1月8〜22日にかけて行われた大相撲1月場所。大関・貴景勝が「12勝3敗」をマークし2020年11月場所以来、自身3度目となる優勝を果たした。

 今場所は2022年11月場所で正代が大関陥落、御嶽海が大関特例復帰に失敗したことで125年ぶりに1横綱1大関となった上、横綱・照ノ富士の休場により0横綱1大関に。その1大関だった貴景勝が番付最上位としての地力を見せた場所となったが、熱戦続く傍らでは観客の問題行動も目立った。

 5日目の貴景勝対平幕・玉鷲戦では、行司が軍配を返し、両力士が腰を下ろした後も客席の一部ファンが「貴景勝!」と大声で名前を叫び、怒鳴り声のようなヤジを飛ばすなど静かにならず。両力士はヤジで集中を乱されたのか、立ち合い呼吸が合わず3度不成立に。4度目でようやく成立し貴景勝が勝利した後にも指笛の音が鳴り響いていた。

 >>大相撲、貴景勝戦中の一部観客に「マナー悪すぎ」ヤジ連発で怒りの声 取組も3度ストップ、原因はルール緩和?<<

 また、11日目の平幕・宇良対平幕・輝戦でも、腰を下ろした両力士がほぼ同時に右手を地面についた瞬間に突然「オラ宇良! 頑張れ!」という大声のヤジが上がり、これにつられたのか輝がつっかけてしまい立ち合い不成立に。すぐに土俵下の勝負審判へ頭を下げた輝は同じ失敗はできないと固くなったのか、2度目の立ち合いは左足をあまり踏み出さず、その場で胸を出すように立って宇良の当たりを受け止める中途半端な形となっていた。

 今場所はこれ以外にも10日目の平幕・遠藤対平幕・宝富士戦で取組開始まで声援・ヤジが止まらなかったり、千秋楽の平幕・御嶽海宝富士戦で御嶽海が勝利した直後に指笛が鳴ったりといった事例があった。立ち合い中の声援やヤジは力士の集中力を乱すとかねて問題視されている上、指笛については観戦契約約款(2012年1月26日制定、同年5月1日施行)で禁じられている「相撲場内外でみだりに気勢を上げ騒音を出す行為」にも該当するが、マナーやルールに違反した観客は少なからず目についた。

 「今場所、問題視された観客の問題行動ですが、コロナ禍以前の2019年までに比べると特段多かったわけではありません。ただ翌2020年以降と比較するとかなり目立った印象です。相撲協会はコロナ禍を理由に2020年から禁止していた声出し応援を、今場所からマスク着用の上ならOKと一部緩和。これもあり今場所は取組前の仕切りで多くの声援が上がっていましたが、場内のにぎやかな雰囲気に気分が高揚しはめを外してしまった観客も少なくなかったということなのでは。また、3年ほど静かな本場所が続いていた分、ヤジ・指笛は力士や視聴者にとって以前よりうるさく聞こえた面もあったようです」(相撲ライター)

 協会は今場所から声出しと共に、それまでは1人1本程度としていた飲酒も本数制限を撤廃するなど緩和しているが、これもヤジの頻発に影響したのではという見方もある。競技は違うが、プロ野球・阪神の青柳晃洋は2023年1月15日放送の『ジャンクSPORTS』(フジテレビ系)に出演した際、本拠地・甲子園でのヤジについて「コロナになってお酒とかが販売できなくなって(たけど)、最近お酒出てきてからちょっと増え始めましたねヤジは。飲むとやっぱり言っちゃうらしくて」とアルコールの有無に左右されている面があると指摘している。相撲でも同様の現象が起こっているとしても不思議ではないだろう。

 土俵上の力士に声援を送るのは現地観戦の醍醐味の一つではあるが、興奮のあまり取組に水を差すことがないよう、ファンには節度を持った行動が求められているといえそうだ。

文 / 柴田雅人

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