
罰則化が進むネットの誹謗中傷の問題。インターネット広告会社に勤めていた佐々木瑠奈さん(仮名・38歳)は、当時の勤務先の悪い口コミを書いたことで会社に訴えられてしまったという。
◆勤務先への悪口が「名誉棄損」だと訴えられる
「家に郵送で訴状が届いたときは、まったく身に覚えがなかったのですごく驚きました」
佐々木瑠奈さん(仮名・38歳)は、分厚い訴訟資料を見せながらそう振り返った。訴状は、数か月前に辞めたインターネット広告会社からだった。
「退職間際にグーグルマップに書いた勤務先の口コミが、社会的評価を低下させる事実の流布になるとして、名誉棄損行為で訴えるという内容でした。書き込んだ内容は、パワハラやセクハラが多い、コロナ対策が杜撰という旨で、事実に基づいて書いています。削除しなければ50万円を支払えという趣旨が訴状に記載されていましたが『私は悪くない』という思いでした」
◆「書き込んだときのことはあんまり覚えていない」
ストレスフルな会社で、もともと「ぐちったー」というWebサービスに会社の愚痴を書き込んでいたという佐々木さん。イラッとしたり、不快な思いをするたびに、すぐに書き込むということを日常的にするようになった。
ネット上でストレスを吐き出すことが習慣化し、匿名でつぶやいていたことを、ついに会社名がわかる形でグーグルに書き込んでしまったのだ。
「書き込んだときのことはあんまり覚えていないんです。おそらく、5年も勤めてもう辞めると決心したときに、どうにでもなれと書き込む衝動に駆られてしまったんだと思います。しかもどうせバレると思い、本名で書き込んだのはやりすぎでした。だけど、裁判沙汰になるとまでは思ってなくて……」
◆口コミを削除することで収まったものの……
法テラスに何度も足を運び、司法書士に依頼して、訴状に対する書類を作成してもらうことに。書類作成のために資料を集め、司法書士とやりとりする作業に追われた。
「裁判は和解という形で口コミを削除することで収まりました。少額裁判司法書士報酬助成制度を利用して、裁判費用としては5万円程度で収まったけど、裁判が終わるまでに半年くらい時間を要したので、精神的にきつかったです。社会的に役に立つ内容だと思って書き込んだので、名誉棄損や誹謗中傷というつもりはなかったのですが、もう二度とこんな目には遭いたくないですね」
訴状が届くその日まで、事の大きさに気づかない人は、少なくないだろう。
取材・文・撮影/根本直樹 桜井カズキ 吉田光也 ツマミ具依

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