相次ぐ値上げに、生活苦に直面する母子世帯。「養育費をもらっているだろ」などという声も聞かれますが、実際に養育費を手にしている母子世帯は少数派というのが現実。窮地に追い込まれる母と子、その実情をみていきましょう。

母子家庭の過半数が「養育費の取り決めをしていない

――ほんと、きつい……

相次ぐ値上げに、街からは悲鳴が聞こえてきます。帝国データバンクによると、2023年4月までに値上げする商品は4月までに1万品を超え、去年の2倍のベースで物価高が進んでいるのだとか。

この値上げで特に影響が大きい代表格といえば母子世帯。低収入のケースが多く、少しの物価高も生活に響いてきます。

2020年に行われた『国勢調査』によると、全国のひとり親世帯は72万1,290世帯。そのうち「母子世帯」は64万6,809世帯。母子世帯となった理由で最も多いのが 「離別」で52万1,263世帯です。その家計の厳しさは、厚生労働省令和3年度全国ひとり親世帯等調査』で垣間見ることができます。

調査結果によると、2020年、母子世帯(平均世帯人員、3.18人)の平均年収は、自身の収入だけで272万円、勤務先からの収入(就労収入)は236万円。また就労収入の中央値は200万円。単純計算、月16.6万円、手取りにすると13万円ほどが生活のベースになるということ。これが、母子世帯のちょうど真ん中にあたります。

さらに4人に1人は就労収入が年115万円ほど。月換算で9.5万円、手取りにするとたった8万円です。住まいの形態など異なるので一概にいうことはできませんが、この金額で母と子、生きていくのも大変なことは明白です。

――元夫から養育費があるから大丈夫だろ

そういう声も聞きますが、実際はどうなのでしょうか。引き続き、前出の世帯調査でみていきます。

母子世帯のうち、「養育費の取り決めを行っている」のは47.0%、「養育費の取り決めをしていない」が51.0%。意外にも養育費の取り決めを行っていないケースが半数を超えます。取り決めが行われていない=元夫からの子育て・教育の援助がない、とは言い切ることはできませんが、その多くが金銭的な援助はないと考えていいでしょう。

なぜ半数以上が取り決めを行っていないのでしょうか。最も多い理由が「相手と関わりたくない」で50.8%。離婚に至るまでに色々とあったことが想像されます。続いて「相手に支払う意思がないと思った」が40.5%。また最も大きい理由をひとつ選んだもらったところ、「相手と関わりたくない」が34.5%でした。

【養育費の取り決めをしていない理由】

1位「相手と関わりたくない」50.8%

2位「相手に支払う意思がないと思った」40.5%

3位「相手に支払う能力がないと思った」33.8%

「取り決めの交渉がわずらわしい」19.4%、「相手から身体的・精神的暴力を受けた」15.7%、「取り決めの交渉をしたがまとまらなかった」14.6%

出所:厚生労働省令和3年度全国ひとり親世帯等調査』より

※複数回答

養育費の取り決めを行っても「3割」は支払いが滞り…

また養育費の受給状況を問うと、「現在も受けている」が28.1%と3世帯に1世帯以下。さらに「養育費を受けたことがある」が14.2%ということを鑑みると、「養育費の取り決めを行ったものの、その3割は約束が果たされていない」という現状がみえてきます。つまり実質、養育費のない母子世帯が7割近くにものぼる計算です。

養育費を受けている場合、その養育費は平均5万0,485円。子どもの数別にみてくと、子ども1人の場合は4万0,468円、子ども2人の場合は5万7,954円、子ども3人の場合は8万7,300円。月々の収入を中央値で考えると、母1人、子2人の母子家庭の場合、養育費ゼロだと前出の通り月13万円が生活費。夫がきちんと約束を果たしていれば約19万円が月々の生活費ということになります。

「養育費を払ってもらえないなら法的手段に出ればいい」と考える人も多いでしょう。確かにその通りですが、訴えるにはコストがかかりますし、日々の生活で精一杯のなか、行動を起こすのも大変です。また相手に支払い能力がない場合もあるので、無駄骨になることも考えられます。

――預貯金があればいいんじゃない、慰謝料とかもあったでしょ

そんな声もありますが、母子世帯の預貯金額は「50万円未満」が最多で39.8%。月々の赤字分を預貯金を取り崩して……はっきりいって、非現実的です。

【母子世帯の預貯金額】

50万円未満:39.8%

50万~100万円未満:9.6%

100万~200万円未満:11.5%

200万~300万円世帯:5.8%

300万~400万円世帯:5.0%

出所:厚生労働省令和3年度全国ひとり親世帯等調査』より

本来、もらえるはずの養育費を手にできない母子世帯。もちろん児童手当があったりと、月13万円の生活費にプラスαはありますが、余裕がある生活を考えられるほどの金額ではありません。そんななか相次ぐ値上げで、ゲームオーバー寸前。「必要があれば追加の対策をします」とよく耳にしますが、母子世帯に関わらず、全国には差し迫った人たちが大勢いることが伝わっていない様子。迅速な対応が求められます。

(※写真はイメージです/PIXTA)