アメリカでは今、AmazonやMeta(Facebook)、Googleにマイクロソフトなどの大手IT企業が、大規模な人員削減(レイオフ:一時解雇)を進めている。
不思議なのは、この動きに不気味なほどの共通点があることだ。レイオフを進める大手IT企業は経営が傾いているわけではない。なのになぜ、社員を解雇しなければならないのか?
The Vergeの記事によれば、その答えは、経営者が利益よりも株価を気にしているからだという。
それだけではない。もしかしたら優秀な経営者とて、思考を放棄して「右へならえ」になっている側面もあるかもしれないそうだ。
このところ米国の大手IT企業ではレイオフ(一時解雇)が進んでいるが、そこには奇妙なほどの共通点が見られるという。
どの企業も、新型コロナの流行がひとまず落ち着いたことをレイオフの理由にしているのだ。つまり、巣ごもり消費が終焉し、ITへお金が流れる状況がもう終わったので、社員を減らすというわけだ。
ここで、レイオフに際してIT企業が公表したプレスリリースをいくつか見てみよう。
META(Facebook)
新型コロナが流行し始めた頃、世界のオンライン化が一気に進み、eコマースの急増によって収益が桁外れに伸びました。
多くの人が、これは止まらない勢いで、新型コロナ後も続くだろうと考えました。私たちも同様で、投資を大幅に増やしました。が、残念ながらその予想は当たりませんでした
過去2年は、目覚ましいまでの成長期でした。その成長と歩調を合わせ、さらなる成長をうながすために採用を進めましたが、私たちが今日直面している経済状況はもう変わってしまいました
マイクロソフト
新型コロナの流行時、デジタルへの支出を大きく増やしたお客さまですが、今ではそれを最適化し、少ないコストでより多くを行うことを求めています
Amazon
ご承知の通り、私たちは異常で不確実なマクロ経済環境に直面しています。そのため私たちはここ数ヶ月間、お客さまや事業にとって一番重要なことを最優先するべく取り組んできました。
そして入念に検討した結果、一部のチームとプログラムを統合することにしました
多くの大手企業と同様、私たちも新型コロナ大流行による強い追い風がこれからも続くよう願っていました。また世界中で幅広く行なっている事業と、広告が減っても影響しにくい体質が、当社を守ってくれると信じてもいました。
ですが今にして思えば、私たちはあまりにも野心的で、収益の伸びよりもずっと過大な投資を行いすぎました。本日、従業員を約6%減らす理由がこれです
更にご存じの通り、イーロン・マスクが買収したTwitterは社員の半数近くをレイオフしている。
米大手企業がレイオフを進める本当の理由は?
だがこうしたIT企業は決して経営危機にあるわけではない。
マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院のマイケル・クスマノ教授によれば、こうした企業は、数兆円や数十兆円に相当する蓄えがあるという。
だが、経営陣はそれを事業の役に立てようとは思わない。また決算書を読む投資家が、そうした埋蔵金に注目することもない。
彼らが気にしているのは、従業員1人あたりの収益だ。
これがその企業に投資するべきかどうかの重要な指標となる。米国の大手IT企業は、新型コロナが流行してからたくさん人を増やした。それは従業員1人あたりの収益が薄まることにつながる。
たとえばマイクロソフトのようなソフトウェア企業なら、従業員1人あたりの収益は50万ドル(約6500万円)か、少なくとも30万ドル(3900万円)はある。だが、それを下回るようになると、投資家は社員が多すぎるのではと気にするようになる。
レイオフは本当に経営を良くするのか?
企業が従業員を解雇するのは、たとえ何百万ドルという退職金を支払うことになったとしても、人件費が減るので会社のコストを減らせると考えているからだ。
だがそれがきちんと実証されているのかというと、どうも怪しいようだ。
スタンフォード大学経営大学院のジェフリー・フェファー教授によると、IT企業のプレスリリースがどれも同じである理由は、ただ真似しているからなのだという。
「マネジメントの父ピーター・ドラッカーは、『考えることは大変だ、だからほとんどの経営者は考えない』と言っていましたよね」と語る。
フェファー教授によると、レイオフはコスト削減につながらない。レイオフで企業の収益が改善するという証拠はほとんどなく、それどころか悪化するという証拠ならある。
だがレイオフは株価には効く。ある研究によれば、レイオフに加えて工場まで閉鎖した企業は、レイオフのみを行った企業よりもリターンが良かったという。
レイオフは株価だけでなく人間にも影響を与える
だがレイオフは株価だけでなく、人間にも大きな影響を与える。
フェファー教授によると、文字通り人を殺すのだ。レイオフされた人も残された人のどちらも、自殺やストレスなどで死亡するリスクが高まるからだ。また残された人の生産性を低下させることもある。
ならば、企業はなぜレイオフをするのだろうか? 「人はいつの時代もありとあらゆる愚行に出るものです」とフェファー教授は手厳しい。経営者も例外ではないということであるらしい。
References:Why are so many tech companies laying people off right now? / written by hiroching / edited by / parumo
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