(国際ジャーナリスト・木村正人)

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ロンドンウクライナの政策専門家やNGO(非政府組織)代表でつくる女性だけの政策提言グループウクライナの勝利のための国際センターICUV)」のハンナ・ホプコ元最高議会議員が24日、筆者のZOOMインタビューに応じ、今年、先進7カ国首脳会議(G7サミット)議長を務める岸田文雄首相に「ウクライナの核施設からロシアを撤退させて」と訴えた。

「東京を訪れ、核の安全について協議してきた」

  キーウウクライナ市民活動ネットワークに参加していたホプコ氏は、親露派のビクトル・ヤヌコビッチ大統領を追放した2014年ユーロ・マイダン革命後の最高議会選挙で当選し、外交委員会の委員長を務めた。ホプコ氏はICUVなどでつくる代表団の一員として来日し、外務省防衛省、首相官邸、国際協力機構(JICA)、企業関係者にさらなる支援を要請した。

「東京を訪れ、世界の核の安全について協議してきたばかりです。次のG7サミットは広島で開催されます。先の大戦では広島の市民に原子爆弾が使用されました。いまロシア原子力を使って世界を恫喝しています。それを阻止しなければなりません。ロシアを止める必要があります」とホプコ氏は話し始めた。

 5月にお膝元の広島市でG7サミットを開く岸田文雄首相は「核兵器による威嚇、その使用を断固として拒否」する姿勢を鮮明にしている。

 ホプコ氏は「日本はロシアに対して、ウクライナの核施設でのすべての行動を直ちに停止するよう求めた国際原子力機関(IAEA)の決議を履行して、ザポリージャ原発から撤退するよう要求することができます」と強調する。

「ロシアのウクライナに対する戦争に膠着状態はない」

「日本にはロシアが戦術核兵器の使用をちらつかせて世界をゆすることを阻止する道義的権威があります。日本はG7、20カ国・地域(G20)に働きかけてロシアに圧力をかけ、厳しい制裁を科す一方で、ウクライナにもっと武器を提供するよう求めることができます」

 ホプコ氏は日本が今後2年間、国連安全保障理事会非常任理事国を務めることにも注目する。

「国連安保理における日本のプレゼンスを利用して核の安全に関する解決策を採択し、ロシアや中国、その他の核保有国に対して、核の威嚇を諦めるよう要求することも重要です」(ホプコ氏)

 しかし米欧首脳はウラジーミル・プーチン大統領を追い詰め過ぎたら核兵器を使いかねないという核エスカレーションのシナリオに取り憑かれている。

ロシアウクライナに対する戦争に膠着状態というものはありません。激しい戦闘が東部ドネツクルハンスク両州の前線に沿って続いています。ロシアの占領軍は町や村を物理的に破壊しています。彼らがウクライナの村落でしていることは悪夢以外の何物ではありません」(ホプコ氏)

 ウクライナ軍発表ではロシア軍の死者は12万2170人。英大衆紙は米情報機関の話としてロシア軍の犠牲者は18万8000人と報じたが、真相は藪の中だ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のバリー・ポーゼン教授は米外交誌フォーリン・アフェアーズで「米国の推計によれば当時も今もロシアウクライナの犠牲者の比率は1対1だ」と指摘している。

昨年、ロシア軍に攻撃された医療機関は747件

 ホプコ氏によると、ロシアは意図的にウクライナの都市やコミュニティーで産科産院、子供病院を攻撃している。病院や軍事病院を破壊し、医師が負傷兵を治療できないようにしている。

「マリウポリの小児科・産科病院への爆撃で多くの犠牲が出たのを覚えておられるでしょう。これは人道に対する戦争です。ロシアはテロ国家です」と憤る。

 世界保健機関WHO)の監視システムは昨年2~12月ロシア軍の攻撃を受けたウクライナの医療機関は747件にのぼると報告している。

ロシア軍は組織的に国際人道法に違反し、現実に人道的大惨事を引き起こしています。医療関係者や医療施設にも攻撃を加えています」とホプコ氏は糾弾する。

ロシア軍ウクライナ国民へのテロを続けています。私は1カ月前にキーウにいましたが、常に大規模なロケット攻撃が行われていました。ロケットミサイル攻撃、カミカゼドローン(自爆型無人航空機)を組み合わせて重要なエネルギーインフラを破壊し、ウクライナ国民を凍えさせようとしています」

ウクライナ軍がさらに多くの武器、戦車、戦闘機を求めているのは東部戦線で戦うためだけでなく、ロシア軍の新たな攻勢に備えるためです。ロシアウクライナでより多くの人を殺すために動員をかけています。100万人が追加動員されると予想されています。南部や東部だけでなく、北部のベラルーシから再びロシア軍が攻めてくる恐れもあります」

「独政府がウクライナにレオパルト2を送ることを決定」

 ウクライナウォロディミル・ゼレンスキー大統領は春から初夏にかけて予想されるロシア軍の攻勢に備えるため、ドイツ製の主力戦車レオパルト2と米国製の主力戦車M1エイブラムスの提供を要求している。複数の独メディアは24日「ドイツ政府が同盟国(ポーランドフィンランドか)とともにウクライナレオパルト2を送ることを決定した」と速報した。

 ドイツレオパルト2の提供をためらってきたのは、ロシアの勝利は避けたいものの、ウクライナが勝利すれば追い詰められたプーチン氏が核兵器を使うかもしれないという恐怖心が根底にある。北大西洋条約機構NATO)加盟国の中で突出してウクライナを支援するのは回避したいという政治的な配慮も働く。

 結局、ドイツ政府は14両のレオパルト2を送ると表明した。レオパルト2を保有するポーランドフィンランドのほか、スペインノルウェーも提供する可能性がある。米国は30両以上のM1を提供するとみられている。

ドイツは集団で決定するのを待っていました。米国がM1を提供することが必要だとの議論もありました。ドイツウクライナレオパルト2を提供すれば、ロシアが戦争をエスカレートさせることを恐れていたのでしょう。しかし現実には戦車や戦闘機が不足しているためウクライナは兵士を失い、ロシアは新たな攻撃を準備しているのです」

「韓国の戦車でも英国の戦車でも構いません。ロシア軍の新たな攻撃から国民の命を守るには戦車と戦闘機が必要です。ドイツロシアの石油やガスに依存してきましたが、現在はそれを止めています。戦車がなければウクライナが交渉に応じると期待している人がいるのかもしれませんが、わが国民の96%がこの戦争に勝っていると信じているのです」

「私たちはロシアを打ち負かしたい」

 ホプコ氏は「日本がエネルギーシステムを提供してくれたことや約2000人のウクライナ避難民を受け入れてくれたことに感謝します。ウクライナの領土保全と主権を支持し、財政支援もしてくれました。ロシアに制裁も科しました。私たちはロスアトムを含むロシア原子力産業を制裁し、原子力技術分野でのロシアとの協力を止めるよう求めています」と語る。

 日本は先の大戦や2011年東日本大震災のあと見事な復興を遂げた。ロシア軍ミサイルロケット攻撃を受けたウクライナでは多くの瓦礫が発生したため、日本から洗練された瓦礫の処理方法を取り入れている。ホプコ氏はG7議長を務める岸田首相ウクライナへの財政・人道支援、武器供与、対ロシア制裁の強化を世界全体に働きかけるよう求める。

 ホプコ氏は「私たちはロシアを打ち負かしたい」と力を込めた。しかし、その道のりは険しい。ロシア軍は東部ハルキウ州と南部ヘルソン州から戦略的に撤退した。短くなった接触線に沿って防御陣地を掘り、コンクリート製障害物や掩蔽壕(えんたいごう)を築いている。地雷も敷設しているだろう。ウクライナ軍が防御陣地を突破するのは並大抵ではない。

 ウクライナ戦争を終わらせる方法について、ホプコ氏は「ロシアの敗北によってしかこの戦争を終わらせることはできません。ウクライナ領土からロシア軍無条件に撤退させ、あらゆる損害に対する賠償を含む国際的に誤った行為の全ての法的結果を負担しなければならないという国連総会決議を履行するよう岸田首相にはG7で指導力を発揮してほしい」と訴える。

「より多くの武器をより早く受け取ることができれば、ウクライナ軍はより良い装備で反攻作戦を継続し、さらに領土を解放することができるようになります。西側諸国がその責任を理解し、より多くの武器を提供してくれることを期待しています。ロシアにもっと厳しい制裁を与え続けることが重要です」

 G7議長としての岸田首相の責任は重大だ。

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