令和3年度の40代単身世帯の平均貯蓄額は818万円、40代2人以上世帯の平均貯蓄額は916万円といわれています。そのようななか、高校教師であるAさんは、42歳で驚きの貯蓄額を達成しました。みていきましょう。

無理せず大きく資産を増やした高校教師のAさん

Aさんは42歳の私立高校の教師です。35歳で結婚、37歳で第1子が誕生しました。現在の年収はボーナスも含めて約680万円、手取りにすると月約38万円です。

40代単身世帯の平均貯蓄額は818万円、40代2人以上世帯の平均貯蓄額は916万円です。中央値は40代単身世帯で92万円、40代2人以上世帯で300万円となっています。(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査令和3年)」より)比較してみると、Aさんはまずまずの資産作りに成功しているといえますね。ですが、Aさんは親から贈与を受けたわけでもなく、FXや仮想通貨といったものに投資をしたわけでもありません。

Aさんは大学時代、父親が株の投資に失敗しているのを間近で見ており、アルバイトしながら授業料を自分自身で捻出した経験があります。そのため、もともと真面目で几帳面なAさんは「大きなリスクは負いたくない」との考えから、教員として勤め始めたころから負担のない程度で分散投資・積立投資を基本として蓄財してきたのです。そんなAさんは約2,000万円の資産作りに成功しています。

Aさんの資産づくりの方法

Aさんが20年かけて2,000万円の資産を作ってきた概要は次のとおりです。

・毎月5万円を積立投資で20年間

・結婚するまでの期間(20代後半~30代前半)はボーナスなどのまとまったお金をREITやETF等で分散投資

逆算すると、年3%程度の利回りとなります。Aさんに成功の秘訣を聞いてみました。

「もちろん、順調に増えていったわけではありません。2008年のリーマンショックでは痛い目にも合いました。ですが、毎月の積立投資は頑張って続けてきました。いまも将来のために続けています。教師という仕事は忙しいので、若いころから遊ぶ時間もなく、お金もあまり使いませんでした」

これからの資産作りについても質問してみました。

「私はいま、年収680万円程度ありますが、年々、社会保険料や税金の天引きが大きくなっている気がしますから、毎月の手取りといってもそれほど余裕があるものではありません。

これからは子どもも大きくなってお金もかかってきますし、ボーナスも独身時代と違ってまとめて運用というのもなかなかできなくなってきています。そう考えると不安な部分もありますね。それに、私立高校に勤めていると少子化問題も不安です。10年後、20年後には学校や収入はどうなっているのだろう、と」

資産作りを成功させるために重要なポイント

Aさんとお話しして、とても真面目な印象を受けましたが、それ以上に将来のことをしっかり考える方だと実感しました。Aさんは、大学卒業後、高校教師としての約20年間、お給料からの積立投資とボーナス運用で約2,000万円を作り上げました。これは、「複利効果」「長期運用」「分散投資」といった資産作りの基本を確実に守ったからです。

1.複利効果

複利効果によって大きな運用益を期待できるのも長期投資ならではのメリットです。複利効果とは、運用益を再投資することで利益が増幅していく効果のことです。

投資信託では、運用実績に応じて分配金が支払われますが、これを元本に組み入れて再投資すれば、「利益が利益を生む」状態を作り出すことができます。つまり、雪だるま式に増やし続けることができるのです。さらにAさんは20年という長期投資で、複利の効果を大きくしました。計算すると、この複利効果の恩恵は積立投資部分だけでも約400万円になります。このように大きな利回りでなくても、長期の複利効果で安定的に増やしていくことができます。

なお、「つみたてNISA」というのがありますが、通常の投資では利益に対して20.315%の税金がかかりますが、つみたてNISAでは複利効果で得られた利益のすべてが非課税になるといったメリットがありますから、積立期間中はこの税金部分も再投資できることから複利の効果をさらにアップさせることができます。

2.分散投資

投資信託は価格変動のある商品のためどうしても元本割れになるリスクがあります。分散投資は、複数の商品で運用することで、元本割れのリスクを低く抑えることができます。株式や債券、国内もの・海外ものといったように、投資対象を複数に分散させることでリターンの平準化が望めます。

投資信託には「バランスファンド」というものがあり、国内外の株式、債券等に分散投資するもので、この1つのファンドで投資対象の分散ができるので、投資初心者でもチャレンジしやすいファンドです。

3.ドルコスト平均法

ドルコスト平均法とは、Aさんのように毎月一定の金額で定期的に購入し続ける方法をいいます。利益を得るためには、購入するタイミングが重要です。

たとえば、まとまった資金で一度に購入しようとした時に購入価格が高い時に買ってしまうと得られる利益は小さくなってしまいます。ですから、一定額を毎月購入し続けることで、「安い時には多く買う」「高い時は少なく買う」ことができ、効率的な購入が実現できます。Aさんは、投資期間中、リーマンショックという株価が暴落した時期も積立投資を継続しましたが、これにより「安いときに多く買う」ことができ、その後の収益に繋がった、と考えられます。

2023年を迎えて注意すべきこと

2023年の世界経済は冷え込みが予想されています。株価の暴落もあるかもしれません。ですが、積立投資をされている人は目先の株価に踊らされず、ドルコスト平均法の原則を思い出し、続けていくのがよいでしょう。退職金の運用をお考えの時期の方もいらっしゃるでしょうが、一度に大きな金額を投資するのではなく、何回かに分けて投資することをおすすめします。投資先だけでなく、時間も分散して投資するのがベストです。

さらに、長期で続けることが積立投資では重要ですから、無理のない金額で長く続けるように心がけましょう。40歳からスタートしても60歳まで20年あります。

なお、昨年から引き続き2023年は身の回り品の値上がりが続きそうです。実は投資の大敵は「インフレ」です。たとえば、物価が年2%上昇したのに資産運用を年1%で運用すると、実質的に資産は目減りしてしまいます。日本はデフレが長いあいだ続きましたが、インフレに転じるとより高い利回りでの運用が必要になるため資産が増えにくくなるので注意してください。

日本人は預貯金で金融資産を持っている人もまだまだ多いですが、低金利での運用は資産を減らすことになってしまいます。増やすことがなかなか難しい時代に入ったかもしれません。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)