電車内で他人の体を触る、いわゆる「痴漢行為」をした場合、都道府県の迷惑防止条例に基づき、取り締まりの対象になります。一方、女性従業員が職場で男性従業員から体を触られたため、「セクハラ」として会社側に被害を訴えたものの、まともに対応してもらえなかったケースもあるようです。痴漢行為とセクハラは、罪の重さや罰金について、どのような違いがあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

セクハラは罪に問われない場合も

Q.そもそも、痴漢行為とセクハラは、何が違うのでしょうか。

牧野さん「行為が行われる場所や、行為の内容が異なります。痴漢行為は、一般的に路上や電車内など、公共の場所や公共交通機関で『他人(特に女性)の体を触る行為』を指します。

一方、セクハラは、公共の場所ではなく、職場あるいは職場外での業務(接待の席など)で、主に男性従業員が女性従業員の体を触る行為のほか、女性従業員に対して性的な発言をすることを指します」

Q.では、痴漢行為とセクハラとでは、罪の重さや罰金について、どのような違いがあるのでしょうか

牧野さん「痴漢行為は、都道府県の迷惑防止条例に基づき、取り締まりの対象となります。刑罰は各自治体によって異なりますが、東京都の場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。

セクハラは、ケースによって異なります。都道府県の迷惑防止条例は、あくまで『公共の場所や公共交通機関で、他人の体を触る行為』に対して適用されます。職場は『公共の場所』に該当しないので、職場で女性従業員の体を触る行為に対しては適用されません。つまり、理論上は、職場で女性従業員の体を触っただけでは、罪に問われないことになります。しかし、この場合、加害者は、民法の不法行為に基づき、被害者に対する民事の損害賠償責任を問われる可能性があります」

 なお、次のケースに該当する場合、罪に問われる可能性があります。

(1)男性従業員が女性従業員の体を触ったときにけがをさせた場合
傷害罪が成立する可能性

(2)「女性の体を触る行為」にとどまらずに、性器に触れるなどの「強制わいせつ」行為に発展した場合
強制わいせつ罪(6月以上10年以下の懲役)が成立する可能性。相手にけがをさせた場合は、強制わいせつ致傷罪(無期懲役または3年以上の懲役)が成立する可能性も

(3)相手の名誉を傷つけるような性的発言をした場合
侮辱罪名誉毀損(きそん)罪に該当する可能性

Q.女性従業員が職場でセクハラ被害を受けた場合、被害を証明するためには、どのような証拠が必要となるのでしょうか。

牧野さん「客観的な『証拠』が必要になります。証拠には、物証(物的証拠)と人証(人的証拠)があります。具体的には、物証は女性の衣服に付着していた男性の衣服の一部(糸片)や、男性従業員が女性従業員の体を触った瞬間を収めた画像などが該当します。人証は『女性の体を触っていたのを見た』という証言などです」

Q.職場でのセクハラ被害が認められた場合、加害者側はどのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

牧野さん「民法の不法行為に基づき、被害者に対する民事の損害賠償責任を問われる可能性があります。また、強制わいせつなどの事実が認められた場合は、先述のように刑事責任を負う可能性があります」

オトナンサー編集部

痴漢行為とセクハラの違いは?