鈴木邦成氏・中村康久氏の共著『シン・物流革命』より一部を抜粋・再編集し、コロナ禍で物流業界に起きた変化について見ていきます。

コロナ禍の象徴的なビジネス、シェアリングデリバリー

コロナ禍では多くの飲食店が休業することになり、難しい立場に追いやられた。国民全体が食の楽しみを奪われた格好にもなった。

そうしたなかで、飲食店の大きな支えとなったのが、シェアリングデリバリーである。ウーバーイーツ出前館自転車やバイクを街中で見かけない日はなくなった。

このビジネスモデルを商物分離型という。消費者はネット上のアプリなどを通して飲食店のメニューから選択し、注文、決済をする。他方、飲食店には配達員が出向き、注文品をピックアップして、消費者に届ける。昔ながらの出前とは異なる新しいビジネスモデルである。

配達員は学生や主婦、さらには会社勤めでも副業が認められていればできることから、人材には困らない。ただし、将来的には現在よりもはるかに洗練されたビジネスモデルに進化していくようになるだろう。

具体的には、近い将来、配達員が人間からロボットに変わっていく可能性が高い。またロジスティクスドローンによる無人飛行での配送が行われる日も近いはずである。

つまり、商流の負荷を徹底的に低減した最先端のビジネスモデルが今度は、もうひとつの残された物流の負荷を徹底的に減らしていく方向に動き始めていくのである。

「物流負荷を軽くする方法は物流をなくすことである。瞬間移動のようなかたちになれば、一切の負担はない」というわけなのである。

実際、瞬間移動はともかく、「物流センターを無人にして庫内作業やドライバーはロボットに任せる」というロジスティクスモデルはすでに設計、構築され始めている。商流も物流も人が関与することがほとんどなくなるのが近未来の流通システムなのである。

コロナ禍で勝ち残る宅配便

コロナ禍のなかで宅配便への依存度はそれまで以上に高くなった。それでは実際に業務に当たっている宅配便企業にはどのような変革の波が訪れたのだろうか。

宅配便業界が悩まされてきた「不在」の問題

コロナ禍以前の宅配便業界は「不在」の問題に悩まされていた。コンビニなどで伝票を書けば、日本全国どこへでも届けてくれる宅配便だが、唯一無二の弱点ともいえるのが「不在」だった。せっかく届けても受取人が不在ならばどうしようもない。

だが、都市部は共働き世帯や一人暮らし世帯がほとんどである。しかもいったん外出すれば帰宅は遅くなる。なにも遅くなる理由は残業だけではない。仕事のあとに食事に出かけることも多い。

ただしそうなると、宅配便配達時の不在率はどうしても高くなる。そしてそれに合わせて再配達率も高くなっていく。

そうなると宅配便の営業所は不在による再配達で溢れてしまう。ただでさえ、安いといわれる宅配便の利益率は不在から再配達、再々配達といった流れで負のスパイラルに突入してしまうのである。

実際、宅配便企業は「不在」の対策に苦しんできた。メールやSNSなどでお届け情報を確認、変更したりできるように情報システムに多大な投資も行ったし、宅配ボックスの設置や活用も推進した。

またセキュリティには不安があるとの声もあったが「置き配」も検討されるようになった。しかし、どれも不在対策の決定打とは成り得なかった。

そしてそうした宅配便企業が試行錯誤で苦しむ最中にコロナ禍が発生した。その結果、どうなったか。巣ごもり世帯が増えたことにより、不在の問題は大きく改善された。

しかも感染リスクに配慮して置き配も市民権を得ることになった。コロナ禍で宅配便の取扱量は伸びたが、不在荷物が減少したことにより営業所のスペースが極端に不足するということはなかったのである。

さらにいえば「宅配便市場もそろそろ飽和状態だろう」という見方から「まだまだ成長可能性がある市場だ」という見方に変わってきたのである。

流通の「超中抜き」がすべてを変える

「日本の流通構造は多段階で商品が小売店頭に並ぶまで多くの中間業者が介在している」ということが繰り返し指摘され、「流通の中抜き」がキーワードとなってきた。

実際、多くの卸売業者が淘汰され、製造業が卸売業を経ずに直接、小売業と取引する時代となっている。家電量販店やドラッグストアなどが強力なバイイングパワーを発揮して、消費者に安価に商品を提供できるようにもなった。

アマゾンが巨大物流センターを次々に建設するワケ

また、アパレル業界では製造業の機能と小売業の機能が連結した業態であるSPA(製造小売業)が登場し、製造業、あるいは小売業がサプライチェーンを統括し、小売販売情報を生産計画に反映させていくというビジネスモデルを確立した。

しかし、コロナ禍を経て、時代はさらに先に進もうとしている。つまり、生産地から消費者にダイレクトで商品が届くドロップシップ(直送)型の「超中抜き」が一般化してきているのである。

製造業はオンライン決済を得て、物流企業が顧客に商品を運ぶ。自社のホームページで商品を宣伝、販売し、物流さえ押さえておけば、もはや卸売業も小売業も必要ないのである。

そしてこうなると、物流システムのレベルがこれまで以上に売上高や利益率に大きく影響してくる。アマゾンが巨大物流センターを次から次へと建設し、物流システムの緻密度を上げていくのも、「物流で他社に負ければ自社の未来はない」ということがはっきりとわかっているからである。

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鈴木 邦成

物流エコノミスト日本大学教授(在庫・物流管理など担当)。博士(工学)(日本大学)。早稲田大学大学院修士課程修了。

日本ロジスティクスシステム学会理事、日本SCM協会専務理事、日本物流不動産学研究所アカデミックチェア。ユーピーアール株式会社の社外監査役も務める。

専門は、物流・ロジスティクス工学。

中村 康久

ユーピーアール株式会社・取締役常務執行役員・CTO、DX本部長

NTT電気通信研究所、NTTドコモブラジル技術部長、ドコモUSA上級副社長、NTTドコモ理事、法人ビジネス戦略部担当部長を経て現職。

専門は通信工学。

(※写真はイメージです/PIXTA)