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 ドイツのゴミ置き場で中世のペンダンドが発見された。約900年前の、美しい装飾が施された銅のペンダントの中には、宗教的なお宝が隠されていたようだ。

 非破壊検査の一種である「中性子断層撮影法」を使って中身を調べたところ、ペンダンドの中に聖人のものと思われる骨のかけらが納められていたことが明らかになったのだ。

 さらに研究を進めれば、その聖人が誰だったのかが明らかになるかもしれない。

【画像】 中世の聖遺物「ペンダント」をゴミの山から発見

 2008年、ラインラント=プファルツ州の州都、マインツにある中世のゴミの穴跡の発掘中に手のひらサイズのペンダントが発見された。

 このゴミの穴は、17世紀初頭の盛期バロック時代にさかのぼる貴族の宮殿の中庭にあった。穴はほとんどが陶器のゴミで埋まっていたが、ペンダントは後の宮殿がその上に建てられる前の14世紀の穴の層から見つかったという。

 研究者らが500時間以上修復作業を続けた結果、イエス、マリア、聖人たちのエナメルの肖像画がついた銅のペンダントが現われた。

 この芸術的ペンダントの独特なデザインは12世紀のもので、捨てられたときはすでに古いものだったようだ。

 このような中世の聖遺物、つまり聖人の骨やその他の遺物を納める容器や霊廟には、たいてい聖人の名を記した羊皮紙や紙片が入っていることが多い。

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 だが、このペンダントに関しては、まだそうしたものは見つかっていないと、ドイツマインツにあるライプニッツ考古学センター(LEIZA)の修復師で研究著者のマティアス・ハインツェルは語る。

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分厚い腐食物を取り除き、聖人たちのエナメルの肖像画がついた銅のペンダントが現われた / image credit: Sabine Steidl/LEIZA

 だからといって、中になにもないということではない。内部をもっと詳しく調べるために、研究チームは非破壊検査の一種で、中性子線を検査対象に照射して内部を透過させて3次元構造を生成する撮影法「中性子断層撮影法」で中身を調べた。

 この技術は、素粒子中性子を材料(この場合はペンダントのケースとそれに含まれるもの)に吸収させて、3次元画像を作成する。

X線撮影ではペンダントの中身が映らなかった

 ペンダントのデザインから、マインツの北285キロのところにあるハノーバー近くの工房で作られたものではないかと推察される。そこで似たようなものを作っていたことが知られているのだ。

 ハインツェルとLEIZAの研究チームは、ダイヤモンドの先端をもつ研磨工具や、その他の精密機器を使って、500時間を費やしてぶ厚い腐食層を除去し、この遺物が四つ葉あるいは十字の形をした銅でできたペンダントであることを明らかにした。

 金箔で覆われ、イエス、マリア、聖人たちのエナメルの肖像画がついている。

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 すぐに難題がもちあがった。ペンダントは中が空洞になっているように見えたが、開けようとすると、壊れてしまいそうだった。どうやって中を調べたらいいのか? そこで、X線撮影をすることにした。

ところが、ペンダントに使われている金属とエナメルがX線をほとんど吸収してしまい、なにも見えなくなってしまった。

「X線画像では、繊維や骨のような有機物および無機物は、まわりの金属やエナメルに比べて光学的に負けてしまいます。しかし、中性子はX線とはほぼ真逆の吸収挙動を示すのです」

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2008年に見つかったペンダントのX線画像 / image credit: Stephan Patscher/LEIZA

中性子断層撮影で5つの小袋の中に骨の破片を確認

 X線で使われる高エネルギー電子とは違い、中性子には電荷はなく、金属などの物質の奥深くまで浸透することができる。

 中性子は、水素原子によって強くまき散らされるため、中性子断層撮影は、水素を含む有機物由来の物質の高コントラスト画像を写し出すことができるという。

 ペンダントの内部を、中性子断層撮影で調べたところ、5つの小さな袋がはっきりと確認できた。おそらく麻かシルクでできているもので、中に骨の破片が入っているという。

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中性子断層撮影法で調べたところ、骨の破片が入った小さな布袋が5つ含まれていることが明らかになった / image credit: Burkhard Schillinger/MLZ)

 この発見から、このペンダントは聖人の遺物を納めた聖遺物で、これを身に着ける者を守ると考えられた護符の一種であることがわかった。

 修復に多大な時間をかけたが、まさか、中から人骨が見つかるとは思ってもみなかったハインツェルは、中世のすばらしい遺物だと驚きを隠せない。

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中性子断層撮影、ペンダントの中にあるものがはっきりわかり、骨の持ち主である聖人が誰なのか、明らかになると期待されている。 / image credit:Stephan Patscher/LEIZA

更なる調査で骨の持ち主を探し出す

 さらに中性子断層撮影での調査を続け、ペンダント内に羊皮紙、あるいは紙片があるかどうかを確かめ、骨の持ち主である聖人の名を明らかにする予定だ。

 これまで、ペンダントは合計7時間以上中性子にさらされている。

 さらに観察を続ければ、鉄の塩と植物性の酸の混合物である、鉄胆インクで書かれたであろう文字が明らかになるかもしれない。中性子の照射時間を2倍、3倍にすれば、わかるだろうという。

References:Neutrons expose the insides of a medieval pendant - TUM / Medieval pendant found in a garbage pit may hold the bones of a saint | Live Science / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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美しい装飾のある中世のペンダントの中から、聖人の遺骨の破片が発見される