(藤谷 昌敏:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員・元公安調査庁金沢公安調査事務所長)

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 米国シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)は2023年1月9日中国軍2026年に台湾へ上陸作戦を実行すると想定し、独自に実施した机上演習(シミュレーション)の結果を公表した。大半のシナリオで中国は台湾制圧に失敗したが、米軍や自衛隊は多数の艦船や航空機を失うなど大きな損失を出す結果となった。

「要は日本」と指摘

 CSISは(1)台湾が中国に強く抵抗、(2)米軍が即座に参戦、(3)日本が米軍による国内基地の使用を容認などの条件を「基本想定」と位置づけた。この想定で実施した3回の演習のうち2回で中国軍は台湾の大都市を制圧できず、物資補給が10日間で途絶した。残る1回の演習では中国軍が台湾南部に上陸して台南の港湾を支配したが、米軍の空爆で港湾は使えなくなり3週間ほどで態勢を維持できなくなった。CSISはこのケースについて「決定的な中国の敗北と判断されないが中国に不利な膠着状態だ」と分析した。

 このシミュレーションでは、だいたい米軍は、原子力空母2隻、ミサイル巡洋艦などの艦船7~20隻、死傷者約3000人、行方不明者と合わせて約1万人、航空機168~484機を失う。日本の自衛隊は中国から攻撃を受けた場合に参戦し、軍用機112~161機と艦船26隻を失う。台湾軍は航空機の半数以上とすべての艦船26隻を失う。中国軍は、航空機155~327機、艦船138隻、地上での死傷者7000人以上、加えて海上で約7500人が死亡するという。

 CSISは台湾防衛をめぐり「オーストラリアや韓国などの同盟国も何らかの役割を果たすかもしれないが要は日本だ」と指摘し、「日本の米軍基地を使えなければ米国の戦闘機などは効果的に戦闘に参加できない」と警鐘を鳴らす。その上で日本と外交・防衛協力を深めるべきだと提言した。

 中国軍は上陸作戦と並行して台湾向けの物流を寸断する可能性があり、米国の参戦が遅れるほど台湾は物資不足に陥り、戦闘で不利になる公算が大きい。米軍が介入せずに台湾が単独で戦うケースの演習では中国が勝利する結果となった。

 CSISは机上演習の結果を踏まえ、米国は長射程の対艦巡航ミサイルの在庫を増やすべきだとも訴えた。台湾に向かう中国の艦船を遠方から攻撃できるほど米軍の損失を抑えやすくなるからだ。(参考:CSISホームページ、各報道)

日本が受ける大きな被害

 シミュレーションの中で日本の自衛隊が受ける被害は、軍用機112~161機と艦船26隻とされている。艦船については、おそらく最新鋭の空母「いずも」「かが」が米海軍との共同作戦に参加して、空母打撃群を編成することになるだろう。米軍の場合、原子力空母1隻に対し、イージス・システム搭載のミサイル巡洋艦が1~2隻、対潜水艦対策として駆逐艦3~4隻、原子力潜水艦1~2隻、補給艦隊を加えて1個空母打撃群となっている。日本の場合は、空母1隻に対して、イージス・システム搭載の対空用護衛艦1~2隻、対空・対潜用護衛艦2隻、対潜水艦潜水艦そうりゅう」級1隻、これに補給艦隊を組み合わせて運用される可能性が高い。

 2021年現在における海上自衛隊の主たる戦力は、護衛艦47隻、通常動力型潜水艦21隻、機雷戦艦艇22隻、哨戒艦艇6隻、輸送艦艇11隻、補助艦艇30隻となる。損害が26隻となれば、単純な計算だが、総数137隻のうち約19%の損耗率となり、特に空母などの大型艦艇が喪失すれば、再建までに4~5年の歳月と莫大な費用がかかるのは明白だ。

 こうした海上自衛隊の損害だけではなく、中国側が日本国内の米軍基地自衛隊基地、発電所などの重要施設にミサイル攻撃を仕掛けてくる恐れもある。日米海軍を守るために台湾沖に展開しなければならないイージス艦(現10隻)は、日本本土を守るためにどれだけの数を割けるのだろうか。今後、安保3文書によってイージス艦は12隻体制となるが、それだけでは、中国側のミサイルによる飽和攻撃に対して、対応することは難しい。シェルターもない日本にとって、民間施設への攻撃があれば、人的被害も甚大なものになる可能性がある。

負傷者の治療など課題は山積

 台湾有事になれば、出動した海上自衛隊の負傷者をどこで治療するのかも問題となる。海上自衛隊には病院船がないため、緊急度の高い負傷者が大量に出た場合、地上の病院に頼らざるを得ない。医薬品の供給、病院や医師の確保など、どのように連携できるのかが問題だ。

 台湾に在住する日本人の避難も現状ではかなり難しい。現在、日本人2万500人ほどが台湾各地に在住している。加えて日本に避難を希望する台湾人がいるならば、中国軍の攻撃にさらされるリスクの中、迅速で大量の輸送力を確保する必要性がある。民間の船の徴用が可能ならば、補完的に活用できるが、現在の法制度では迅速な民間船の徴用は困難だ。

 台湾は面積約3万6000平方キロメートルの狭小な島で、そこに2340万人が暮らしている。中国側の攻撃を受ければ、大混乱に陥るのは必然で、住民の避難ルートの確保や避難場所の防衛、食料や水の供給に陸上自衛隊が関わる可能性もある。戦闘前後の治安回復、ゲリラなどによるテロ防止なども、台湾軍と警察に対する支援が必要だろう。

 戦後復興の問題もある。直接的な戦闘で敗れたとしても中国の経済力や軍事力が急激に落ち込むわけではない。停戦になっても、しばらくは中国側の動きを警戒しなければならない。例えば、復興のための資材や食料などを供給する海上交通路を警備する必要がある。また、再度の中国側の攻撃に備えて台湾の港湾設備や空港、軍事基地の防衛や再建のために陸上部隊の駐留も検討しなければならない。さらに台湾への兵器や資金の提供を長期的に行わざるを得ない事態も想定される。

台湾有事の抑止は日本の大きな責務

 CSISによるシミュレーションで分かったのは、中国側の攻撃が失敗するといえども、日米中ともに甚大な損害を受けるということだ。参戦した国の軍事力が低下するのはもちろんのこと、経済力や国家の威信も低下する。

 攻撃を仕掛けた中国では、失敗の責任を問う声が沸き上がり、習近平の失脚と体制の刷新につながる可能性がある。分断と威信低下に悩む米国においては、国内不安と政治的混乱を呼ぶ恐れがある。日本も朝鮮戦争以来の戦死者が出ることは確実で、時の内閣は責任を問われ、反対派により国内が混乱状態になる可能性もある。

 要するに台湾有事は、日米中に何も利益をもたらすことはなく、逆に大きなコストを課すことになる。日本は、今年、国連安保理において最多回数の非常任理事国になった。台湾有事を抑止することは、ウクライナ侵攻を終結させることに並ぶ、日本の大きな責務なのだ。

[筆者プロフィール] 藤谷 昌敏(ふじたに・まさとし
 1954(昭和29)年、北海道生れ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、一般社団法人経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員。

◎本稿は、「日本戦略研究フォーラム(JFSS)」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。

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