大企業各社が「賃上げ」を宣言するなか、「賃上げは行わない」中小企業は7割に達します。その理由のひとつが、価格転嫁への対応。受注側になることの多い中小企業は、原材料高などの高騰分を自腹でなんとかしようとしています。みていきましょう。

大企業と中小企業の年収差、180万円…賃上げ対応でさらに拡大も

あらゆるモノ・サービスが値上がりし、生活が苦しくなるばかり。そこで期待される賃上げですが、岸田首相自らがインフレ率を上回る賃上げを要請し、大企業の多くがそれに応えるような報道がされています。

一方で焦点になるのが、賃上げの波が中小企業にまで波及するかどうか。城南信用金庫が行ったアンケート調査では、「賃上げ予定なし」が7割を超え、企業規模によって「賃上げムード」には温度感があります。

厚生労働省令和3年賃金構造統計調査』によると、大企業勤務のサラリーマン(平均年齢43.1歳)の平均給与(所定内給与額)は月37.5万円、賞与を含めた年収は643.3万円です。一方中小企業*勤務のサラリーマン(平均年齢45.9歳)だと平均月収30.3万円、年収は454.1万円。1ヵ月に7万円ほど、1年で180万円強の給与差があります。

大企業:従業員1,000人以上事業所、中小企業:従業員10~99人の事業所

年齢ごとにみていくと、20代前半では、月収で1.4万円、年収で51.9万円だった給与差は、20代後半で年収100万円以上の差となり、40代前半では年収で200万円弱に。50代前半では300万円弱にまで拡大します。

【日本のサラリーマン「大企業中小企業」の給与差】

20~24歳:22.3万円(356.1万円)/20.9万円(304.2万円)

25~29歳:27.0万円(468.7万円)/24.1万円(359.1万円)

30~34歳:31.7万円(557.3万円)/26.9万円(412.2 万円)

35~39歳:36.4万円(642.1万円)/29.7万円(453.6万円)

40~44歳:39.9万円(694.6万円)/32.2万円(495.3万円)

45~49歳:42.9万円(740.7万円)/33.8万円(514.1万円)

50~54歳:47.8万円(819.5万円)/34.8万円(521.7万円)

55~59歳:47.6万円(808.8万円)/34.6万円(513.5万円)

出所:厚生労働省令和3年賃金構造統計調査』より

※数値左より、大企業の月所定内給与額(年収)/中小企業の月所定内給与額(年収)

今回、多くの中小企業で賃上げが見送られれば、この格差はさらに拡大することになります。

中小企業、原材料等高騰でも価格転嫁できず…ワースト1はトラック運送業

多くの中小企業で賃上げが難しいのは、原材料等の物価高を価格に転嫁できていないから、というのがひとつの理由。

中小企業庁がまとめた『価格交渉促進月間(2022年9月)フォローアップ調査』によると、直近6ヵ月間のコスト上昇分のうち、何割を価格転嫁できたを聞いたところ、「9割、8割、7割」が18.2%、「10割」が17.4%。一方で「3割、2割、1割」が17.4%、「0割」と「マイナス」を足し合わせた「全く価格転嫁できていない」が72.2%となりました。また価格交渉の状況について、「受注側企業から協議を申し入れ、話し合いに応じてもらえた」が58.4%に対し「全く交渉できていない」が13.9%でした。

特に価格転嫁に応じてもらえていない業種で際立っているのが、トラック運送業。価格転嫁状況の認識について、発注者の立場で「おおむね転嫁を受け入れている」は全業界最低の48.4%(全業種平均81.4%)、受注者の立場で「おおむね転嫁できている」割合は20.5%(全業種平均39.4%)。どの業種も共通して発注者の立場では「おおむね転嫁を受け入れている」の回答割合が高く、受注者の立場では「おおむね転嫁できている」の回答割合が低くなっています。なかでもトラック運送業界は、発注側でも受注側でも低迷している、という状況。業界全体として同業種間・異業種間の取引で価格転嫁が十分に進んでいないことが浮き彫りになっています。

厚生労働省令和3年賃金構造統計調査』によると、トラックドライバーの平均給与(大型トラック運転手の所定内給与額)は月28.2万円(平均年齢49.9歳)で、手取りにすると22万円ほど。年収は463万1,900円です。全産業の平均は月収30万7,400円、推定年収が489万3,100円ですから、平均以下の業界です。

しかしネットショッピングの広まりで、宅配便の取扱量は10年で4割増。そのような状況でも、トラックドライバーは慢性的な人手不足厚生労働省令和3年11月 労働経済動向調査』によると、全産業の欠員率は2.3%に対し、トラック運転手含む運輸業・郵便業の欠員率は3.5%。しかも全産業の平均年齢は43.2歳に対し、大型トラック運転手の平均は49.9歳、それ以外の運転手で47.4歳。人手不足×高齢化、でも需要ひっ迫。それなのに価格転嫁が進まず、賃上げは絶望的といわれる始末。

もはや、私たちの生活に、なくてはならないネットショッピング。トラックドライバーの賃上げとなると、その影響は広範囲に及びますが、問題山積の運送業界。待ったなしの危機的な状況です。

(※写真はイメージです/PIXTA)