ストーカー規制法制定のきっかけとなった桶川ストーカー殺人事件の裁判記録が廃棄されていたことが2月1日までに、閲覧請求した学生の調べでわかった。さいたま地裁によると、廃棄日は2012年2月23日

この事件では21歳の女子大学生だった猪野詩織さんが、元交際相手のストーカー被害を相談したにもかかわらず埼玉県警が記録を改ざんし、1999年桶川市で殺害された。捜査を怠ったとして遺族が埼玉県と国を相手取った賠償請求訴訟の記録が廃棄されていた。

今年1月には福岡市博多区でストーカーによる殺人事件が発生し、規制法のあり方が再び問われている中で発覚した事態に、遺族は「大いに疑問だ」との声を上げている。

●遺族「私たちの知らない間に抹消されているとは」

父親の猪野憲一さんは「私たちの知らない間に抹消されているとは、がくぜんとします。節目となった事件の記録が公的機関からなくなるということ。国として、司法として、いいんですか? と問いたい」と強調した。

母親の京子さんによると、自宅にあった段ボール3箱分ほどあった記録のうち、一部は最近捨てたばかりだったという。

「私たち夫婦も70歳を超えて、少しずつ整理していました。特に加害者の供述調書は家に置いておくのは嫌だったのが正直なところです。公的な機関には当然残っていると思っていました」

記録については弁護士が持っているかは分からないといい、裁判所からもなくなった今、この世から全てなくなった可能性がある。

●支援HPを管理していた男性「次に生かされない」

この国賠訴訟の裁判資料の一部は、当時は学生で「支援する会」に協力していた男性会社員によって今もホームページ上で公開されている。

上智大学の教授や学生らでつくっていた「支援する会」は、裁判ごとに行われる報告集会での記録や準備書面の一部などを弁護士から提供してもらい、広く情報共有するために掲載していた。

遺族側が訴えていた捜査怠慢と殺害の因果関係が認められず確定した最高裁判決後も、何度か閉鎖が話に上がったが、ストーカー事件が起きるたびに「後世の人たちが一人でも参照する需要があるならば残したほうがいい」との思いで維持した。無料ホームページにすることも考えたが、広告が入るのを嫌って毎年プロバイダに払い続けている。

男性は「僕たちが残した記録は全てではなく、手弁当で作ったもの。客観的なデータではないけれど、誰かの役に立てばと思っていました。まして規制法のきっかけとなった事件なので、裁判所には残しておいてほしかった」と残念そうに語った。

●「学生傍聴人」が2度目の“スクープ”

今回の廃棄については、閲覧請求した学生がツイッターで1月31日に報告した。「学生傍聴人」として、数々の裁判記録を研究中で、2022年11月にはオウム真理教の解散命令の裁判記録の廃棄も“スクープ”していた。

学生は「警察への責任追及ができた場として、記録保管の意義があったはず」と話す。学生によると、遺族が実行犯らに請求した損害賠償訴訟の記録も廃棄されていたという。

ストーカー殺人、捨てられた裁判記録 桶川事件で発覚、遺族「大いに疑問だ」