シドが1月21日と22日の2日間、LINE CUBE SHIBUYAにて【ID-S限定 SID LIVE 2023 ~Re:Dreamer~】を開催した。

 マオ(Vo)のコンディション不調のため、約1年間のライブ活動休止を続けてきたシド。今年はバンド結成20周年のアニバーサリー・イヤーに突入し、その“スタートアップライブ”として発表された本公演は、バンドのオフィシャルメンバーズクラブ“ID-S”の会員限定ライブとして、シドを「常に傍らで支えてくれた」ファンたちとの絆を再確認するような、とにかく親密で温かいムードに終始包まれた2日間となった。

 本稿で記述する2日目公演のアンコール、最初のMCで「どれだけ努力しても頑張っても上手くいかないこと、みなさんもあると思います」と語ったマオ。それは突然やってきて社会をめちゃくちゃにしてしまったパンデミックか、はたまたヴォーカリストとしてマオが立ち向かった自身の身体的な問題か、いずれにしろこの数年間は、シドにとってもキャリア史上最大の苦難とともに過ごす時期となったことは想像に難くない。この日は、そんな日々にマオが自問自答の末に辿り着いた一節<このまま 夜明けのない 悲しみの世界 来たら/少し怖いけれど 君がいるなら>を歌う、昨年3月にリリースされた最新アルバムの表題曲「海辺」からスタート。流れ着いた再会の地はLINE CUBE SHIBUYA。かつては“渋公”の愛称で親しまれ、今に至るまで多くのバンドがひとつの聖地として目指した会場で、シドの新しい船出を祝う夜を迎えたのだ。

 叙情的な演奏と憂いを帯びたマオの歌声が憐憫と哀愁を誘う歌謡ロック「紫陽花」、楽器隊のジャズライクなアプローチがこれでもかとせめぎ合う「KILL TIME」と、前半は彼らが志向するレトロスペクティブなサウンド・スタイルが次々と具象化されていく。ドリーミーな音像にシルクのような繊細さのファルセットが染み込んでいく「ミルク」から陽だまりの温もりを湛えた「hug」、心地よく緩んだムードをほんのり刺激する官能的な1曲「刺と猫」へ。アッパーなロックチューンだけに限らず、むしろこうした“聴かせる曲”がバンドのシグネチャーとしてコアファンから愛されているのがシドであり、それらのレパートリーも彼らがこの20年間にわたって続けてきた研鑽の賜物だ。

 中盤に設けられたインスト・セクションでは、ゆうや(Dr)、明希(Ba)、Shinji(Gt)の順でソロの見せ場を作っていく。シドは楽器隊全員が曲を書けるバンドでそれぞれが職人であると同時に、ステージ上での魅せ方もしっかり心得たエンターテイナーでもある。このインスト・セクションもたっぷり約15分の見応えある演出で、改めて4人での帰還を印象付けた一幕だった。

 昨年1月にシドは「これからのシドの未来、ヴォーカリスト・マオの未来を見据えた前向きな充電期間」としてライブ活動休止を発表。マオもSNSで「19年間シドのために頑張り続けてくれたこの喉を、今はしっかりと休ませてあげること、それが『本当の愛』だという決断です」とコメントしていた。実際、この日もところどころで喉に気を遣いながらの歌ではあったものの、心の機微をデリケートに直反映するマオのヴォーカリゼーションは昔も今も不変だし、情念が奔流のごとく溢れてくる珠玉のロック・バラード「涙雨」でのそれはまさしく絶唱の域で、歌唱後にマイク越しから僅かに聴こえてくる息切れも含め、もはや執念にも似た並々ならぬ歌への覚悟を実感させた前半戦の幕切れだった。そして、ここでひとつのタガが外れたかのように、以降のショーはアップビートな方向に転じていく。

 この日の会場、かつての渋谷公会堂の思い出を語りながら、改めて20年間の歩みに思いを馳せるメンバー。その後はタイトルもズバリな「ANNIVERSARY」を皮切りにクライマックスへ向かっていく後半戦で、「夏恋」が一体感抜群の縦ノリで会場を揺らしたかと思えば、性急なガレージパンク「CANDY」でさらにギアを上げて加速、続く「delete」に至ればジェットコースター的展開でスリル満点ゾーンに突入し、そのまま本編ラストの「プロポーズ」へ。ステージ上ではパイロが吹き上がり、客席はヘドバンの嵐。マオもシャウトを叩きつけるサディスティックな攻め攻めモードで、作曲者のShinjiはShinjiでとことんギターヒーローを満悦、それらを明希&ゆうやのフィジカルなグルーヴがギリギリの調和にまとめ上げる、スリリングな興奮に満ちたパフォーマンス、そして愛に狂気を纏わせて伝えるエンディングもシドらしい。

 「どんなに大変なことがあっても、一人だとすごく辛かったりすることも、こうやってみんなの顔を目の前にして歌うと平気になっちゃいます。なので、今日のライブも嘘偽りなく、俺は心から楽しめてます。どうもありがとう」と感謝を伝えたマオ。そんな救いの存在を「海辺」という曲で確信する前、まだ彼が一人暗闇の中に閉じ込められていたときに生まれたのが、アンコール1曲目の「君色の朝」だ。<流した汗には 裏切られたけど/信じた道には 疲れ果てたけど>と弱さをさらけ出し、<さよなら さよなら 昨日までの君/ここから見上げる 可能性は無限>と希望を歌う。パーソナルな感情や経験をもとにした歌が、いつしか発し手のもとを離れ、聴き手一人ひとりの生活に根付き、やがてアーティストとリスナーをつなぐ絆になる、そんな優れたポップ・ミュージックだけに起こせる魔法こそ、この節目のタイミングで彼らが提示したもの。オーディエンスの“心の大合唱”が聴こえてくるようだった「Dear Tokyo」あらため「Dear ID-S」を経て、「俺は歌うぞ! まだまだ歌えるぞ!」とマオが叫び、本公演のタイトルにも引用されている「Re:Dreamer」でショーは締めくくられた。2003年、現在の4人で結成されたシドは間もなく二十歳。つぼみ開く頃、4月からはツアーが控えている。旅立ちの朝はそう遠くない。

Text:Takuto Ueda
Photo:今元 秀明


セットリスト
01.海辺
02.紫陽花
03.KILL TIME
04.ミルク
05.hug
06.刺と猫
07.Instrumental
08.涙雨
09.ANNIVERSARY
10.夏恋
11.CANDY
12.delete
13.プロポーズ
En.
14.君色の朝
15.Dear Tokyo
16.Re:Dreamer

◎公演情報
【ID-S限定 SID LIVE 2023 ~Re:Dreamer~】
2023年1月21日(土)LINE CUBE SHIBUYA
2023年1月22日(日)LINE CUBE SHIBUYA

<ライブレポート>「俺は歌うぞ! まだまだ歌えるぞ!」――シド結成20周年イヤーが開幕、かつての“渋公”で迎えた新たな船出