カフェ・子連れ

少子化が日本でも中国でも大きな話題になっている。日本では、岸田首相が「異次元の」少子化対策を行うと明言した。また、小池都知事も、2023年度から所得制限なしに一人5,000円を給付すると発表した。

一方、中国では2022年の人口が、前年から85万人減少し、14億1175万人となった。中国の人口減少は、1961年以来、実に61年ぶりのことである。65歳以上の人口は2億978万人で、総人口に占める割合は14.9%。まさに少子高齢化社会の到来である。

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■「一人っ子」政策止めても効果なしの中国

1960年代以降に人口が爆発的に増加したため、中国政府は、1979年に「一人っ子政策」を開始し、人口増抑制に成功した。そこで、2015年末にはこの人口抑制策を廃止し、2016年からは2人目、2021年からは3人目を解禁したが、子どもの数は増えないのである。

若い人口が減るということは、働き手が減るということで、経済発展にも悪影響を及ぼす。また、親は一人息子を軍人にしようとはしないので、兵隊さんの数も減ってしまう。安全保障の面からも深刻である。


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■「合計特殊出生率」が低い東アジアの国々

一人の女性が生涯に産む子どもの数を「合計特殊出生率」という。ある夫婦が2人子どもを作ると、単純再生産となる。

2以上だと、人口は増えることになるが、東アジアの国々は合計特殊出生率が低い。日本が1.34、中国が1.28、韓国が0.84、台湾が1.07、香港が0.87、マカオが1.07である(2020年)。とくに韓国は低く、世界最低である。

東アジアは目覚ましい経済発展で世界の注目を浴びてきたが、人口という観点からは黃信号が灯り始めている。中国はアメリカを抜いて世界一の大国になろうとしているが、アメリカの合計特殊出生率は1.64(2020年)である。将来人口という観点からは、アメリカのほうが中国よりも優位に立っている。

人口は国力の一つの基礎である。世界で、列強(パワー、power)と呼ばれるためには、人口が5千万以上必要である。先進国グループ、G7の中で、この基準を満たしていないのはカナダのみである。


■出生率を上げるのに成功したフランス

私は、若い頃、フランスに留学し、パリ大学の大学院で勉強した。ヨーロッパでは、フランスが少子化対策に成功している。50年前の話である。その当時、フランスでも少子化が問題になっていたのを記憶している。

フランスは、少子化対策として、家族手当の充実、貧困層の保育料無料化など、様々な子育て支援策を講じていった。その結果、合計特殊出生率は、1993年には1.66だったのが、2020年には1.83に上がったのである。フランスの政策は日本にも参考になる。

注目したいのは、結婚していない独身女性に対しても、生殖補助医療(不妊治療など)が、既婚者と同じ条件で行われることである。戸籍上は結婚しないで、パートナーとして、子育てをしているカップルがたくさんいる。

その結果、婚外子が増え、フランスは、婚外子比率がヨーロッパ第1位の57%となっている。2位はスウェーデンで55%、以下、デンマーク53%、オランダ49%、イギリス48%である。因みに、日本は2.3%である。

■子育て、とくに教育におカネがかかりすぎる

大学・教室・講堂

日本、中国、韓国、台湾などで少子化が進むのは、子育て、とくに教育におカネがかかるからである。日本では、幼稚園から高校まですべて私立にすると、1,700万円、全部公立でも500万円かかる。これに大学の学費まで加えれば、私立なら2,000万円は超えてしまう。さらに、塾や予備校の経費まで加えれば、大変な金額になる。

中国や韓国ではそれ以上で、子ども一人の教育費を捻出するのに精一杯なのである。フランスは大学まで教育は無償であり、この点もフランスは参考になる。


■子だくさんの家庭に「優先権」を与えよ!

フランスでは、子だくさんの家庭を社会的に優遇することが考えられてきた。

たとえばディズニーランドに入場するとき、スキー場でリフト待ちをするとき、バスに乗るときに、長蛇の列を回避して、優先的に入る特権を与えるのである。たとえば5人以上の子どもがいる家庭に「子だくさんの家庭」という証明書を政府が付与し、それを提示すると、行列待ちをしないで済むことにするのである。

バス会社、イベント会場などが、それぞれの判断で子だくさんの家庭に対する優遇措置を検討すればよい。これは、税金を1円も使わないでできる少子化対策である。「異次元」とは、そういうことである。


■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「フランスの少子化対策」をテーマにお届けしました。

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(文・舛添要一

少子化が止まらない日本と中国 参考にすべきは「フランスの成功例」だ