近年、よく耳にするようになった「スマホ育児」。スマホを子どもに持たせ、知育アプリや動画などで自由に遊ばせたり、子守中に親がスマホを操作したりしている状態を指す言葉です。「スマホに子守をさせている」「親が子どもを見ずにスマホばかり見ている」とネガティブな印象を持つ人がいる一方、「動画を見せている間に家事ができるから助かっている」「育児関連の調べ物にスマホは欠かせない」と支持する声もあり、賛否が分かれているようです。

「スマホ育児」を行うことの利点、また“危うさ”とは、どのようなものなのでしょうか。家族や教育、子どもの問題に詳しい、作家でジャーナリストの石川結貴さんが解説します。

全否定するのは無理がある

 子育てや子どもの生活にスマホが関わることが多くなってきました。メリットとデメリットの両方がありますが、まず、メリットとしては「便利さ」「楽しさ」「つながり」などが挙げられます。例えば、子どもの成長記録やアルバム作成のアプリなどは便利なだけでなく、離れて暮らす祖父母との情報共有もできます。みんなで楽しさを分かち合い、新たなつながりを得られる。これは大きなメリットといえるでしょう。

 また、子育て中のお母さんは孤独や不安を感じることが多いもの。ママ同士で交流できるSNSや、悩みを相談できるネット掲示板などを利用することで精神的に救われたり、子育てに役立つ情報を得たりすることもできます。スマホは、さまざまな形で私たちの生活に役立ちますから、「子育てに使ってはダメ」と全否定するのは無理があります。また、現時点では「子どもに悪影響がある」という科学的な証明もありません。

 一方で、スマホ育児を危惧する声も多く、実際にデメリットと呼べるような問題も起きています。特に、親子のコミュニケーションや、愛着関係に関わる問題には注意が必要です。

 例えば、お母さんが授乳をしているとき、当の赤ちゃんはお母さんの表情、優しい声掛け、肌のぬくもり、母乳の味などを体感します。視覚や聴覚、味覚、触覚などの感覚をフル回転させ、そこで得た情報から「信頼感」や「安心感」を得ています。このように、乳幼児期の子どもの脳や心身の発達には、周囲からの働き掛けが非常に重要です。そこで得た親との信頼関係や愛着関係が、後の社会性や対人関係の基礎になるといわれています。

 しかし、授乳中、お母さんがSNSや動画に夢中だったらどうでしょうか。赤ちゃんは「この人に大切にされている」という安心感どころか、「無視されている」という不安感を抱いてしまうかもしれません。

 言葉で表現ができない乳幼児は、泣いたり、手足をバタつかせたりするボディーランゲージで自分の状態を訴えます。親の方も子どもの様子に合わせ、表情やしぐさを変えるなどして臨機応変に対応するはずです。なだめたり、叱ったり、抱っこして安心させたりと親の対応がさまざまに変化することで、子どもは多様な刺激や情報を得るのです。

 スマホは、あくまでも人工物です。設定された音声や画像、限られたパターンの情報しか得られないため、子どもが受け取る情報もその域を出ません。また、直感的に使える機器であるスマホは、操作方法や内容がよく分からなくても、押したり触ったりするだけで動くため、幼い子どもに親和性が高いといわれています。

 子どもとスマホの親和性の高さには、子どもの成長過程が関連しています。幼児がネジやボタンを指で押すことがありますが、指で押す・触る・つまむといった行為は人間の自然な成長過程の一つなのです。スマホの操作はこうした行為とピッタリ合ってしまうため、「親が教えていないのに子どもが勝手にスマホを使っていた」「一人でどんどんタップして操作する」といったことがしばしば起こります。

 このように、スマホは子どもにとって親しみやすいのですが、一方で「よく分からないけれど、どんどん使ってしまう」ことにもなりかねません。

 さらに、刺激的な音声や映像などが「もっと見たい」という興奮、「すぐにやりたい」という欲求につながりやすいこともあります。「少しの時間だけ」、そう思って子どもにスマホを与えたら、夢中で使い続けて「やめなさい」と言っても聞かない…こんな経験をお持ちの人もいらっしゃるのではないでしょうか。「いつの間にかスマホと離れられなくなってしまう」など、依存につながりやすいという問題も大きなデメリットといえるでしょう。

スマホに振り回されない子育てを

 私が取材したお母さんは、3歳と2歳の女の子の育児中で、家事で手が離せないとき、子どもたちに動画アプリを使わせていました。幼児向けアニメが大好きなお子さんたちは動画に夢中で、お母さんからすれば家事がはかどり、ストレスも感じません。最初は「家事の間だけ」と思っていましたが、だんだん時間が増え、時には数時間もスマホを使わせるようになりました。

「途中でやめさせようとすると、2人そろって大泣きしたり、ギャーギャー騒いだりするんです。娘たちに言い聞かせるのが大変で…」と苦笑します。お母さんからすれば「仕方なく」という心境かもしれませんが、こうした方法は避ける方が賢明です。では、一体何が問題なのでしょうか。

 一つは「時間」です。「家事の間だけ」といっても、日によって30分だったり1時間だったりとバラバラになりがちなもの。これでは子どもが混乱し、お母さんの方もルーズになりかねません。お子さんにスマホを使わせるときは、「時計の針が上まで来たらやめよう」などとあらかじめ時間設定をすることが大切です。

 利用目的や範囲も考えましょう。「今日は外遊びの代わりに使う」「第3話までアニメ動画を見る」といった具体的な意識を持ち、お子さんと約束をしてください。

 とはいえ実際の子育てでは、こうした約束がうまくいかないことも少なくありません。そうした場面では、単に「やめなさい」と言うのではなく、「やめるように仕向ける」ことが大切です。例えば「次はシャボン玉で遊ぼうか」「ママのお手伝いをお願い」など、別の行動を促します。要は、スマホに夢中になっている子どもの「意識を変える」のです。

 何より大切なのは、子どもに「スマホは当然のものではない」という意識を持たせることです。そのためには、時間や目的、意識の切り替え、親子のコミュニケーションなどが求められます。特に、親子のコミュニケーションはお勧めです。例えば、絵本アプリの朗読機能では、いつも同じ音声が同じ調子で流れます。一方で、お母さんがお子さんに読み聞かせをするときは、毎回調子が違ってきます。早口になったり、疲れた声になったり、急に笑ったり。いわばお母さんの「リアル」が反映されるわけです。

 今、私たちは効率性や快適性を求める社会に生きています。もっと早く、簡単に、便利に…そうした風潮は当然ながら子育て中の親にも影響し、「いかに効率よく、子育てや家事、仕事をこなしていくか」という意識が強くあります。「子どもにスマホを与えればおとなしくなる」「その間に自分は家事や仕事を片付けたい」と思うのは無理からぬことで、一方的に「スマホ育児は悪」と決め付けるのは短絡的ともいえるでしょう。

 社会の環境が「子育てに冷たい」「子育てに不都合」という面も考える必要があります。ボール遊びや飲食を禁止する公園、子どもの声を「騒音」だと敬遠する地域、子どもを狙った犯罪や不審者の出現なども増えています。昔のように「子どもは風の子、外で遊ばせろ」というのは、現実を無視した理想論ともいえるのです。

 こうした背景から、仕方なく子どもにスマホを使わせているという親も少なくありません。また、先述のようなスマホを利用するメリットや、スマホが私たちの日常のツールになっているという現状もあるわけです。大切なのは「スマホという便利な機器とどう付き合っていくか」「子育ての中で何に注意しながら利用するか」という現実的な視点を持つことではないでしょうか。

 親子ともスマホに振り回されるのではなく、自分でスマホ利用をコントロールできる力を持ちましょう。「スマホがあるから使う」ではなく、「自分はスマホをどう使いたいのか」という主体性を持ってください。

 自分の人生を守るためにも、自分で考え、判断できる力を養うこと。リアルの触れ合いや多様な経験を積んでいくこと。スマホに振り回されない子育てをするために、そして、子どもをスマホ漬けにさせないために、できることはたくさんあると思います。

文/構成・オトナンサー編集部

「スマホ育児」の是非、どう思う?