老後の家計収入の大きなウェイトを占める年金。定年直前、59歳の会社員Yさんは、20歳から就職までの3年間、国民年金に加入していなかった期間がありました。老後の不安を感じたYさんは妻のMさんとともに「ねんきん定期便」を持って筆者の元に訪れます。今回は牧野FP事務所の牧野寿和CFPが、Y夫妻の事例をもとに「ねんきん定期便」の見方と国民年金未加入期間がある場合の対処法を解説します。

「ねんきん定期便」の記載内容

Y夫妻のプロフィールは[図表1]のとおりです。

夫のYさんは定年直前の59歳です。就職後は現在まで厚生年金に加入しているものの、20歳から就職するまでの36ヵ月は国民年金に未加入でした。そのため、老後の生活に不安を感じたYさんは、妻のMさんと一緒に筆者の事務所に訪れました。

そこで、Y夫妻のセカンドライフを設計するにあたりまずは年金の受給見込額を知るため、お互いの「ねんきん定期便」の記載内容を筆者と一緒に見ることにしました。

また、「ねんきん定期便」の記載内容は[図表2]のとおりです。通常ははがきで、日本年金機構が定めた「節目の年」は封書で届きます。

50歳未満(※3)は、年金の加入実績をもとに年金額が記載されているため、65歳から実際に受給する額には程遠い金額です。

50歳以降(※4)は、現在加入している年金に60歳まで加入し続けたと仮定し、65歳から受取れる年金見込額が記載されています。さらに、60歳以上65歳未満は「ねんきん定期便」の作成時点の年金加入実績に応じた、65歳からの年金受給見込額が記載されています。

また、はがき(※5)の「ねんきん定期便」は、直近1年間の加入や保険料の納付記録が記載されています。一方、封書(※6)の「ねんきん定期便」には、20歳以降封書が届いた年齢まで加入していた「全期間」の年金保険料納付記録や、勤務先の会社名なども記載されています。

詳しくは日本年金機構HPの『「ねんきん定期便」の様式(サンプル)と見方ガイド(令和4年度送付分)』を参考に自身の「ねんきん定期便」をみれば、記載内容の理解がより深まるでしょう。

※ 日本年金機構HP「ねんきん定期便」の様式(サンプル)と見方ガイド(令和4年度送付分)

Y夫妻の「ねんきん定期便」の中身

さて、Y夫妻の直近のねんきん定期便は、夫Yさんは「封書」で、妻Mさんは「はがき」で届きました。

Yさんの「ねんきん定期便」には、65歳からの年金受給見込額と、20歳から就職するまでの36ヵ月、国民年金に未加入だった期間の記載がありました。

一方Mさんの「ねんきん定期便」には、65歳からの年金受給見込額と直近1年間の加入や保険料納付の記載がありました。なお、Mさんはいままで年金未加入の期間はありません。

国民年金は、20歳から60歳までの40年間(480ヵ月)加入します。もし60歳になって、厚生年金の加入期間を含め、国民年金に480ヵ月加入しておらず、60歳以降厚生年金に加入していなければ、「任意加入」として、国民年金(老齢基礎年金)の受給額を増やすことができます。

※ 日本年金機構HP「任意加入制度」  

したがって、Yさんの就職前の国民年金未加入分は、Yさんが60歳以降会社員でなければ、国民年金(老齢基礎年金)の受給額を増やすために、国民年金に「任意加入」することができます。

また、60歳以降も会社に勤める場合は、Yさんの場合36ヵ月分が、厚生年金の「経過的加算」として老齢厚生年金に加算されます。さらに、勤務した期間分、老齢厚生年金の受給額も増えます。

なお、「ねんきん定期便」の年金加入記録に「もれ」や「誤り」があれば、年金事務所に相談するか、『年金加入記録に「もれ」や「誤り」があった場合』を参照して、早急に対応することが大切です。

※ 日本年金機構HP「年金加入記録に「もれ」や「誤り」があった場合」

「ねんきん定期便」に記載されない年金もある

「ねんきん定期便」には、次のような「企業年金」や「私的年金」の記載はありません。よって、自身で受給額を把握して、老後の収入に加える必要があります。

厚生年金基金※1(代行部分を除く) ・確定拠出年金(企業型、iDeCo:個人型) ・確定給付年金(企業からの退職金や年金) ・国民年金基金(自営業者など国民年金の第1号被保険者が、国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして加入する公的な年金) ・加給年金※2

など

※1 全国信用金庫厚生年金基金HP「令和3年度 ねんきん定期便の変更点」 ※2 日本年金機構HP「年金見込額のお知らせ」では、加給年金額は除かれていますが、扶養している配偶者がいるときは加給年金額が支給されますか)

「ねんきん定期便」は老後の資産形成に不可欠

家計は生涯、収入と支出、貯蓄から成り立っています。そのため、老後の生活費について、あらかじめ家計に即したプランニングをしておくことが大切です。

Y夫妻は、[図表3]の統計値や「ねんきん定期便」を参考に、現在の支出から衣食住といった生活に必要な支出とそうでない支出に分けて、老後の支出額を推測。貯蓄を取崩す時期も無事決めることができました。

まとめ

このように、「ねんきん定期便」は、将来の年金受給見込額を伝えてくれるだけではなく、セカンドライフを設計するために大切な書類です。

なお、日本年金機構の「ねんきんネット」に登録すれば、封書で届く「ねんきん定期便」にしか記載されていない全期間の年金記録情報などを随時閲覧することができます。また、年金の繰下げ受給などのシミュレーションも可能です。

※ 日本年金機構HP「ねんきんネット」とは?

筆者は、従来より改善された「ねんきんネット」の利用も一考の余地ありだと考えます。

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

(※写真はイメージです/PIXTA)