歩む……というストーリーでした。

 原作漫画1巻分の内容を丸ごと描いているため、原作よりも展開はかなりスピーディー。そして、「JIN-仁-」シリーズや「義母と娘のブルース」シリーズ(共にTBS系)といった原作漫画の実写化で成功を収めてきた脚本家・森下佳子さんの脚本は、短い時間の中で原作未読の視聴者に物語の重要ポイントを伝えるため、細かなエピソードを省きつつ、オリジナルのセリフやト書きで補い、無駄がない精巧な形に仕立て上げられ、うならされます。

冨永愛が見せてくれたドラマオリジナルの吉宗

 本作の魅力はもう一つ。これまで原作のある作品を数々手がけてきたNHKの審美眼を感じるキャスティングです。初回の放送では、吉宗役を務める冨永さんの仕上がりが、原作ファンからも「期待以上」と絶賛されました。

 冨永さんは、世界で活躍するファッションモデルで、近年は役者としても活躍されており、「グランメゾン東京」(TBS系)でのグルメ雑誌の編集長役や、「悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜」(日本テレビ系)での世界的ゲームデザイナー役など、重要なキャラクター役で登場し、話題になりました。ただ、時代劇はこれまでに経験がないため、キャスティングが発表された当初はビジュアル面が原作の吉宗に「ぴったり」だと喜ばれる一方で、演技について不安視する声もなかったわけではありません。

 しかし、黒の掻取(かいどり)をキリッと着こなし、美しい容姿の男たちがずらりと並ぶ御鈴廊下に立った冨永さんには完全に女将軍・吉宗の魂が乗り移っていました。冨永さんは公式のインタビューでも語っているように、以前から時代劇に出演することを目標にしており、独自で殺陣や乗馬の練習をしていたとのこと。そのため、時代劇が初めてでありながら、身のこなしにしっかりとその時代を生きている息吹を感じさせるのと同時に、冨永さんが本来持つカリスマ性が、大奥の男たちを従わせる吉宗の威厳に説得力を与えていました。

 さらに、水野と夜を共にするシーン場面では、武術について楽しげに語ったかと思えば、「私は着物や化粧に興味はないが、男に興味がないわけではないぞ」「今日からそなたは私の男じゃ」と水野に迫るなど、原作では気づかなかった、吉宗の心を許した相手にだけ見せる無邪気なかわいさや色気を、冨永さんが見事に体現してくれました。

脇を固める役者も豪華!斉藤由貴の怪演ぶりが話題に

 主役たちの脇を固める役者の豪華さも見逃せません。第1話では、吉宗の側近である加納久通役の貫地谷しほりさんに注目が集まりましたが、第2話からスタートした「三代将軍 家光・万里小路有功編」では、春日局役の斉藤由貴さんの怪演ぶりが話題になりました。

 春日局は、赤面疱瘡で亡くなった“本来”の三代将軍・家光の乳母。徳川の世を守るために、家光の血を唯一引く少女(堀田さん)を城中に迎え、家光として生活を送るよう強いるだけではなく、その少女との子を作るためだけに僧侶の万里小路有功(福士蒼汰さん)を強引に還俗させる恐ろしい人物です。一方で、その行動には「天下泰平を保つ」という春日局なりの正義と使命があり、決して乱心しているわけではありません。斎藤さんの鬼気迫る演技は確かに恐ろしいのですが、同時に誰も覆すことができないほどの固い決意を感じさせました。

 こうした力のある脚本と役者陣の演技が功を奏し、初回放送の同時・見逃し配信サービス「NHKプラス」における視聴数が、これまで同サービスで配信されたNHKの連続テレビ小説・大河ドラマを除く全ドラマの中で歴代最高を記録しました。第2話の放送中には、ツイッターで「#大奥リアタイ」のハッシュタグとともに多くの感想がツイートされるなど、NHK版「大奥」は好発進を決めました。

 同月24日放送の第3話「三代将軍 家光・万里小路有功編」では、本来の人生を奪われた家光と有功が少しずつ心を通わせていく姿が描かれます。前回の放送でも2人の複雑な心境を繊細に表現した堀田さんと福士さんの演技上でのやり取りにも注目していきたいと思います。

オトナンサー編集部

「大奥」に出演する冨永愛さん(2022年7月、時事通信フォト)