1月16日福岡市博多駅前路上において、元交際相手の会社員(38=当時)を刺殺したとして、飲食店従業員の寺内進容疑者(31)が逮捕された。寺内容疑者に対しては昨年(2022年)11月、警察がストーカー規制法に基づく禁止命令を出していたという。

被害者と寺内容疑者は昨年春に交際を開始したが、秋頃には関係が悪化していたとみられる。同年10月には被害者が県警に対し「別れに応じてくれない」「携帯電話を取られた」等相談。そのため県警は寺内容疑者に任意同行を求め警告。このとき、素直に応じるような態度を見せたといわれる。

ところが11月下旬に再び被害者から「(寺内容疑者が)職場まで来た」と相談を受ける。寺内容疑者は被害者の勤め先に現れた上、被害者が県警にストーカー被害を相談したことに対し詰め寄ったという。職場にも電話をかけてくるようになった。

こうした経緯から県警は昨年11月下旬に、寺内容疑者に対し、ストーカー規制法に基づく緊急禁止命令を出していた。このとき寺内容疑者は、前回と同様に応じる素振りを見せていたというが、2カ月後に事件は起きた。

ストーカーと化した男が女性を殺害する事件が繰り返されている。ストーカー規制法は、1999年に発生した桶川ストーカー殺人事件をきっかけとして制定された。以後、時代に応じて改正を繰り返しており、昨年にも、GPS装置による位置情報取得行為が規制対象となった。パトロールや緊急通報装置の貸し出しなど、対応もきめ細やかに進化しているが、それでも痛ましい事件は根絶できない。

彼らはどういった言い分でストーカー行為に及んでいるのか。過去に傍聴してきたストーカー関連事件から振り返る。(ライター・高橋ユキ

●「LINEをブロックされなければ」

2020年6月に静岡県沼津市で大学生の女性(19=当時)を刺殺した堀藍被告人(逮捕当時20)は、事件当時、被害者と同じ三島市の大学に通っていた。一審の静岡地裁沼津支部では懲役20年の判決が言い渡されたが、検察側がこれを不服として控訴している。

堀被告人は事件まで被害者にストーカー行為を繰り返していた。警察庁が公開しているデータによれば、ストーカーの約半数は交際相手および配偶者(元含む)であるが、彼は被害者と交際していたわけではなかった。事件前年の7月、学内で被害者を見かけて好意を抱いたのち、一方的にLINEやインスタグラムを送り続けたという、いわば知人未満の関係だ。

被害者に好意を抱いた堀被告人はまず、繰り返し「LINEのIDを教えて」と迫り、当初断っていた被害者も最終的に断りきれずIDを教えた。ここから被害者のスマホにLINEがとめどなく届くようになったのだった。

LINEを始めてすぐに堀被告人は被害者を呼び捨てにし、食事の誘いをたびたび持ちかけた。被害者はそのたびに断っていたという。プライベートな質問も繰り返される。友人でもない学内の男性からの踏み込んだ質問に、被害者からの返信は滞ることになるが、堀被告人はこれを許さず「返信遅い」などと非難した。

事件まで堀被告人が送信したLINEは551回におよぶ。被害者はブロックしたいけど怖い、と感じていたという。

事件の2ヶ月前、被害者はついにLINEではっきりと拒絶を示したが、堀被告人は引き下がらない。〈前にLINE続けてくれるって言ったじゃん。そう言われても無理〉など返信し、さらには〈一緒にインスタライブやらない?〉と、どういうわけかインスタライブにまで誘う。被害者は事件数日前、ついにLINEをブロックした。

一審の法廷で被害者の家族による「娘がどうしていれば殺すことはなかったのか」との問いかけに、堀被告人はこう答えている。

「LINEをブロックされなければ」

しかし殺害の準備らしきものは事件の4ヶ月前から進めていたことがわかっている。包丁やサバイバルナイフを入手し、段ボールを被害者に見立てて突き刺す練習を繰り返していた。さらにLINEなどで得た情報から被害者の自宅やアルバイト先を割り出してもいた。

堀被告人が事件を起こした理由として挙げた“LINEのブロック”は、いわば単なるきっかけにすぎず、殺意はそれ以前から抱いていたと思われる。被害者の遺体には40箇所以上の刺し傷があった。

●「彼女を加害者として見ていたというか……」

博多の事件の寺内容疑者は、逮捕後に「女性の方も悪かった」と供述していた。自らの意思によって起こした行動にもかかわらず、それを被害者のせいにするのはストーカーの常套手段だ。

「当時の彼女の気持ちを想像しましたが、根っこにあるのはやはり彼女は加害者。自分は被害者感情を持っていて、彼女を加害者として見ていたというか……」

2013年に東京・三鷹市で元交際相手である私立高校3年の女子生徒(18=当時)を刺殺した、池永チャールストーマス(逮捕当時21)は、差し戻し前の一審・東京地裁立川支部の法廷でこう述べていた。

リベンジポルノの関連法案が成立するきっかけになった『三鷹ストーカー殺人事件』において池永は、女子生徒の性的画像をインターネット上にばらまくと脅し、殺害後には実際に画像をインターネット上にアップしたうえで匿名掲示板にそのURLを書き込み拡散させた。女子生徒の命を奪っただけでなく、尊厳も奪おうとした身勝手な行為に及んだ本人でありながら、なんと自分が被害者だと思っていたという。

またリベンジポルノについては「やっぱり彼女と付き合ってきた過去を大衆に知らしめるためと、彼女の尊厳を傷つけたいという思いがありました」と、二つの目的を持っていたことを明かしている。被害者意識を持つストーカーの犯行は刺し傷が多い。女子生徒の遺体には11箇所もの刺し傷があった。博多の寺内容疑者も、被害者の上半身を中心に10数箇所も刺していることがわかっている。

●Twitterで「プレゼントを返してください」

ストーカー行為の末、東京・小金井市で2016年5月に、シンガーソングライターの女性(当時20)を襲った岩崎友宏(公判当時28)は、女性と交際関係にあったことはなく、堀被告人に近い、一方的なファンだった。

事件の2年前、雑誌に載っている女性を見て好意を抱き、ファン活動を始める。そのうちに好意は膨らみ、翌年には女性と結婚したいと思うまでになった。きっかけとなったのは、犯行から4ヶ月前に開催されたライブイベント。女性が出演すると知った岩崎は、京都から虎ノ門の会場に向かった。プレゼントを渡し、ライブ終了後には、出待ちして女性に話しかけた。

「これから帰りですか、どこへ行くんですか」
「どこか行くんですか、一緒に行きましょうよ」
「友達になってください、電話番号教えてください」

女性は質問攻めに遭い、同行していた友人とタクシーに乗りその場を去った。岩崎がTwitterで執拗に女性について言及し始めたのは、その直後からだった。「プレゼントを返してください」といった内容のリプライを送るほか、ツイートを繰り返した。

そして5月に女性が出演する予定のライブに合わせ再び上京し、事件を起こしたのだった。女性は数十箇所を刺されていたが一命を取り留めている。

「プレゼント送り返して来た理由を聞こうと思っていました」と東京地裁立川支部で開かれた公判にて、上京した理由を答えていたが、岩崎はポケットにナイフをしのばせ、小金井駅で女性を待ち伏せしていた。理由を聞くだけならばナイフは不要だ。

一時は心肺停止の状態に陥るほどの傷を女性に負わせたにもかかわらず「殺意はなかった」との主張を繰り広げる。法廷での被害者意見陳述の際は、取り乱したのか不規則発言を連発し退廷させられた。

●ストーカー相談は年に約2万件

シンガーソングライターの女性は警察に相談に行っていた。しかし警察はライブ会場の見回り等を行なってはいなかった。また当時のストーカー規制法はSNSでのつきまとい行為は除外されていた(事件後に改正)。

三鷹ストーカー事件においても、女子生徒は事件に遭ったその日の朝、家族と警察に相談に行っていた。しかし相談後に学校から帰宅したときは一人で、そのころ池永はすでに、女子生徒宅のクローゼットに忍び込んでいた。三鷹署の署員に電話で無事である旨伝えた直後、事件が起きた。

沼津の事件でも被害者は警察に相談していたが、堀被告人の名を出すことはしなかったという。

ストーカーには、ストーカー規制法で検挙される場合と、これに関連する別の刑法犯・特別法犯で検挙される場合がある。ストーカーがエスカレートした末の犯罪であり、先に挙げた事件は全て後者だ。

警察庁公開の資料では令和3年のストーカー規制法での検挙は937件だが、ストーカー規制法以外での検挙は平成23年から上昇傾向にあり、また2年連続で増加している(1491件から1581件)。現行のストーカー規制法で阻止できないストーカーへの対策の必要性が見える。

ストーカー相談は年に19728件(令和3年)と、その数も非常に多いため、警察も危険を察知することが困難かもしれないが、最悪の事態を想定しての対応へと少しでも変化することを願いたい。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)、「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」(小学館新書)など。好きな食べ物は氷

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