採用面接では必ずと言っていいほど、学生時代に頑張ったことは何かを聞かれます。どのように答えたらいいのでしょうか。人事コンサルタントの曽和利光氏が著書『人材の適切な見極めと獲得を成功させる 採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

アルバイトを数値化するとどうなるか

■候補者のレベル感を評価するためには?

最終面接に近づけば近づくほど候補者は粒ぞろいになり、自社に適した人材ばかりになっていきます。

その中で誰を採用するか決めるためには、候補者のやってきたことについて「レベル感」を見極め、相対的順位を材料として採否を判断する必要があります。

例えば「リーダータイプの人材」と判定する候補者が複数いた場合には、「誰がよりリーダーシップを持っていそうか」について相対的に評価できる「レベル感」を捉えねばなりません。

ではどうやってその「レベル感」を捉えて相手を判定・評価するのか─―これは「できるだけ具体的な事柄を答えてもらう」ということに尽きます。つまり、「具体的な固有名詞」「具体的な数字」「具体的な役割」「具体的な行動」などです。

候補者、とくに新卒の学生は、(プライバシーの意識があるのかもしれませんが)得てしてアルバイト先などの情報をぼかしがちです。そのような場合、面接担当者は積極的にその「具体的な内容」を深掘りして聞き出す必要があります。

例えば「都内のあるホテルのフロントで働いていた」という内容だけであれば、ホテルの名前や所在地などをはっきり聞いた方がよいです。どんなホテルかの具体的な情報により、採用側は相手のやってきたことを「事実」としてイメージできます。

また、できるだけ数値化してもらうことも大切です。「カフェで長い間アルバイトをしていました」と言われたならば、従業員数は何人で顧客は一月に何人程度か、1日の来客数は、売上は、自分が働いた期間は、といったことを具体的に述べてもらいます。

その回答から「東京駅の1日千人が利用するスターバックスで3年間働き、最終的には○人のアルバイトの中で×人いるアルバイトマネージャーを任された」という事実が引き出されることもあれば、「規模は小さいが商店街で空いていた店舗を居抜きで借り、友人と共同経営して1日平均△人ほどの顧客を得て、3年間で□円ほどの利益を出した」というまったく異なる事実が出てくることもあり得ます。

「カフェでアルバイトを経験しました」というだけの情報からは得られない貴重な判断材料です。

そして「できるだけ少数の面接担当者で多数の候補者を面接する」ということも重要です。人間は相手に対して「この人はこの能力で何点」と絶対評価できません。多くの候補者を比較することで、その面接担当者の「レベル感」を評価する能力は磨かれていきます。

ポイント •「レベル感」を判定材料とするために、具体的な情報を引き出す。 •面接官はできるだけ多くの候補者と接することで評価能力を磨く。

目立った成果がないと悲観する必要なし

■学生時代に打ち込んだものが必要?

新卒採用では、学生時代に打ち込んだものがない、目立った成果を残していないという人がいます。こういった人は一見すると評価するポイントがなく、落としやすいかもしれません。

一方、学生時代にそれなりの成果を残してきた人でも、いざ会社に入ってからの活躍はそれほどでもない人もいます。学生と社会人では、多くの場合で求められるレベルや環境の次元が異なるからです。つまり、学生の尺度で「達成した」実績の差を、社会人の尺度で見るのは厳しいと言わざるを得ません。

よって、まずは成果自体の大きさでなく、インプット(環境)とアウトプット(成果)の「比率」、つまり学生時代にコンビニのアルバイトを続けていたにせよ、学園祭でイベントの企画をした経験があるにせよ、どんなレベルの環境や機会で、どんなレベル成果を出せたのかを見ましょう。

例えば、コンビニのアルバイトを3年半続けていた人材がいたとします。インプットとしてはありふれたことだけをしていたように見えます。しかし、3年半の勤務経験の中でどのようなことを考え、行動してきたのかを具体的に確認することを通じて、仕事に対する姿勢を見極めることなどができます。

特に、いくら成果が小さなことだったとしても、そこから「仕事を楽しむ力」を持っている人だとわかることがあります。このような人材は高く評価するべきです。仕事は、一般的には制約された条件下で義務として与えられるため、「仕事を楽しめる力があるか」は非常に重要な判断基準になります。

面接担当者は、新卒採用でも成果自体を評価しがちですが、このようにプロセスを評価するのがよいでしょう。

その意味では、学業から見極めることも有効です。学業は多くの学生によって「やらなければならないこと」だからです。

以前、高いGPA(成績平均点)の学生にインタビューをした際、目標を自ら立てて計画的に学習に取り組める人がいたり、自分が履修すると決めた科目だから責任感を持って最後までやりきりたいと考えていたりする人がいました。やらなければならないことを乗り切るため、いかにして頑張るかを見つけ出して努力した人が、GPAの高い人だったのです。

このように、経験した事柄をどのように認識し、意味付け、セルフモチベートしてきたのかを、ふつうのエピソードから読み取ることで、その人を見極めることは十分にできるのです。

ポイント •面接担当者は、特筆すべきエピソード以外にも目を向けて、成果よりもプロセスを評価する。 •平均的なエピソードから候補者を見極める際には、その候補者自身が経験してきた事柄をどのように意味づけしていたかをよく確認する。

曽和 利光

株式会社人材研究所 代表取締役社長

(※写真はイメージです/PIXTA)