MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、フランソワオゾンが”安楽死”を巡り最期の日まで奔走する家族の姿を描くヒューマンドラマ、豊川悦司が腕利きの鍼医者と仕掛人という2つの顔を持つ男に扮する時代劇、北村匠海中川大志、古川琴音、松岡茉優と若手実力派が集結し現実に苦悩する若者を演じる群像劇の、人々のつながりを描く3本。

【写真を見る】ソフィー・マルソーが娘、エマニュエルに扮する(『すべてはうまくいきますように』)

■このテーマにして、このしなやかな軽やかさ…『すべてうまくいきますように』(公開中)

近年、社会派から歴史ものまで意欲的に幅を広げている、日本でも人気の高いフランソワオゾン。『まぼろし』(02)、『ぼくを葬(おく)る』(06)でも見つめた“死”は、彼の命題の一つだ。“死”を巡る3作目となる本作は“安楽死”をテーマに、人間の尊厳、厄介だがどうしようもない家族の愛と業と絆の物語。脳卒中で身体の自由が利かなくなった知的で陽気な84歳の父から“安楽死の手助け”を頼まれた長女エマニュエルの葛藤と奮闘が、家族との関係を絡めて活写される。

転院先探しが難航するエマニュエルの道行きは、途方に暮れる彼女の心模様に呼応し、観る者の心をグラグラ揺らし圧迫する。そんな娘の苦悩をよそに、最期まで自由奔放な父、一見冷淡な母が、ひどく人間臭く、憎らしくもちょっと笑える。かのソフィー・マルソーがエマニュエルを等身大に、オゾン作品常連のシャーロットランプリングが貫禄で母を演じる。父親役の名優アンドレ・デュソリエの熱演も素晴らしい。心情的、宗教的、あるいは単に法順守の観点から反対派を登場させ、ガッツリ“安楽死”を家族の視点からリアルに捉える。その覚悟が迫力につながり、誰しもの胸を揺らさずにいられない力作。このテーマにして、このしなやかな軽やかさは、さすがオゾン!姉妹ものとしての味わいも絶品だ。(映画ライター・折田千鶴子)

■いままでにない池波正太郎ワールド…『仕掛人・藤枝梅安』(公開中)

池波正太郎原作の「仕掛人・藤枝梅安」は緒形拳、小林桂樹、渡辺謙などの主演で何度も映像化されてきたが、これは河毛俊作監督、豊川悦司主演で映画化された2部作の1本目。監督に会う機会があったが、映画『ジョーカー』(19)の時代にフィットした、ダークヒーローとしての殺し屋、梅安の創造を目指したとか。時代劇でありながら、押井守の「攻殻機動隊」もので知られる川井憲次の音楽が似合う、陰影を活かしたスタイリッシュな映像美で、いままでにない池波正太郎ワールドが生まれた。

豊川は表の顔では腕のいい鍼医者として人を助け、裏では金で人を殺すという矛盾した梅安の二面性を見事に表現。特に殺しの場面での不気味な怖さと、女性たちに見せる色気は、歴代梅安役者の中でも存在感が際立っている。天海祐希が梅安と因縁のある、美貌の悪女、おみのを好演。梅安とおみの、それぞれの違った愛が絡みあう、甘くせつないクライマックスシーンが印象的だ。(映画ライター・金澤誠)

■主役級の4人の高い演技力で、よりシンクロ…『スクロール』(公開中)

学生時代の夢や希望を捨てきれぬまま、理不尽な社会に飲み込まれていく若者たちの群像劇。小学生時代から活動してきた互いに同志のような存在である北村匠海中川大志がW主演をはたし、対照的だからこそ魅かれあう”僕”とユウスケの関係性を自然と構築。黙れば黙るほど、押さえつけられた感情が露わになっていく、北村の無言の演技はいまや安定の域。一方、軽佻浮薄な印象ながら、友人の死をきっかけに誠実さを身につけるユウスケという難しい役どころを担った中川の成熟度に舌を巻く。さらに誰とも違うセンスで”僕”の魅力に気づき、羽ばたかせる古川琴音の”私”の強さには憧れを。空っぽな自分への焦りから、恋愛に依存してしまう菜穂を負の感情も恐れず、さらけだして熱演する松岡茉優には近親憎悪のような感情すら抱く。

多くの若者から「自分たちの物語」と共感を得た原作が、主役級の4人の高い演技力で、よりシンクロ。例えるなら、月と太陽、星と闇のように明るさがまるで違う個性的な4人の輝く瞬間を捉え、一体感を持たせた川上智之の映像の世界に魅了される。(映画ライター・高山亜紀)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

安楽死を望む父と、その娘たちの姿を描く『すべてはうまくいきますように』/[c] 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES