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 鉱山の資源が枯渇すると地下に掘った穴や坑道は使用されなくなり「廃坑」となる。目的の資源はとれなくなってしまったが、また別の使い道があるという。

 風力や太陽光のような再生可能エネルギーの課題の1つは、余分に作られた電気をどうやって溜めておくのかということだ。

 その解決法として、利用されなくなった廃坑を「重力蓄電システム」として再利用することができるという。

 国際応用システム分析研究所が提唱するアイデアでは、まず余った電気で砂などの重りを廃坑のリフトで持ち上げる。そしてエネルギーが必要になったら、リフトごと重りを落下させてタービンを回し、これによって発電する。

 つまりは余剰電気を位置エネルギーとして蓄えておき、重力によって発電するのである。

【画像】 古くて新しい「重力蓄電システム」

 じつは重力蓄電システムは、古くて新しい技術だ。たとえば昔からある代表的なものとして、ダムの「揚水発電」がある。

 ダムでは夜間など電力需要の低い時間帯に、余った電力で水を上に組み上げておく。昼になったら水を下に流し、それによって回転するタービンで発電する。今回の廃坑を転用したシステムも基本的にはこれと同じだ。

 こうした重力蓄電の優れている点は、普通の電池のように自己放電しないところだ。

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 普通の電池ならば、使わなくても放置しておくだけで、少しずつ電気が減ってしまう。

 だが重力蓄電の場合、エネルギーは物体の位置エネルギーとして蓄えられるので、放置したからといって減ってしまうことはない。

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廃坑を重力蓄電システムに転用

 一方、廃坑を重力蓄電システムに転用しようというアイデアには、それならではの魅力がある。

 1つは、安価に利用できる廃坑がすでに世界中に無数に存在することだ。

 廃坑とはいえ、ほとんどの場合、基本的なインフラは整っており、電力網にも接続されているので転用も楽だ。

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 もう1つの魅力は、地域社会に大きなメリットがあることだ。

 一般に、鉱山が閉鎖されれば、大勢の失業者が出る。もしその地域が社会経済を鉱山に大きく依存していた場合、それは壊滅的な打撃になるだろう。

 だが閉山してからも、蓄電システムとして利用されるのなら、そうした悪影響をずっと小さくできる。

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世界の電力をまかなえる大きな可能性

 今回、提案されている「地下重力蓄電(UGES)」では、まず電力需要が少ない時間帯に、廃坑のリフトコンテナで大量の砂を上部まで運んでおく。

 そして電力が必要になったら、砂入りコンテナリフトで下降させる。このとき回生ブレーキを使って発電し、電気が必要な各地へと送電するのだ。

 研究チームの試算によると、地下重力蓄電のコストを1キロワット時に換算すると、1~10ドル(130~1300円)であるという。

 ほとんどの廃坑は中国、インドロシア、米国に集中しているとのことだが、その効果は絶大。世界全体で7~70テラワット時を発電できる可能性がある。

 ちなみに、2021年の世界のエネルギー消費量は約25テラワット時。まさに世界の電力需要をカバーできるほど、電気を蓄えておけるのだ。

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脱炭素社会へ向けての革新的なアイデア

 まだ初期段階のアイデアだが、再生可能エネルギーをどう貯めるのかという課題に、大きな影響を与える可能性がある。

 研究チームの次のステップは、より大きな規模で実現可能性を検証することであるそうだ。

 研究チームのベヘナム・ザケリ氏は、廃坑を蓄電システムに転換するというアイデアについてこう述べている。

脱炭素社会を実現するには、既存のリソースを活用した革新的な解決策に基づき、エネルギーシステムを見直す必要があります。

廃坑を電池に転換するというアイデアは、身の周りにたくさんある解決法の一例です。使い方をただ変えるだけでいいのです

 この研究は学術誌『Energies』(2023年1月11日付)に掲載された。

References:Abandoned mines could be turned into gravity 'batteries 'that could power the entire planet / written by hiroching / edited by / parumo

 
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廃坑を「重力バッテリー」として利用することで、世界の電気をまかなえる可能性