関東を中心に「強盗事件」が相次いでいる。とくに東京都狛江市の住宅で高齢女性の遺体が見つかった強盗殺人事件は世間に衝撃を与えた。

報道によると、これらの事件では、指示役の「ルフィ」を名乗る人物が、SNSで「闇バイト」を募り、実行犯たちを裏で操っていたようだ。

こうした元締めは、もはや「闇バイト業者」といえるだろう。実際、SNS上に溢れかえっている。今回、そんな業者の1人に接触を試みた河西邦剛弁護士に実態を聞いた。

●ツイッターから「闇バイト業者」と接触した

――どうして「闇バイト業者」に接触したのか?

狛江市の事件のように「凶悪化」がすすんでいるようにも思えますが、闇バイトの中心は現在でも「特殊詐欺」です。

闇バイト業者の実際の手口を多くの人に伝えることで、闇バイトに手を染める人たちを減らし、最終的に「特殊詐欺」の被害者を減らしたいと考えました。

――闇バイト業者にどうやって接触したのか?

ツイッターで「闇バイト」「裏バイト」「高額バイト」というワードで検索すると、秒単位のリアルタイムで、ものすごい数の投稿があります。

投稿しているアカウントに対して、ダイレクトメッセージ(DM)を送ると、かならず「テレグラム」という秘匿性の高い通信アプリに誘導されます。

そして、テレグラムのアカウントを教えるようもとめられます。アカウントがなければ、作成するようもとめられます。

ちなみに闇バイト業者からのDM(ダイレクトメッセージ)は、ほぼ定型文です。

●罪の意識を麻痺させてくる驚きの手口

――接触してわかったことは?

闇バイト業者は(1)高収入を謳う、(2)いかにリスクが低いか(捕まりにくいか)具体的に説明してくる、(3)丁寧で紳士的な対応、(4)犯罪という意識を麻痺させてくる、(5)法律に詳しいふりをする――という特徴があります。

まず、毎日働くのであれば「月300万円は稼げる」と高額報酬で誘います。そのうえで、いかに捕まりにくいかを説明してきます。

たとえば「複数の見張り役を配備しているから現行犯逮捕は回避できる」「銀行は防犯カメラ性能が高いのでコンビニATMを使用する。コンビニの防犯カメラレベルでは画像が粗く特定できない」「もし捕まりそうになった場合でも未成年の出頭要員を用意している」「警察に賄賂を渡しているので、小口の詐欺では捜査が入らない」といった説明です。

さらには、「実際に受け子として被害者宅に行く際には、外部から最初から最後まで被害者宅に電話を繋ぎっぱなしにしておくので、途中で被害者が警察や家族に電話できない。もし詐欺に気が付いている様子があれば、直ちに受取を打ち切る」と言ってきます。

――そんなに用意周到なものなのでしょうか?

もちろん、闇バイト業者の説明はすべて嘘です。そもそも使い捨ての受け子や出し子を守るためにコストなんか割くメリットが、業者側にありません。受け子や出し子を切り捨てたほうが「コスパが良い」からです。

闇バイト業者とは電話でも話しましたが、彼らは敬語を使い、落ち着いた雰囲気で丁寧に話してくるので、勧誘というより、むしろトップセールスマンから商品説明を受けているような感覚に陥ります。

そして、「これは犯罪である」ということは否定しません。ですが、同時に「高齢者の被害者リストは出回って、ウチがやらなくてもどうせ別のグループがやる」と罪の意識を麻痺させてきます。

そして、たたき(強盗)や誘拐よりも、特殊詐欺のほうがリスクが低いことを示唆して、受け子や出し子に誘導するように話をしてきます。

しかも、「これ詐欺罪ですよね?」と、こちらから問いかけると「いや厳密には刑法上は窃盗罪です」などと、法律知識があるふりまでアピールしてきます。

●すべての罪を背負わされる構造になっている

――安易な気持ちで、闇バイトに手を染めるとどうなる?

初めての受け子でも、その場で現行犯逮捕されれば、そのまま起訴されて、一発実刑もありえます。詐欺罪で起訴された場合、被害金額が200万を超えてくれば、実刑の可能性が高まります。そもそもお金がないから、受け子や出し子をするわけで、示談金なんか払えないでしょう。

そして、闇バイトを始める前は、免許証を手に持った自撮り写真や、実家の住所まで、業者側に提供することになります。

もし途中でやめたいと思っても、すべての個人情報を提供しているので、やめさせてもらえません。

つまり、月300万円の収入どころか、逮捕されるまでこき使われるだけです。そして、指示役の人たちは、海外など安全な場所にいるので、すべての罪を受け子と出し子が背負うという構造です。

絶対に手を染めるべきではありません。

【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/

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