誰もが知る歴史上の人物、織田信長が生きた激動の30余年を描く東映創立70周年記念作品『レジェンドバタフライ』(公開中)が、いよいよ本日、スクリーンに登場した。織田信長役を木村拓哉、濃姫役を綾瀬はるかが演じ、脚本は「コンフィデンスマンJP」シリーズなどを手掛けてきた古沢良太。「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督が務めるなど、日本最高峰のスタッフ、キャストが集結して、濃姫と共に生きた信長の知られざる物語を圧倒的なスケールでつづる。MOVIE WALKER PRESSでは、大友監督と古沢にインタビューを敢行。お互いへの並々ならぬ信頼感と共に、木村に託した想いや、いかにして“新しい信長”を作り上げていったのか、完成までの道のりを語り合ってもらった。

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■「ものすごいカードがそろった」(大友)、「大友監督に撮っていただけたのは理想的」(古沢)

長年敵対関係にあった国同士の政略結婚という最悪の出会いを果たした、信長と濃姫。水と油のような関係の2人は次第に強い絆を育んでいくが、信長は天下統一の戦いに明け暮れ、次第に非情な魔王と変貌していく。本当の信長を知る濃姫はなんとか引き止めようと心を砕くが、運命は本能寺へと向かっていく。信長と濃姫を演じ切った役者陣について、古沢は「木村さん自身が抱える孤独を、信長に重ねているようにも感じた」、大友監督は「木村拓哉綾瀬はるかは目の離せない役者」と印象を語った。

――古沢さんの完全オリジナル脚本で描かれる本作。古沢さんのもとには、3年ほど前に東映から「木村拓哉さんで信長の映画を作ることが悲願」という連絡があったそうですね。

古沢「かねがね、政略結婚で結ばれた夫妻をモチーフにしたロマンティックコメディ書いてみたいという想いがありました。そんななか東映さんから『木村拓哉さんで信長を』という相談を受け、歴史上もっとも有名な政略結婚カップルとも言える信長と濃姫でやってみたらどうだろうと提案させていただき、この企画が始まりました。僕は、木村さんの数々のドラマを楽しませてもらってきた世代です。憧れもあり、ご一緒できると思うととてもワクワクしましたが、監督が大友さんに決まり、濃姫が綾瀬さんに決まり…とどんどんすごいメンバーが決定して。なんだかすごいチームになったなとヒリヒリとしたプレッシャーを感じながら、一生懸命脚本に取り掛かりました」

――木村さんが信長、綾瀬さんが濃姫を演じ、脚本を古沢さんが手掛けるというビッグプロジェクトとなりました。大友監督は、監督オファーの際にこの3人のお名前を聞いてどのような感想を抱きましたか?

大友「なかなか集まるのが困難な、ものすごい3枚のカードがそろったなと思いました。僕自身20年以上のキャリアを積み重ねてきましたが、どこかいつも鮮度を求めているようなところもあって。すばらしい才能と組みたいし、そうやって自らを刺激していかないと、自分で自分に飽きてしまう。本作では東映京都撮影所で撮れるということもモチベーションになりましたし、もう一度初心に戻るような気持ちで取り組めるのではないかと思いました。また僕は、新人時代に大河ドラマ『秀吉』に参加していて、戦国もののおもしろさも感じていました。それからだいぶ年月が経ちましたが、この3枚のカードで戦国時代を撮ることができると思うと、楽しみでしかありませんでした」

――大友監督は、古沢さんの第1稿を読んで「すぐに撮れる脚本だ」と思われたそうです。それはどういった感覚だったのでしょうか。

大友「一気読みして、プロデューサーに『初稿で撮れる作品は、初めてだ』と連絡しました。この脚本に沿って素直に撮っていけばいいという覚悟が早々にできたし、『すぐに現場に持ち込める脚本だ』という感覚があった。そして、これは“信長と濃姫の夫婦の物語である”という、ブレない軸があった。彼らの出会いから本能寺までを描くとなると、2人とも変化をしていくわけですよね。若さゆえの愚かさはコミカルな要素にもなるだろうし、それでいて戦国時代を生きる2人には生死のかかったやり取りが常に隣にあり、彼らの背負うもの含めてどんどんシビアな物語になっていく。物語の入り口から最後の出口まで、そういった起伏がきちんと見える脚本でした。演出家として肉付けしていくのが楽しみになりましたし、早く撮りたいなとワクワクしましたね」

■「古沢さんの脚本には、しっかりとした“核”がある」(大友)、「この映画に相応しい本能寺の変が書けた」(古沢)

――古沢脚本の魅力を実感したことはありますか?

大友「やはり核がしっかりとあるということに尽きると感じています。書きたいものがちゃんとあるということが、ストレートに伝わってくる。それは役者やスタッフでも同じことで、こうしたい!という強い願いを持っている人と、ただ指示を待っている人とでは違うと思うんですね。僕ら現場の人間は、撮影が始まれば脚本という設計図をベースにどれだけ自由な発想で暴れられるかが勝負、みたいなところがあるんだけれど(笑)、古沢さんの脚本には、なにをやっても簡単には揺るがない骨のようなものがある。安心して暴れられるんです(笑)。書きたいものを書いていらっしゃると思いますし、それは演出する側としてはとてもありがたいこと。もちろん、刺激も受けます」

古沢「ありがとうございます。軸として考えていたのは、信長はいろいろな作品で何度も描かれてきた人物なので、その信長をどのように新しく見せるかということ。そして、普遍的な夫妻愛の物語にしたいということでした。もともとロマンティックコメディにしたいと思って書き進めていましたが、歴史を題材にしているからには、リアリズムも大事にしたかった。だからこそ、大友さんが撮ってくれると聞いて『ものすごく理想的だ』と思いました。大友さんならば、脚本としては軽いテイストのある部分も、リアリズムのある歴史劇や人間ドラマとして撮ってくれる。『脚本ではそこまでは要求していないよ』と思うような(笑)、こちらが望んでいた以上の驚くような絵作りをしてくれると感じて、とてもうれしかったです」

――古沢さんが、“新しい信長”を描くうえで苦労されたのはどのようなことでしょうか。

古沢「まず、ラストシーンをどういったものにするのか悩みました。本能寺の変もあらゆる作品で描かれてきていますので、当初は『いっそ本能寺をやらない』という選択肢も考えながら、ラストシーンも思いつかぬまま書き進めていきました。そんななか新しい切り口となるような、この映画に相応しい本能寺が書けるアイデアを思いつき、そこに向かって行ったような感覚があります。僕自身、途中からものすごく筆が乗ってワクワクしながら一気に書いたという印象があって。結果としてとてもいいラストシーンになったと思っています」

大友「これまでいろいろな作品が作られてきた信長を描くうえでは、やはり『新しいものにしなければいけない』というプレッシャーがあるものです。信長の物語としての定番を外してもいけないし、それでいていまの時代らしい切り口のおもしろさも必要。古沢さんの脚本には、定番をきちんと押さえながら、今までにない、新しい信長だと思えるようなディテールがたくさん散りばめられていました」

■「俳優、木村拓哉はとにかくえげつない」(大友)、「もう一度、木村さんのラブストーリーを見たかった」(古沢)

――現場で、信長を演じる木村さんを目にした印象を教えてください。

大友「えげつないし、すごいです(笑)。ぜひこれは観客の方々にも作品を通じて実感していただきたいのですが、俳優、木村拓哉は『とにかくえげつない』、その一言に尽きますね。25年ほど前にも木村さんは信長を演じていますが(ドラマ『織田信長 天下を取ったバカ』)、年齢を重ねたことで、キャラクターに対する想いや視点、知識も深まり、そこに自分自身が歩んできた人生を投影することもできる。木村さんは『いつかまた信長を演じたい』と思っていたそうですが、ものすごくいいタイミングでその願いが叶ったんだなと感じています。本作で描かれるのは壮大な物語ではあるけれど、繊細な夫婦の物語でもあります。それはきっと、経験や年輪を重ねたうえで、より表現としての説得力を持たせられるもの。『演じたい』という思い入れだけではなく、年月を経て得た経験値や技術をすべてを信長に注ぎ込んでいく、超プロフェッショナルな俳優、木村拓哉が現場にいました。だからこそ、その厚みがえぐいんですよ(笑)」

古沢「僕も撮影現場にお邪魔したのですが、返り血を浴びて本能寺に佇んでいる木村さんを見ていると、とてもじゃないけど『来ましたー!』みたいな軽い感じで声をかけることもできなくて(笑)。離れた場所から、見学させてもらっていました。あとで木村さんに『見学していました』とお話ししたら、『言ってよ!』って怒られちゃったんですけどね(笑)。木村さんは、時代を背負ってきた方でもあると思うんです。だからこそ、誰にもわからないような孤独を抱えているはず。その孤独を、本作の信長に重ねているようにも感じました。僕らから見ると、木村さんは俳優の枠に収まらない特別な存在のように感じるけれど、彼自身はあくまでいち俳優であるという自覚があって、ものすごく職人的な方だなと思っています」

――古沢さんは、木村さんに同世代としての憧れがあったとのこと。どんな木村さんが見たいと思いながら、脚本に臨まれたのでしょうか。

古沢「僕自身、木村さんのラブコメが大好きですし、『木村さんのラブストーリーをまた観たい』と思っている方もたくさんいると思うんです。信長の30年を描く物語ならば、木村さんが演じるラブストーリーをもう一度観られると思いましたし、10代の信長として、みんなが大好きなやんちゃな雰囲気の木村さんも見られる。そして年齢を重ねて、いま彼が足を踏み入れている境地も表現することができる。いまの木村さんが持っているものの多くを、本作に注ぎ込んでくれたと感じています」

――木村さん演じる信長と、綾瀬さん演じる濃姫が巻き起こす化学反応も楽しみです。

大友「夫婦の物語ではあるけれど、信長と濃姫は、あの時代、そしてあの立場ならではのたくさんの重責を背負わなければいけなかった2人。言うなれば、各々が強烈な個性を持った経営者夫婦、パートナーなんですよね。木村さんと綾瀬さんは、その重みに気づいた信長と濃姫がどのように変わっていくのかを表現しなければならない。その2人のやり取り、化学反応からは目が離せませんでした。木村拓哉綾瀬はるかは、物語を強靭に支え、物語の魅力をより広げていく力と輝きを持つ役者であると、改めて実感しました」

――古沢さんは、現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」の脚本も手掛けられています。時代劇を描くおもしろさを実感していることがありましたら、教えてください。

古沢「海外から見ても、日本の戦国時代って興味のある題材だと思うんです。そういった意味でも、時代劇は大変な鉱脈になり得るものだと思うので、あまり堅苦しく考えすぎずに、いままで伝統を守ってきてくださった人たちの力を借りながら、新しい時代劇をもっとクリエイトしていくべきだと感じています。時代劇は、世界中に胸を張って発信できる財産だと思います」

大友「男女の関係、父と子、母と子の関係も、濃厚でありながらシンプルな形で描けるのが、時代劇だと感じています。スマホもない時代ですから、あらゆる物事をシンプルに描ける。それはとてもおもしろいですね。また時代劇を作るうえである程度の様式やルールはありながらも、視野を狭めて考える必要はないのかなと。古沢さんがおっしゃったように、海外からも日本の歴史を題材にしたゲームや映像などが生まれていて、楽しんで作っていることが伝わるような、自由でアイデアに富んだものもあります。僕らももっとおもしろがって、時代劇を作っていいのかなと感じています」

取材・文/成田おり枝

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