人類は不快な状況に耐えるための方法をいくつも発見、開発してきた。熱や痛みなら解熱鎮痛剤、アレルギーなら抗ヒスタミン剤、眠気の抑制ならカフェインといった具合に。
これらは病気の原因を治すのではなく、症状を緩和させたり無くしたりする「対症療法」と呼ばれる治療法だ。
そして今、アメリカ国防高等研究計画局「DARPA」は、「凍えるような寒さ」という不快な状況に耐えられるための、新たなる薬の研究に着手した。
その薬を開発する理由は、寒い戦場での兵士の戦闘能力を高めるためだ。だが兵士だけでなく、高地や極地へおもむく探検家や、低体温症など、将来的には一般の人にも役立つことになるだろう。
寒さに強くなる薬の開発に挑むのは、米ライス大学の生体工学者イェジー・サブロフスキー(Jerzy Szablowski)氏率いる研究チームだ。
サブロフスキー氏は、DARPAから「若手教員賞(Young Faculty Award)」を受賞し、「極寒に対する人体の回復力を一時的に強化」する非遺伝子医薬品の研究を行うと発表した。
人体がエネルギーを使って発熱することを「熱産生」といい、これには2つのやり方がある。1つは「ふるえ」だ。そしてもう1つが、「非ふるえ熱産生」というもの。これは「褐色脂肪細胞」を燃焼させることで発熱するというやり方だ。
私たちの体についている脂肪のほとんどは体脂肪を構成する「白色脂肪細胞」だ。これは食事の余分なカロリーを取り込んでたくわえておき、食事から十分エネルギーが補充されないときに使われる。
だが、また違うタイプの脂肪細胞もある。それが「褐色脂肪細胞」で、主に首や、わきの下、心臓や腎臓のまわりなど、限られた場所にしかない。
白色脂肪細胞が脂肪分を貯蔵し、エネルギーを蓄えるのに対して、褐色脂肪細胞には、脂肪分を分解して燃焼させる作用がある。
もともとこの細胞は、体に備わった発熱装置ともいえるものだ。冬の寒さなどで体温が下がった場合、蓄積してある脂肪を燃やして熱エネルギーを作り出してくれる。
白色脂肪細胞は「脂質」という脂肪酸でできているが、褐色脂肪細胞には「ミトコンドリア」が密集している。
ミトコンドリアは細胞のエネルギーを作り出す器官なのだが、寒くなると人体はこれに向けて「エネルギーを作れ」という合図(副腎髄質ホルモン)を出す。
するとミトコンドリアのエネルギー生産がはじまり、それによって体が温まってくる。
体に備わった発熱装置、褐色脂肪細胞を活性化させる薬
サブロフスキー氏が発見しようとしているのは、薬を使って褐色脂肪細胞を活発にしてやる方法だ。
「褐色脂肪細胞を活性化させる薬があれば、何週間もかけて寒さに慣れるのではなく、数時間でパフォーマンスを上げられるようになります」と、同氏は言う。
彼の今後の研究では、褐色脂肪細胞の反応に薬で介入するためのターゲット(例えば、タンパク質や細胞プロセス)を探すことが主なテーマになるとのことだ。
特に必要もないのに薬で褐色脂肪細胞を燃焼させることは可能なのか? それはいずれわかることだろう。
もちろん、DARPAの狙いが、寒さに強い兵士を誕生させることであるのは言うまでもない。
だが、こうした研究は高地や極地へおもむく探検家を温めたり、低体温症や肥満を治療したりと、戦場以外でも役に立つかもしれないとのことだ。
References:DARPA grant will fund hunt for drug that can keep people warm | Rice News | News and Media Relations | Rice University / DARPA Wants to Develop a Drug to Make People Resistant to Extreme Cold / written by hiroching / edited by / parumo
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