ドラマ「今際の国のアリス」(2020年Netflix)や「ドラゴン桜2」(2021年TBS系)の出演で注目を浴び、2023年は出演映画の公開が3本控えるなどますますの飛躍が期待される女優・吉田美月喜。彼女が主演を務める映画「あつい胸さわぎ」が1月27日(金)より公開される。

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■若年性乳がんと恋愛をテーマに描いた人間ドラマ

今作は演劇ユニットiakuの横山拓也作・演出の舞台「あつい胸さわぎ」を、上海国際映画祭アジア新人賞を受賞したまつむらしんご監督と脚本家・髙橋泉とのタッグで映画化。“若年性乳がん”と“恋愛”をテーマに、乳がんを患った娘とその母の複雑に揺れ動く心模様を繊細とユーモアをもって描いた人間ドラマだ。幼なじみへの初恋に胸を躍らせるが、若年性乳がんを患い思い悩む大学生・千夏を吉田が、そして女手一つで千夏を育ててきた明るくおおらかな母・昭子を常盤貴子が演じる。映画公開を前に、主演を務める吉田が、本作の魅力や、撮影中のエピソードなどをたっぷりと語ってくれた。

■重いテーマを扱いながらも、温かさや明るさを感じられる作品

――最初にこの物語を読んだ時の感想を教えてください。

脚本の初稿を読ませていただいたのは、映画のオーディションの前だったんですが、乳がんという重くなりそうなテーマを扱っていながらも、温かくて明るい雰囲気を感じたんです。それがすごく不思議だなぁと思ったんです。その後、出来上がった作品を見て気づいたことが、私が演じた千夏はお母さんや(前田敦子演じる)トコちゃんとかいろいろな人から常に支えられている子だなって思って。きっとそれがこの作品の持っている“温かさ”だったのかなぁと思います。

――同世代の女性でも、乳がんという病気と悩みを抱える女性を演じることについて、どんなことを意識しましたか?

まず、若年性の乳がんについて調べてみようと思って、インターネットで検索してみたんですが、もういろんな情報が出てきて…。結局どれが正しくて、どれが違う情報なのかというのがよく分からなくなってしまったんです。それと同時に不安な気持ちにもなったんですが、それって千夏自身もそうだったんだろうなって。千夏は高校を卒業して大学に入学したての18歳で、撮影当時の私も18歳。18歳って自分では大人になったって思いながらも、結局は何も一人では解決できない、そういうモヤモヤした気持ち、どこか危うさみたいなものを抱えていると思うんです。そういう年頃の女の子というのを、意識したというよりは、「うん、分かる、分かるぞ」って共感しながら演じていた部分はあると思います。

――まだまだ親の力を借りなければならない年頃ですよね。

そうですね。母と娘の関係性も、この作品でとても大切な部分だと思っているのですが、私自身が結構母と仲が良い方だと思っているので、千夏とお母さんと重なる部分もあって、そういうところでも共感できる部分が多かったですね。

■大先輩・常盤貴子から感じた憧れの女性像

――そのほかに、撮影前に準備したことはありますか?

監督と一緒にお医者さんからお話を聞く機会をいただいたり、乳がんを患った方のブログを読んだりしました。先生からは患者さんの病院での表情や反応を教えていただき、宣告されたときにどんな気持ちだったかなどの実体験を読ませていただいて、それを参考に演じました。作品のテーマのひとつでもある恋愛は、今までの私の人生の中で感じたことで理解できることはあると思うんです。でも、乳がんになってしまうというのは、実際になった方にしか分からない部分がたくさんあると思ったので、その点については、撮影前から自分でも深く考えました。

――母親の昭子を演じたのは事務所の先輩でもある常盤貴子さん。共演した感想はいかがでしたか?

いやぁもう…本当にすごいカッコ良くて。私の目標として「芯のある女性になりたい」という思いがずっとあるのですが、常盤さんからはその憧れの女性像をすごく感じました。常盤さんがいるだけで現場に安心感が生まれるんです。まるで本当のお母さんかのように話しかけてくださったり、面倒を見てくださったりして、こんな大人の女性になりたいなって強く思いました。演技の部分でも、こんなに間近で直接演技を受け止めることができる機会もすごく貴重な時間でうれしかったです。

――常盤さんの演技のどんなところが印象に残っていますか?

東京国際映画祭のワールドプレミアで、お客さんと一緒に映画を見る機会があったのですが、見ていると会場から笑いが起きるところがあって。それは主に常盤さん演じる昭子が千夏や木村さん(三浦誠己)と関西弁で掛け合いをしているところだったんです。シーンとしては少し深刻な雰囲気もありながら、でもちょっと“抜ける”ところがある。常盤さんの演技で、そんな絶妙の間の取り方や雰囲気がすごく素敵だなって思いました。

――豪華な共演者に囲まれながらの映画主演作となるわけですが、どんな気持ちで臨みましたか?

主演の俳優がしっかりして、現場を引っ張らなきゃって思いではいたのですが、全然そんなことはできなくて…。常盤さんや前田さんが女優としていてくださることでの安心感があって、そこが今後の私の新しい目標になりました。ただ主演としての不安はあまりなくて、オーディションのときから監督がすごく私自身に寄り添ってくれて。演技のことよりもむしろ私の生い立ちや家族との話が中心で、撮影中も隣で「心配なことない?」とか一緒に話し合ってくださったんです。そのおかげで主演としての変なプレッシャーは感じずに現場に入れたんじゃないかと思います。

――監督から何か要望はあったんですか?

役について話し込むということはあまりなくて、どちらかというと俳優や主演としての在り方をすごく話してくださいました。オーディションのときから「一緒に戦ってくれる人を探しています」とお話しされていて、実際に役が決まったときに「一緒に戦ってください」と言ってくださって、それが私の中でいい意味でプレッシャーになったかと思います。撮影合間に常盤さんや前田さんともお話ししたんですが、「こんなに映画に懸ける情熱がある監督ってなかなかいないよね」って。監督が本当にこの映画が好きという気持ちが伝わってきて、それが私も頑張ろうという気持ちにつながっていたと思います。

■たくさんの現場を経験し、安心感のある女優になりたい

――クスっと笑ってしまうセリフや掛け合い、美しい海辺の町でのロケなど印象的なシーンがたくさんある本作ですが、印象に残っているシーンはありますか?

千夏が病気だと分かって、バイト先でター坊(佐藤緋美)に強く当たってしまうシーンがあるんですが、後ろの方に一匹の猫が歩いているんです。本当にたまたま猫が歩いていただけなんですが、千夏にとっては乳がんの宣告を受けるという非日常的なことが起きている中で、その一匹の猫の存在が、世界は普通に動いていて、今まで通り進んでいるっていう日常を感じさせるんです。そんな場面と猫のギャップが居心地よく感じられて、すごく好きなシーンの一つです。ロケ地は和歌山県の雑賀崎で日本のアマルフィ(世界遺産にも登録されているイタリア南部の美しい海岸)とも呼ばれている場所なんですが、本当に素敵な場所でした。撮影で場所をお借りしている地元の方から「頑張ってね」「できたら見るからね」と温かい声を掛けてくださって、すごくうれしくて。そしてこの町で生きていた親子なんだなというイメージがすごく膨らむ場所だったかなと思います。

――思い出に残っているエピソードを教えてください。

和歌山での撮影の最終日に、市場に行ったんです。そこで常盤さんやスタッフさんと話をしながら歩いているときに、「私、魚が好きなんです」と常盤さんと話していたら、後日我が家に大きな段ボール箱が届いて。中には大量のお魚が入っていて、「家族で食べてね」と常盤さんが送ってくださったんです。私だけでなく家族のこともこうして思ってくださって、あのときの会話も覚えていてくださって…本当に素敵だなって。私の中でとても思い出深い出来事のひとつです。

――2023年は本作も含めて、すでに出演映画の公開が3本も控えています。また二十歳という節目も迎える年となりますが、どのような女優を目指していきたいですか?

私の人としての目標でもある「芯のある女性」というのは演技でも同じだと思っていて、役者として芯のある方は、どんな役でもブレずに正確に的確に演じることができると思うんです。今回の「あつい胸さわぎ」、(昨年公開された)「メイヘムガールズ」、「カムイのうた」(2023年秋公開予定)と主演をやらせていただいていますが、まだまだ自分の演技だけで精一杯。主演らしいことは何もできていないと感じたので、これからいろんな現場を経験して安心感のある女優になりたいなと思います。でも、まだもうしばらくはいっぱいいいっぱいになっちゃうかもしれないですけどね(笑)。

■吉田美月喜 プロフィール

よしだ・みづき=2003年3月10日生まれ、東京都出身。ドラマ「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」(2020年日本テレビ系)、「今際の国のアリス」(2020年Netflix)、「ドラゴン桜2」(2021年TBS系)、映画「メイヘムガールズ」などに出演。2023年は「あつい胸さわぎ」のほか、「パラダイス/半島」、「カムイのうた」(主演)などの出演映画の公開を控える。2月25日(土)から放送予定の日本テレビドラマ「沼る。港区女子高生」ではメイン出演が決定している。

映画「あつい胸さわぎ」で主演を務めた吉田美月喜にインタビュー! /撮影=山下隼