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ド派手衣装の発端となった金と銀の羽織袴(写真提供:みやび

成人年齢が18歳に引き下げられてから初めて迎えた今年の成人式

全国各地の様子がニュースでも取り上げられていたが、中でもひと際目立っていたのが“ド派手”な衣装で有名な福岡県北九州市でなないだろうか。

今年も北九州市成人式会場では、両肩にホワイトタイガーのぬいぐるみを乗せた全身タイガー柄の袴姿の男性、肩を出した花魁姿や人力車に乗って登場する女性などが盛り上がる姿がニュースでも報じられていた。

そんな北九州市成人式を後方から支えているのが、北九州市に本店を構えるレンタル衣装店「みやび」。約20年にわたって、若者たちにド派手な衣装を提供し続けてきた。そこで、「みやび」店主の池田みやびさんに話を聞いた。

今では派手なイメージが定着したが、実は北九州市成人式は昔から派手だったわけではないという。

大きく変わるきっかけとなったのは’03年。「金さん」「銀さん」と呼ばれる男性2人からの“無茶ぶり”だったという。(以下、カッコ内はすべて池田さんの発言)

’02年成人式が終わったすぐあとに、通称『金さん』『銀さん』と呼ばれる2人の男の子がやってきて『来年の成人式で金と銀の羽織袴を着たい!』と言われたんです。

当時、男の子の羽織袴は黒が一般的で、せいぜい赤や青があったくらい。でも衣装の取引先が10社あったので、さすがに聞けばあるかなと思って軽い気持ちで引き受けました」

しかし、金と銀の羽織袴を用意できるか取引先に問い合わせたところ、全社から断られてしまう。

「どうしようかと頭を抱えていましたが、彼らは衣装を着られると思っていましたから、金さんは建築関係の仕事で働いて、銀さんアルバイトをしてコツコツ貯めたお金を『今月分です!』と毎月お店に持ってきてくれていたんです。

そんな姿を見ていたらやっぱり断れなくて……。なんとかして羽織袴を用意したいと思い、一から作ることに決めました」

それから池田さんは、スタッフと共に生地と糸をなんとか探し出し、取引先に羽織袴のサンプルを作ってもらったという。そして、ついに何度も修正を重ねて、やっとの思いで世界に一つだけの「金と銀の羽織袴」を完成させた池田さん。本人たちに見せると「思い描いた通りだ!」と大喜び。

成人式が終わると2人は、自分たちがどれだけ目立っていたかを嬉しそうに話してくれました。その姿を見て、やっぱり頑張って作ってよかったなと思いました。

レンタル費は1人数万円だったのですが、この羽織袴は一から作ったので1着、数十万円かかってしまって、じつは相当な赤字だったんですけどね(笑)」

■翌年からド派手衣装の注文が殺到!

無事に成人式を迎えることができて一安心していたのも束の間、今度は「金さん」「銀さん」を見た後輩たちが押し寄せて来たという。

「『金と銀の羽織袴ができるなら、俺たちはもっと派手な羽織袴を着たい!』と後輩たちがさらなる無茶ぶりをしてきたんです。

本当は断りたかったんですけど、何とかしてあげたいという気持ちで要望に答えていたらどんどん派手な羽織袴が出来上がっていました。やはり1つ上の先輩の成人式が基準になるので、『この先輩よりも派手に!』とリクエストする人が多いですね(笑)」

実際に、今年「みやび」でレンタルした衣装の中には、蛍光のピンク、緑、黄色の羽がついたサンバの衣装のような羽織袴、全身金色の羽織袴にドでかい白いファーのストールを巻いた衣装などがあり、年々“派手の基準”が増しているという。

そんな“無茶な要望”が普通ではないと気がついたきっかけは、他県にお店を出店したときだったそう。

「東京や大阪にも支店を出したのですが、北九州ほど“無茶で大胆な”要望をする人が圧倒的に少なかったんです。

東京の方は少し遠慮しているところがあるのかもしれませんが、北九州の方は人との距離が近いというか、遠慮がないというか(笑)。“これくらい普通でしょ”という感じがしましたね」

デザイン性が高い衣装は注目を集める一方で、派手な格好をした新成人が問題を起こすニュースも少なくない。

実際にネットでは《毎年必ず取り上げられる北九州成人式。はっきり言って、北九州出身者からしたら、恥以外の何物でもない…》《北九州成人式怖すぎ。なんであんなんなの? テレビに流れてきたから見たけど、すごいダサい》などと厳しい声もしばしば。

そんななか派手な衣装を20年提供し続けるにあたって、苦労したことはなかったのだろうか——。

「派手な衣装のレンタルを始めた当初はクレームの電話が鳴りやまなかったことがありました。多いときでは1日10件も電話がかかってきて……。『お宅のせいで!』と、名前を名乗らず文句を言われることもよくありましたね」

それでもド派手な衣装を作り続ける理由を、池田さんはこう話す。

「派手な格好をしている人でも普段は真面目に働いている人がほとんどなのです。なかには公務員自衛隊員の人もいます。

成人式は人生で一度きりのイベントなので、彼らはこの日のために何カ月も前から準備をしているんです。自分で働いたお金を毎月少しずつ持ってきてくれる人もいたりと、毎年楽しみにしている新成人の期待を裏切りたくないという気持ちが大きいんです。なので、どんな無茶な要望にもなるべく応えたいと思っています」

現在、「みやび」のド派手衣装は日本のみならず、世界にまで活躍の場を広げているという。

「昨年11月には、ニューヨークのブロードウェイで個展を開催したんです。オファーをくれた方も大成功を収めた! と言ってくれて嬉しかったです」

さらに今年はニューヨーク・ファッションウィークのオファーも来ているのだとか。

2人の“無茶ぶり”から始まったド派手な羽織袴は、世界をも魅了するファッションになりつつあるのかもしれない——。