韓国とアラブ首長国連邦UAE)が締結した覚書の中に、韓国で進行中の次期輸送機開発計画にUAEが資金協力などで関与するという内容が盛り込まれました。UAEは日本のC-2輸送機の有力な顧客候補。これは鞍替えを意味するのでしょうか。

UAEが韓国の新型輸送機開発に関与を表明

韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は2023年1月15日アラブ首長国連邦UAE)アブダビにおいて同国のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領と首脳会談を実施。その後、両国で出した共同声明のなかで、UAEが韓国に対して総額300億ドル(日本円で約3兆8000億円)にも及ぶ投資を行うと発表しました。

投資対象となる分野は原子力・エネルギー・防衛産業などの分野で、韓国大統領府の発表によると、具体的には13の事業で共同宣言やMOU(了解覚書、政府間の合意内容を書面化したもの)の署名に至ったといいます。なかでも防衛産業分野において注目すべき項目が、韓国の次世代輸送機開発計画であるMC-Xへの共同開発に関する部分です。

UAEはかねて、日本が独自開発したC-2輸送機に大きな関心を寄せ、同機の有力な輸出先(日本では防衛装備移転と呼称)として見込まれていました。日本はUAEで隔年開催される「ドバイ・エアショー」に実機を持ち込んでのPR活動や、UAE側の運用要求に合わせた未舗装地での離着陸試験などを実施してきました。しかし、その後はUAE側からC-2導入に関する続報は伝わっていません。

深読みすると、今回のUAEによる韓国MC-Xへの共同開発参画は、C-2の外国輸出に大きな影響を与える可能性もあります。

政府首脳がトップ会談で合意した重み

MC-Xは、韓国の大手防衛企業KAI(韓国航空宇宙産業)が、自国で運用するC-130「ハーキュリーズ」輸送機やCN-235輸送機の後継となることを想定して開発を進めている新型輸送機です。ジェットエンジンを2基装備する双発機で、機体サイズは全長40.3m、高さ13.5m、全幅41.1m。日本の国産輸送機であるC-2(全長43.9m、高さ14.2m、全幅44.4m)と比べるとサイズとしては若干小振りです。

計画自体は、昨年(2022年)ソウル近郊で開催された防衛装備展示会「DXコリア」でコンセプト模型が初めてお披露目されたばかりで、会場で関係者に話を聞いてもMC-Xは政府への提案段階だという説明でした。

しかし、生産数は自国の輸送機更新用で約40機を想定しているほか、諸外国で運用されているC-130輸送機クラスの更新需要も狙っていると明言していました。また、ゆくゆくは機内に設備を追加して海洋哨戒機空中給油機などの派生モデルを開発することも計画しているそうで、すべてが予定通りにいけば約200機程度の生産を見込んでいると話してくれました。

今回、MC-Xに関して韓国とUAEが交わした了解覚書(MOU)について、海外メディアは両国の実務担当であるKAIのカン・グーヤンCEOと「Tawazun Council」(UAEで軍と警察関係の装備品の調達管理をする組織)のタレク・アル・ホサニ事務局長の間で覚書を交換したとしており、さらにUAE側からKAIに対してMC-X開発に関する資金提供も行われると報じています。

MC-Xはまだ実機が完成しておらず、昨年の段階で機体の完成まで7~8年程度の期間が必要とされています。現在、想定されているスペックは生産段階にあるC-2の方が勝っている部分もあるでしょう。

しかし、今回の共同開発については、軍レベルよりも上の政府会談で決まった総額300億ドルの大規模投資の一部であり、その決定は機体自体の性能とは別に、両国間の協力関係も影響したと考えられます。

「良品は黙っていても売れる」の幻想

UAE側にとって開発に参画するということは、計画失敗というリスクもあるものの(MOUは契約と違って法的な拘束力を持たず、途中破棄の可能性も十分にある)、MC-Xに不整地運用能力といった自国向けの性能要求を盛り込むことや、その過程で自国企業が技術を習得できるといったプラス要因が生まれる可能性もあります。そういった部分では、単に完成機を輸入するだけのC-2では生まれ得ない重要な要素といえるでしょう。

近年、韓国防衛産業は海外への輸出・現地ライセンス生産の実績を着実に積み上げています。その理由は兵器単体の能力だけでなく、素早い輸出や技術移転を伴ったライセンス生産など、兵器輸出に慣れた韓国企業の対応の良さも貢献していることは間違いありません。

加えて今回の首脳会談では、MC-Xの共同開発以外にも、「Tawazun Council」と韓国の防衛事業庁が防衛産業の戦略的協力について合意したとする内容の覚書も交換されており、今後、両国の防衛産業は包括的な交流を深めていく動きもある模様です。

今回のMC-Xの共同開発の成果が表に出るまでにはしばらくの時間が必要ですが、仮に成功した場合は、新型輸送機が完成するだけでなく、韓国防衛産業が中東諸国での影響力を伸ばす可能性もあるといえるでしょう。

2021年の「ドバイ・エアショー」に参加したC-2輸送機。鳥取県美保基地の所属機が飛来した(布留川 司撮影)。