ルフィが日本に戻ってくる――。フィリピン当局は、日本各地で相次ぐ強盗事件の指示役とみられ、マニラ首都圏のビクタン収容所に拘束されている4人の男たちの身柄を、日本に強制送還する見通しだ。

メンバーは渡邉をボスとした特殊詐欺事件からの繋がり

 この“ルフィグループ”の中核メンバーは、今村磨人(きよと)(38)、渡邉優樹(38)、藤田聖也(としや)(38)、小島智信(とものぶ)(45)の4人。彼らが関わった事件では既に計70人以上が検挙され、被害規模は2018年11月2020年6月ごろに全国約2300件、被害総額は約35億円に上る見込みだ。

 メンバーの中でも、中心的役割を担っていた一人が今村である。

「元々は渡邉をボスとした特殊詐欺事件から繋がっていた。ただボスは渡邉だが、今村の方が稼ぎはよく、同格の存在でした」(今村の知人)

 180センチの長身に醜くたるんだ腹部。刺青はないが、右腕の前腕部に根性焼きの痕がいくつも暗い色を浮かび上がらせている。

選抜チームにも選ばれるほどサッカーが上手かった

 今村はビクタン収容所の中で、自身の生い立ちをこう語っていたという。

「俺は赤子の時、『磨人』と書かれた段ボール箱に入れられて、川に棄てられていた。札幌の施設で育ったんだ。親やきょうだいはいない。気楽でいいよ」

 だが、札幌市内の円山小学校と向陵中学校同級生は、こう証言する。

「孤児だなんて聞いたことなかったです。親が離婚するなど確かに家庭は複雑だったようですが、3人兄弟の末っ子。当時は『渋谷』という姓でした。小中とサッカー少年で、選抜チームにも選ばれるほど上手かった」

10代後半で暴走族トップ

 子供の頃から悪の片鱗はあった。勉強ができたわけではないが、頭の回転は良く、口が達者なうえに陰湿。小学校6年生の時、女性担任をいじめて登校不能に追い込む。教頭など他の先生が代わる代わる担任を務めるなど、学級崩壊のきっかけを作った。「学校始まって以来」と、教員たちを悩ませた問題児クラスの中心人物だった。

「中学時代は、他の学校に乗り込んで喧嘩をするなど、不良グループトップ。最初に彼女が出来たのは中学1年の時でした。それから何人ものギャル系の子と付き合っていた。中3の時に、喧嘩か何かで少年院に入っています。10代の後半は暴走族で、頭をやっていた。市内の大通公園暴走族が集まるのですが、そこで特攻服を着ている姿を見かけたことがありました」(同前)

 そして迎えた、ホテルで行われた成人式。今村はすっかり肥えた体を高級そうなスーツに包み、かつての級友たちの前に現れた。

「風俗で儲かってるから、いいモノ喰ってんだ」

街で出くわした同級生に、こんな声をかけてきたことも

 さらには、犯罪への加担を持ち掛けていた。

成人式の時、『携帯の契約をしてくれたら、小遣い3万円やるよ』と。犯罪で使う、他人や架空の名義で契約された“飛ばし”の携帯で商売もしていたようなんです。もちろん断りましたが」(前出・同級生

 道内一の歓楽街ススキノで風俗店を経営していたという今村は、街で出くわした同級生に、こんな声をかけてきたこともあった。

「知り合いにシャブ買う人いない? いたら売人を紹介するよ」

 また今村は、一方的に海産物を自宅に送り付けて代金を請求する悪徳商法にも手を染めていたという。

大柄でよくしゃべる、馴れ馴れしいタイプ

 2016年5月、札幌市内で轢き逃げ事件を起こし逮捕されたが、翌年、KDDIの傘下でコールセンター業務を請け負う会社を立ち上げた。

「会社を作ってまともに働いたことがあり、取引先の接待もそつなくこなしていたと言っていた。確かにトークは抜群に上手かった」(前出・知人)

 当時を知る経営者もこう振り返る。

「会社は大手商社のグループ会社とも取引がありました。今村は大柄でよくしゃべる、馴れ馴れしいタイプでした。『昔は何かあったんだろうな』と思わせるものがあった。でもすぐに会社を別の人に譲って、音信不通になってしまいました」

ビクタンの施設内で特殊詐欺や強盗の指示を出し続けていた

 この頃から次第に特殊詐欺にのめり込んでいった今村。ススキノで渡邉、藤田らと知り合った。2019年4月、今村は警察官などになりすまして女性からキャッシュカード8枚を盗み、ATMで現金およそ70万円を引き出した疑いもある。警視庁は逮捕状を取っていたが、今村は日本を出国。

 2019年の暮れ、フィリピンからマカオに高飛びしようとして拘束され、ビクタンに収容される。その後、施設内で渡邉らとともに特殊詐欺や強盗の指示を出し続けていた。

「報道後、収容所内の彼らからは笑顔が消え、犯罪の指示に使った通信アプリのテレグラムのアカウントも消去したそうです」(前出・知人)

 このほか、2月1日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」および2月2日(木)発売の「週刊文春」では、狛江事件の前に小誌に「叩きが起きます」と予告していたXの証言、ルフィグループにいた26歳の女や60代の男の正体、「ハンマバキ」「シンチャン」など新たに判明した彼らのコードネーム、渡邉と藤田が起こした2012年1000万円金庫窃盗事件、藤田の父の告白などを詳報している。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年2月9日号)

ルフィグループが巣食っていたビクタン収容所