
神社にあった「100キロ超えの石」が急に移動して近隣住民パニック→新聞沙汰に…“石を動かした青年”を取材してわかった「予想外の動機」とは から続く
神社の境内などにある石を担いで力試しをする“力石”。その文化に魅せられた男・そばつぶは、北陸を中心に各地の神社を訪ねては石を担いでまわっている。富山県のある神社では、彼が動かした石が「100キロを超える石がひとりでに移動した」珍事として、ニュース番組にも取り上げられる騒ぎとなった。
もともと筋トレ好きだったが、力石にハマってからは日々のトレーニングも石を担いで行っているというそばつぶ。そんな彼にあえて聞きたい。なぜバーベルやダンベルではなく、“石”なのか――?(全2回の2回目/前編を読む)
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石とバーベルで難易度は倍変わる――そばつぶさんは、もともと「普通の筋トレ好き」だったんですよね。バーベルでもなくダンベルでもなく、あえて石を担ぐ理由は何でしょうか?
そばつぶ 体型や見た目の筋肉は二の次で実用的な強い体に憧れがありましたので、普通の筋トレ好きではないかもしれませんね(笑)。
バーベルやダンベルは、人間が持ち上げるために作られたもので、石は人間が持つためにできていない自然のものです。だから持ち上げるためには、まず石の形を見極めた上で、全身の力を駆使して使わないといけない。同じ重さでも、石とバーベルで難易度は恐ろしく変わります。
ある神社の力比べの祭りに参加したとき、20年ほど見ておられる主催者の区長さんが「110キロの力石を担げた人」は自分含めて2人だけだと言っていました。過去には色々な力持ちや筋肉ムキムキな人も参加したが肩まで担ぐ事はできなかったと。
100キロのバーベルを軽々と持ち上げられる人でも100キロの石を持ち上げるのは結構難しいんですよ。それを肩まで完全に乗せるとなると、かなりきついはずです!
持ちにくい物を持ち上げ、それを肩まで乗せる為に行う動作が非常に体を強くしてくれる優れたトレーニングだと自分は感じています。
普通の筋トレをしていた頃と比べて、力石を始めてからは体の芯まで鍛えられている実感があります。大きな石を持ち上げるのは、見た目にもインパクトがありかっこいいですし、力石はトレーニングの王様だと思っていますよ。
――力石を担ぐようになってから、日々のトレーニングメニューは変わりましたか?
そばつぶ 一般的な筋トレでは肩や腕など身体の部位ごとに分けるのですが、重い力石を担ぐためには全身を使ったり体幹を鍛える様なトレーニングが必要です。
あと石をしっかり抑え込むためには、握力の中でも特にピンチ力と呼ばれる指の力が重要になってきます。普段のトレーニングでもその辺を重視しています。物は石を使うことが多いです。
――ということは、トレーニング用の石を持っているということですか?
そばつぶ はい。部屋に石があります。
――トレーニング用の石はどこで手に入れるんですか?
「my力石」はジモティー、川でゲットそばつぶ 初めはジモティー(地域密着型の掲示板サイト)の「庭石を譲ります」という書き込みに応募しました。ただ、庭石ってゴツゴツしていますよね。なめらかで丸い石のほうが身体も傷つけないし、ひっかかりが少なく持ちにくいのでトレーニング向きなんです。
神社などにある多くの力石の見た目が丸みを帯びているのも、そういった理由で先人が川や山から選別して来たと言われています。だから、自分も先人と同じ様にちょうど良い石を川で拾ってきました。もちろん川の管理者には持ち帰る許可を得ています。
――全てが自然派というか、なんというか……。
そばつぶ はい(笑)。力石が流行していた江戸時代の人は、身ひとつで勝負していましたからね。パワーベルトなどの力を補助してくれる道具を使わずになるべく当時と同じ条件下で、昔の力持ちたちと時代を超えて対戦できたらという気持ちがあります。
――普通の筋トレではなく力石をやるようになってから、筋肉のつき方は変わりましたか?
そばつぶ 正直、身体の見た目を良くしたいならトレーニングジム等で普通の筋トレをやったほうがいいとは思います。でも身体の使い方や体幹を鍛えるのであれば石のほうが断然優れています。ダンベルを持っていた頃に比べて、ずっと動きが良くなりました。
力石にはパズル的な楽しみもある――力石とは、「石を肩に担げたらOK」というルールなんですか?
そばつぶ 肩に担ぐのは“石担ぎ”といって、力石における代表的な種目です。ほかには腕を伸ばして石を頭上に掲げる“差し上げ”や、地面から一瞬でも浮かせることを目指す“地切り”などあります。
石を運ぶ距離を競う“石運び”というのもあるのですが、先人の中には石を担いだまま町内を1周する、なんて逸話も……。石の重さや自分の実力と相談しながら、石を持ち上げる高さを判断します。
――石を担ぐときのコツはありますか?
そばつぶ まずはしっかり石の形を見極めることですね。何度も石の向きを変えながら、掴みやすいところと掴みにくいところを把握し、“持ち手”になってくれそうな場所を探します。
持ち手を見つけてからも大変です。そこから肩に持ってくるまでに、細かく角度や手の組み方を調整しないといけません。軽い石だったらポンと持ち上げられますが、重い石ほど頭を使う必要があります。力石にはパズル的な楽しみもあるんです。
――好きな石の形、苦手な石の形はありますか?
そばつぶ ボールのように丸っこい形が好きですね。見た目も良いですし、細長い形より難易度が上がるのがおもしろいです。
苦手というか難しさを感じるのは、厚みのある石です。抱えた時に胸元を強くギュッと圧迫されるので動作がしづらく挙げにくくなります。ただ、中には胴体が薄くても違う要素で難しい石もありますから見た目では一概に判断できないのも面白い所ですね。
――これまで担いだ中で、一番重かった石は何キロですか?
そばつぶ 石川県金沢市にある上野八幡神社の力石で、132キロでした。130キロ代は手の届かない領域だと思っていたので、担げたときはうれしかったと同時にびっくりしました。
――ほかに印象深かった石はありますか?
そばつぶ 力石は楕円形のものが多く、私の住む石川県にはボール状の石というのは珍しいんですが、白山市の桑島神社に丸い力石が5つも揃っていたのは印象的でした。やっぱり丸いと難易度が段違いですね。当時すでに120キロの長石を担いでいましたが、90キロの丸い石は失敗しました。
――やはり石の形がポイントなんですね。いつか担ぎたい石を教えてください。
そばつぶ 「そばつぶ」という名前は、実は力石が由来です。単語から滲み出る愛嬌や親しみやすさが気に入りました。そばつぶと名づけられた力石は石川県に4つ存在していて、そのうちふたつは担ぐのに成功しました。
残りふたつは146.9キロと133キロで、とても難しい挑戦になりますが、自分のハンドルネームの由来の石なのでいつか担いでみせたいですね。
――石の重さはどのように測っているんですか?
そばつぶ 「この石の重さは●キロです」と看板に書いてあったり、石自体に重さが刻まれている場合もありますが、力石の世界には「切付(きりつけ)八掛け」という言葉があって、100キロの石だと言うなら実際はその8割の80キロ程度の重さだと考えたほうがいいんです。
もちろん例外もありますが表記通りの事は少なく本当の重量を知りたいので、300キロまで測れる計測器をネットで買って、自分で測っています。
軍手をはめず、素手で石に挑む意外な理由――そばつぶさんをきっかけに力石に興味を持つ人もいるかと思います。これから力石に挑戦する人にアドバイスはありますか?
そばつぶ どんなスポーツにも言えることですが、無理はしないようにしましょう。ケガを避けるためには、自分の実力に合った石を扱うことが大切です。石を持ち上げている最中に「これは無理だ」と感じたら、すぐ石を離して、足元を守るために後ろに飛んで逃げること。
あと事故防止で一番大事なのは、足場の確認です。足場のバランスが悪いと事故のリスクが上がるので、必ず平らな場所に移動してから挑戦してください。万一のことを考えると、爪先を保護する安全靴を履くのがいいですね。
――そばつぶさんの動画を見ると、いつも素手で石を担いでいますよね。軍手をはめないのは、「したほうが安全だけど、昔の人はしていなかった」とこだわっている部分ですか?
そばつぶ そこは機能的な理由のほうが大きいですね。うっかり手が滑らないようにと思い初めての時はグリップ付きの手袋をしましたが、一回で邪魔だと分かったので使わなくなりました。
手を繋いだり離したりする動作の妨げになりやりにくいんですよ。だからといって滑り止めのチョークも使いませんね。冬場に手がカサカサと滑りやすい質感になる時にハンドクリームはさすがに使う事があります(笑)。
日本人はもっと強くなれる――ものすごく素朴な疑問ですが、石を持ち上げるのは怖くないですか……?
そばつぶ まぁ怖いと思っていたら、最初から石を持ち上げていません(笑)。それに、ちゃんと自分の実力と石の重さを見極めて、「ダメそうだったらすぐ逃げる」を徹底していますからね。はるばる行った先だとしても、自分の実力では無理だと思ったら諦める。だから意外と大丈夫です。
――本日はいろいろなお話、ありがとうございました。力石に挑戦する人が増えることを祈っています。
そばつぶ 力石は江戸時代に流行しましたが、娯楽が多様化したことや、機械化が進んで力持ちの価値が下がっていったことで廃れたと言われています。しかし利便性が高まった一方で現代人は体力面ではかなり弱体化しました。
力石の様に「古き良き物から学べること」は多くあります。持ちにくく重心の不安定な物を持ち上げる事で得られる体の強さ。先人の過酷な日常を物語り、かつての強者と時代を超えた力比べが出来るロマンなどなど、魅力を上げればキリがありません。このインタビュー見ている皆さんもあらゆる面で素晴らしい力石で鍛えてみませんか?
(原田イチボ@HEW)

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