8人の女たち』(02)や『スイミング・プール』(03)で知られるフランスの鬼才、フランソワオゾン監督の最新作『すべてうまくいきますように』が2月3日(金)より公開される。常に尖った作品を世に送りだしてきたオゾン監督が本作で扱うのは”安楽死”。この考えさせられるテーマについて、MOVIE WALKER PRESS試写会でひと足早く作品を鑑賞した観客のコメントと共に紐解いていく。

【写真を見る】“死”という希望が見えたことで、徐々に回復して表情が明るくなっていく父…

フランスの鬼才が真摯に見つめる“安楽死

オゾン監督がフランスの国民的女優ソフィー・マルソーと初タッグを組んだ本作で描くのは、安楽死をめぐる父と娘の葛藤。これまでも『まぼろし』(00)や『ぼくを葬る』(05)など、死について独自の眼差しを向けてきたオゾン監督の集大成とも言える題材だ。

作家のエマニュエル(マルソー)はある日、妹のパスカル(ジェラルディン・ペラス)から、父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)が脳卒中で倒れたという報せを受け、急いで病院に向かう。無事意識を取り戻したものの、なによりも人生を楽しんでいた父は、体が自由に動かない現実をなかなか受け入れられず、娘たちに人生を終わらせる手伝いをしてほしいと相談する。

まさかの申し出に葛藤しながら、父の想いにまっすぐに向き合おうとする娘たち。一方で、地道なリハビリの甲斐もあって孫の発表会やレストランでの食事にも行けるほど回復する父を見て、考えを改めることを期待するが…。そして、安楽死に対する法の制度が父と娘たちの前に立ちはだかる。

ジャン=リュック・ゴダールにアラン・ドロン…高まる安楽死への関心

「先ごろのゴダール監督の自死に思うところがある」(30代・男性)とあるように、大きな話題となった昨年のジャンリュック・ゴダール監督の安楽死。さらにアラン・ドロンがスイスでの安楽死を希望したこと、第75カンヌ国際映画祭でカメラドールスペシャル・メンションを受賞した日本の『PLAN 75』(22)など、映画ファンにとってもこの話題は目に触れる機会が多くなっている。実際、試写会に参加した約半数の人にとって、このテーマが本作を鑑賞する大きなきっかけとなったようだ。

「『PLAN 75』など、”安楽死”は世界的な関心事」(40代・女性)

フランソワオゾン監督がどのように”安楽死”を描くのかとても興味があった」(50代・女性)

さらに「誰にとっての“すべてうまくいきますように”なのか気になった」(30代・女性)、「重いテーマに、祈りに似たタイトルで惹かれました」(30代・女性)など、特徴的なタイトルをきっかけに作品が気になったという人も多かった。

重いテーマを題材にしている作品だけに、観客たちの受け止め方も様々。満足度を聞いてみると、リアルな数字が浮かび上がった。

「90点、人生の終わりについて考えさせられた」(40代・女性)

「90点、安楽死について向き合う機会はありませんでしたが、より身近に感じられた。家族の気持ちがわかった」(30代・女性)

「86点、受け止める、受け入れるには時間のかかる作品だと思う」(30代・女性)

といった第一印象についてのコメントからもわかるとおり、「死について考えさせられる」という意見が多く見受けられた。また、「80点、安楽死を描いた映画だが、感傷的になりすぎない点がよかった」(50代・女性)、「70点、題材のわりに軽やかに続くストーリー、オゾンっぽくてよかったです」(40代・女性)と、オゾン監督ならではのストーリー展開と、観客にエモーションを押し付けてこない真摯なスタンスを評価する声も集まった。

■控えめだが熱量を帯びた名優たちの演技は圧巻のひと言

深刻なテーマを扱う本作にリアリティをもたらしているのが、実力派俳優たちの名演が浮かび上がらせるキャラクター。「父と娘(長女)の関係。どちらの視点、気持ちも痛いほど共感できた」(30代・男性)との感想にあるように、キャラクターが抱く複雑な感情が控えめながらも浮き彫りにされていく。

ソフィー・マルソーの美しさに圧倒された」(40代・女性)など、特に印象に残ったという声が多かったのが、マルソー演じる主人公で長女のエマニュエルだ。時には感情を爆発させながらも父の意思を汲んで、気丈に振る舞い手続きを進めていく姿に深い愛情を感じ取った人も多かったようだ。

「父の死を望んでないことは明白ではあるが、一方で自分の意思よりも父本人の意思を尊重している姿がすてきだった」(30代・男性)

「子どものころの回想シーンでは決して子どもにとっていい父親ではなかったのに、エマニュエルは深い愛情を感じて父親の意思を尊重し、いろんな問題をクリアにして行動に移していた。本当は生きてほしいという、彼女の気持ちや願いがわかって涙が出た」(50代・女性)

また、父の決意に対する葛藤や苦い過去の関係、それでも父に抱く愛情まで、心の機微を顔つきや言葉の端々で漂わせたマルソーの繊細な演技には、「感情を控えめにしていることで、より苦悩と父親への愛情の深さをうまく表現していた」(50代・女性)などの好意的なコメントも散見された。

そのマルソーに並ぶ存在感を発揮していたのが、父アンドレをユーモア交じりに演じたアンドレ・デュソリエ。「お父さんのキャラクターがチャーミング」(40代・女性)とあるように、とにかくわがままで頑固、思ったことをズバズバと口にするデリカシーのない性格の持ち主だが、それでいてどこか憎めない魅力を放っている。

「表情やしゃべり方について、少しずつ(症状が)回復しているように見せる演技が上手かった」(40代・男性)

「病気を発症した直後はまさに病人の”顔”で右半分の麻痺をリアルに表現していて、ラストに向かって死という希望を持ったことで病人とは思えないような普通の表情に変化するのがすごかった」(30代・女性)

とあるように、脳卒中によって身体が麻痺してしまった病状やそこから少しずつ回復していく様子を、表情や口調の変化で丁寧に表現した芝居は圧巻だ。

また、ジェラルディン・ペラスが演じた妹パスカルは、「頑固な父親に寄り添う姉妹の対比がよかった」(20代・男性)、「自分に一番近いと感じた。エマニュエルは強く、パスカルは人間の弱さを感じる」(20代・女性)など、姉とひと味異なるキャラクターとして物語に深みを与えている。

オゾン作品の常連である大女優シャーロットランプリングはうつ病を患う母クロードを演じており、「感情表現がとても人間らしかった」(30代・男性)、「冷たい態度のなかにも家族への愛情を感じる場面があった」(30代・男性)と、出演時間はあまり多くないものの随所での輝きに目を奪われた人も多かったようだ。

■リアルなシーンの数々に感情を揺さぶられる人も…

そんな名優たちのアンサンブルによって紡ぎだされるリアルで説得力のあるシーンの数々。そのなかでも、アンドレがエマニュエルに投げかけた数々の言葉には多くの声が寄せられており、観客の印象に残ったようだ。

例えば、物語を大きく動かす「(人生を)終わりにしてほしい」と懇願する言葉には「絶対に聴きたくないひと言」(50代・男性)、「生きることについて考えさせられました」(30歳・男性)といった意見が、「生きるのと延命は違う」という言葉には「自分の母親が亡くなる時に実感した」(50代・男性)、「身体が自分の思いどおりにならないながらも生かされるのは、すごくつらいだろうと感じた」(20代・女性)とのコメントが寄せられた。

中盤では、安楽死への道が開け、残りの日々を楽しむアンドレの様子が描かれていく。エマニュエルと夫セルジュ(エリック・カラヴァカ)、アンドレの3人がレストランで食事をするシーンは、幸せそうなアンドレとは裏腹に、残されたタイムリミットが刻一刻と迫るせつないひと幕だ。

「いままで泣かなかった主人公が泣いていた」(30代・女性)

アンドレのひと言ひと言がエマニュエルに刺さっていくのがよく見えた」(30代・男性)

それまで気丈に振る舞っていたエマニュエルの感情が抑えきれなくなる様子は、観る者に割り切れない感情を覚えさせるシーンとして焼きついたよう。そして、フランスでは禁止されているため、安楽死が認められているスイスへ向かおうとするアンドレ。だが、警察に通報されれば中止にせざるを得ないだけでなく、エマニュエルたちが自殺ほう助の罪で逮捕される恐れもあった。家族の付き添いもなく一人で旅立つアンドレと姉妹の別れのシーンには、淡々としたリアルなトーンに感情を揺さぶられた人もいたようで、下記のような言葉が並んだ。

「それぞれの想いが伝わってきて、涙なしでは観られなかった」(20代・女性)

「きっと伝えたいこと、話したいことはたくさんあるはずなのに、いざあの状況で話すことがあるとするなら、多くは語らず、あのくらいの言葉と時間なんだろうなと妙にリアルだった」(30代・女性)

■自分の親が死を望んだら…安楽死について観客はなにを思った?

本作は安楽死の是非を問う作品ではないものの、それでも鑑賞後は、自分がもし主人公の立場だったら?といろいろ考えさせられてしまう。そこで安楽死制度の必要性について投げかけてみたところ、「必要」が60%、「わからない」が30%、「必要ない/あまり必要ない」が10%という結果に。「必要」と答えた人からは

「延命して生きるのとどちらがよいかを考えると、あってもよいのではないかと思う」(20代・女性)

「生きる権利があるので、人生の幕を閉じる権利もあると思う」(20代・女性)

との声が集まり、「わからない」という人からは「この映画を観るまでは必要だと思っていたが、本人だけの問題ではなく、関わる多くの人の気持ちを尊重する必要もあるとわかり、結論が出せなくなった」(20代・男性)との意見も挙がった。

そして「必要ない/あまり必要ない」派からは「悲しむ人がいるから」(30代・女性)、「死ぬことで救われるものがあまりにも少ないから」(30代・男性)と、いずれも切実な意見が並んでいた。

一方、「劇中の主人公のように、自分の父親から安楽死をしたいと相談があった場合、協力できるか?」という質問には、19%が「できる」、33%が「できない」、48%が「わからない」と回答。それぞれの立場から

「意思を尊重したいので、できる限り寄り添って考える」(50代・女性/「できる」と回答)

「どんな姿でも親に生きていてほしい。罪悪感と後悔を抱えて残りたくない」(40代・女性/「できない」と回答)

「自分の人生と愛する人の希望で悩むのだと思う」(20代・女性/「わからない」と回答)

「頭では理解できても実際に家族がそうなったら気持ちが追いつかないと思う」(30代・男性/「わからない」と回答)

といった意見が寄せられ、安楽死の制度を「必要」と考えつつも、自身の親となると…という人も多く、簡単に割り切れることではないことを改めて示す結果となった。

また死や人生について考えさせられる本作を「誰に、どんな言葉で勧めたいか?」という問いに対しては、以下のような熱量を感じるコメントで埋め尽くされており、本作が観る者の心に刺さるなにかを与える作品だと証明していた。

「人生に悩んでいる人に、死について考えることで、生きることを考えさせられました」(20代・女性)

「いま現在身近な人との死別に向かっている人に、どんな決断も間違ってはいないと伝えたい」(50代・女性)

「同世代の友人に、将来考えなければならない問題を描いている映画」(50代・男性)

「両親に、”安楽死”というテーマと向き合う作品。見終えてから3人で語り合いたい」(40

代・女性)

安楽死”という議論を呼ぶテーマを扱いながらも、軽やかさとユーモアを併せながら、人生と向き合う様々な立場の人物を描いていく『すべてうまくいきますように』。生きることを考えさせられる1作なので、ぜひ劇場に足を運んでみてほしい。

構成・文/サンクレイオ翼

フランソワ・オゾンとソフィー・マルソーの初タッグ作の題材は”安楽死”/[c]2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES