発達障害の認知度が年々高まっている。従来は子供の問題だと思われてきたが、実は一定数の割合で「大人にも発達障害の人がいる」という事実が知られるようになった。それによって「自分もそうかもしれない」と疑う人が増え、職場では混乱も起きているという。あなたの同僚や部下にもいるかもしれない、「大人の発達障害」の最前線を追った。

◆本人も気づかない程度の障害が職場で露呈し、会社も困惑

「私が管理職を対象にメンタルヘルス研修をする場合、数年前まではうつ病に関する内容が大半でした。しかし、今では9割方が発達障害に関する依頼になっています」

そう話すのは、公認心理師・臨床発達心理士の佐藤恵美氏だ。企業が関心を寄せるのは、「どう対応すればいいのかがわからない」という切迫した状況の表れだという。

「ここ数年で発達障害の認知度が上がり、ネットなどで知識を得る人が増えました。しかし『発達障害かもしれない』と疑っても具体的な対処法がわからない。人事部が悩むのはもとより、人事まで話が上がるということは現場もかなり困っているということです」

発達障害とは脳の発達の凹凸によって、「得意なこと、不得意なこと」の差が大きくなり、社会生活において困難を抱えてしまう障害だ。その種類は大きく次の3つ。①ASD(自閉スペクトラム症)②ADHD(注意欠如・多動性障害)③LD(学習障害)があり、それぞれ下記のような特徴がある。

◆「大人の発達障害」の代表的な症状

①ASD(自閉スペクトラム症)
・場の空気を読むことが苦手
・曖昧な内容から推察することが苦手
・言葉や表情から心情を察するのが苦手
・特定の物事へのこだわりが強い
・状況に応じた臨機応変な対応が苦手

ADHD(注意欠如・多動性障害)
・気が散って集中が続かない
・順序立てた行動や計画が苦手
・なくし物や忘れ物が多い
・同じ場所にじっとしていられない
・つい衝動的な行動をとってしまう

③LD(学習障害)
・文字の読み書きが極端に苦手
・数字の計算が極端に苦手

◆3つのどれか一つにハッキリ分類できる人はまれ

ただ、障害の程度が軽い場合には3つのどれか一つにハッキリ分類できる人はまれで、グラデーションのようにさまざまな特性を併せ持つ場合が多いと言われている。

「大人の発達障害は、本人も周りも気づかなかったほど障害の程度が軽いのが特徴です。しかし、会社で働くようになるとそれまでは避けてこられたようなことにも取り組まなくてはならない。その結果、発達障害の特徴が“困りごと”として表面化してしまうのです。そして、人によって困りごとは違い、それが理解されにくさに繫がっています」

そう述べるのは、精神科医の五十嵐良雄氏だ。世間では誤解も生まれているという。

「例えば『発達障害は薬で治る』という誤解です。確かに薬によってADHDの注意力欠如や衝動性を抑える効果が期待できますが、ほかの困りごとには効果がありません」

◆会社では発達障害を「公表できない」現状

発達障害の認知度が上がっているのは確かだ。しかし、職場での課題はまだまだ多い。発達障害者向けに就労支援事業を行う「Kaien」代表の鈴木慶太氏が、解説する。

発達障害の場合、’16年に定められた『障害者差別解消法』に基づいて、企業には当事者に対して合理的配慮をすることが求められています。しかし、実際にはハラスメント対策などに比べれば積極的に取り組まれていません。

外資系IT企業などでは『発達障害の特性を生かして活躍してもらう』という試みをしていますが、多くの日本企業は結局のところ“現場任せ”。当社の就労支援を受ける人の多くが『会社では発達障害を内緒にしていた』と言うように、公表すらできない状況です」

◆「仕事ができない人」を発達障害だと決めつける

前出の佐藤氏によれば、「発達障害だと気づくまで、社内では“問題社員扱い”されてきた人もいる」という。

発達障害の特性ゆえに環境に馴染めず、1年ごとの部署異動を繰り返してきたようです。そのような無理解から、社内キャリアをきちんと積めなかった人も多い」

また、ある種の“レッテル貼り”をされる危惧も。

「『仕事ができない人=発達障害』という決めつけです。そんなことはなく、例えば睡眠不足なだけということもある。発達障害の症状は大なり小なり誰にでもあると言えますし、検査によっては抑うつ状態と発達障害では似た結果が出たりします」(鈴木氏)

認知度が上がった今こそ、正しい知識が求められるのだ。

【「メンタルサポート&コンサル沖縄」代表・佐藤恵美氏】
精神保健福祉士・公認心理師・臨床発達心理士。産業精神保健を専門とし、職場と働く人に向けてメンタルヘルスサービスを提供する

【「メディカルケア虎ノ門」院長・五十嵐良雄氏】
一般社団法人日本うつ病ワーク協会理事長。’03年メディカルケア虎ノ門を開設。うつ病患者や発達障害者の復職支援の専門家

Kaien代表・鈴木慶太氏】
東京大学経済学部卒業後、NHKに入局し、6年間アナウンサーを務める。その後、息子の発達障害が判明したことからKaienを起業

取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/菊竹 規 モデル/黒木俊穂
※1/31発売の週刊SPA!特集「職場を蝕む[大人の発達障害]」より

―[職場を蝕む[大人の発達障害]]―


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