1年ごとに毎年一定の日数が与えられる「年次有給休暇」。弁護士ドットコムには「途中退職時の有給消化について、会社と揉めています」という相談が寄せられています。

相談者の女性は、1年ごとの契約で3年ほど勤務しています。12月末で退職する意向を伝え、引き継ぎ準備をしていたところ、有給が20日ほど残っていることが発覚しました。

そこで「有給を消化するため退職日を1月31日に変更したい」と伝えたところ、部長から「そんなことは許されない、3月末の契約満了までいて使える有給だから、揉めたくないなら(退職日を)12月31日にしておきなさい」と言われてしまいました。

部長が言うように、契約途中で退職する場合、有給休暇を使うことはできないのでしょうか。中村新弁護士に聞きました。

●時効にかからない限り年休は奪えない

結論から言うと、年休権は労基法上当然に発生する権利であり、取得日から2年の時効(労基法115条)にかからない限り奪うことはできません。これは正社員契約社員アルバイトかによって異なることはなく、契約期間中に途中退職する場合でも、すでに取得した年休権が失われることはありません。

労働基準法39条は年次有給休暇の権利について定めており、週の所定労働日数が5日以上または週の所定労働時間が30時間以上の労働者は、まず入社後6カ月継続勤務した時点で10日間の年休権を取得します(労基法39条1項、労基法施行規則24条の3)。

そして、1年6カ月継続勤務した時点で新たに11日、2年6カ月継続勤務した時点で新たに12日の年休権を取得します。この年休権はその後5年6カ月継続勤務時まで年2日ずつ増加し、6年6カ月以上継続勤務した場合には、以後毎年20日の年休権を取得できることとなります(労基法39条2項)。

なお、年次有給休暇を取得するためには、全労働日の8割以上出勤することが必要です。また、週の労働時間が30時間未満の労働者については、週所定労働日数に応じて上記より少ない年次有給休暇(例えば、週4日勤務ならば当初の年休は7日、週3日勤務ならば当初の年休は5日、など)が与えられます。

●年休の時期を指定する権利は原則労働者にある!

設問のご相談者はすでに3年ほど継続勤務しているので、所定労働日数が週5日以上または週の所定労働時間が週30時間以上であるならば、これまでに計33日の年休権を取得したことになります。

有休の残りは20日ほどというご認識なので、12~13日の年休権をすでに消化していると思われますが、年休権は先に取得した分から消化する扱いとされるので、まだ時効にかかっていない年休権が20日ほど残っていることになります。ご相談者は、退職日までこの年休権を行使することができます。

また、年休の時期を指定する権利は原則として労働者側にあるので、1月31日を退職日としてそれまでの労働日を年休消化に充てたいという労働者の申入れを会社が拒むことは難しいでしょう。

なお、このような場合に労働者側が年休の取得に代えて年休の買取りを会社に要求することもありますが、これを許容する規定が就業規則にない限り、買取りの請求までは認められません。

【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、2021年9月まで東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/

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