ウミグモは、体のほとんど部分が脚からなる、アンバランスな容姿を持った海で暮らす節足動物である。
さらにその生態も奇妙だ・ドイツの研究者たちが、ウミグモが生殖器官と肛門まで再生できることを知って、唖然としている。
節足動物が手足を再生できることはよく知られているが、新たな研究では、これまでの常識をくつがえすことが起きた。
節足動物であるウミグモは手足はおろか、下半身までまるっと再生させてしまうことが確認されたのだ。
「こんなこと誰一人、予想だにしませんでした」と、フンボルト大学ベルリン校のゲルハルト・ショルツ教授はその驚きを口にしている。
生物には、体の再生能力を持つものが多く存在する。
ヒトデなら体全体を再生できるし、トカゲなら新たに尻尾を生やすことができる。ほんの少しの組織から全身を復元する扁形動物もいる。
私たち哺乳類の場合、再生能力はせいぜい肝臓・組織・皮膚に限られる。さすがに手足を失えば、新たに生えてくるようなことはない。
[もっと知りたい!→]驚異の再生能力を持つプラナリアを宇宙に持って行ったところ、頭が2つに増えちゃった!
一方、ムカデやカニなど、節足動物の中に手足を再生できる仲間がいることは周知の事実だ。ところが節足動物で、それ以外の部分まで再生できる生物がいることは、これまで知られていなかった。
ウミグモの一種、Pycnothea flynni. / image credit: Museums Victoria / CC BY 4.0
肛門と生殖器を再生。驚異のウミグモの下半身再生能力
『PNAS』(2023年1月23日付)に掲載された研究では、節足動物であるヨロイウミグモの仲間(Pycnogonum litorale)23匹の後ろ足と下半身を切断してみた。
すると若いウミグモのほとんどが、手足はおろか、後腸・肛門・筋肉組織、さらには生殖器まで再生させたのだ。
再生したウミグモ19匹のうち、16匹は失われた部位を1つ以上再生させ、14匹が下半身を回復させた(ただし大人のウミグモ4匹では、まるで再生されなかったそうだ)。
しかも体を切断されたというのに、ウミグモの90%がずっと生きることができ、脱皮までした個体もいた。
右脚3本目と体幹最終節全体が完全に再生し、第4対の脚と胴体端が再生したウミグモ / image credit:Humboldt University of Berlin / Georg Brenneis
ウミグモのような脱皮動物は硬い殻を持っている。ショルツ教授によると、このせいで手足以外は再生できないだろうと考えられていたのだそうだ。
ところが、今回の実験により、それが間違いで、数週間から数ヵ月のうちに下半身まで再生できることが明らかになった。
とは言っても、再生はそう容易いものでもないようだ。後ろ足を切られたウミグモの中には、再生しても1、2本足りないものもいたそうだ。
人間の再生医療につながる可能性も
ショルツ教授は、この発見によって別の種の研究も進むことだろうと語る。「ほかの節足動物も同じことができるのか確かめなければ」と彼は言う。
ショルツ教授自身、同じ実験を昆虫やカニなどで試してみる予定であるとのこと。
この画期的な発見は、ただ興味深いだけでなく、いつか人間の医療にも革命を起こすかもしれない。
このような研究が、手足を失った人間の患者の再生医療のヒントになるかもしれないという。
References:Some young sea spiders can regrow their rear ends / Sea spiders can regrow lost anuses and sex organs - leaving scientists stunned | Science & Tech News | Sky News / written by hiroching / edited by / parumo
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