
若いうちは収入も少なく、生活も常にギリギリなんてことは珍しくありません。特に年末は何かと出費も多く、総務省統計局「家計調査」によると1年で消費支出がもっとも増えるのが12月。2021年の場合、同月の2人以上の世帯の消費支出は31万7206円で、月の平均支出額よりも約3万8000円も多いとのデータが出ています。
年末の大井競馬場で競馬デビュー
「年の瀬が迫った2019年の12月29日、先輩に連れられて来たのは羽田空港近くの大井競馬場。この日は『東京大賞典』って年末最後の大きなレースがあり、先輩の目当てもこれでした。でも、こっちは競馬新聞の見方も馬券の買い方もまったくわからない素人。先輩に教えてもらったり、スマホで調べたりして毎レース100円ずつ3~5点ずつ賭けていましたが、メインレースまでに当たったのは1回だけ。それも金額は忘れましたが、すごく低い配当でした。払い戻しの機械に馬券を入れても小銭しか出てこなかったので(笑)」
競馬場に着いたのはお昼前で1レース目から賭けていたわけではないですが、メインレースの時点ではすでに3000円以上のマイナス。少額ずつの勝負だったとはいえ、貧乏フリーターだった当時の近藤さんにはかなりの出費です。
「1点1000円ずつ買う」ことに

実は、パチンコやパチスロには一時期ハマった経験があるという近藤さん。熱くなりすぎて生活費まで使ってしまったことがあり、同じ失敗を繰り返さないためにチビチビと賭けていたとか。しかし、このままでトータルで負けとなる可能性が高く、ここでガツンと勝負したいという誘惑に駆られます。
「過去の失敗を教訓にして財布には1万円しか入れてませんでしたが、まだ6000円以上残っていました。そこでメインの東京大賞典では思い切って 1点1000円ずつ購入したんです」
根拠ナシで勝負に出た
そうは言っても当時の月収はかろうじて20万円を超える程度。しかも、1人暮らしだったので家賃の高い東京では出費も多く、ここで負ければ生活がさらに苦しくなるのは明らかです。ちなみに近藤さんがこのとき買ったのは、順不同で1~3着に入る馬3頭を予想する「三連複」と呼ばれる馬券。選んだのは【1】【5】【9】【10】の4頭からの組み合わせ4点ですが、1000円ずつ買ったのでこのレースだけでも馬券代は4000円になります。
「競馬新聞で印がいっぱい付いている馬が人気だと教えてもらっていましたが、1番人気の馬はあえて外し、他の人気馬の組み合わせで選びました。根拠はゼロでなんとなく決めただけですけど、この日は直勘で選んで1回しか当たってなかったし、当たるとは思ってなかったですけどね」
メインレースを見事的中!

とは言いつつも「頼む、当たってくれ」と心の中で祈っていたのは言うまでもありません。レースはスタートから【1】の馬が先頭で逃げ、他の3頭は中団から後方に待機する展開。最後の直線に入って【1】の馬は馬群に沈みましたが、ここで【5】【9】【10】の残りの3頭が抜けだす、手に汗握る展開になります。
「ゴール直前、1~2位は9番、10番で確定しそうでしたが問題は3位争い。買っていない12番の馬が3位で、その外から自分が買ってた5番の馬が激しく追い上げていました。だから、思わず『行けーっ! ブチ抜けーっ!』って大声で叫んでましたね。ゴール手前で5番が見事差し切り、三連複が的中したとわかった時は、嬉しさのあまり思わず『よっしゃー!!』ってガッツポーズを取ってました(笑)」
いつもより豪勢な年末年始に

なお、彼が当てた三連複の最終オッズは75.5倍。これを1000円分購入していたため、手にした配当金は7万5500円。一瞬にして当時の月収の3分の1あまりの臨時収入を得たことになります。
「隣にいた先輩も『マジか!』って一緒に喜んでくれました。で、馬券を換金した後は競馬場を出て、そのまま2人で飲みに行きました。先輩はこの日負けたので自分がおごるハメになり、居酒屋とスナックをはしごして一晩で2万円以上が消えてしまいましたけど。それでもお金はまだ残っていたし、おかげでこの年末年始は友達と飲みに行ったりして、いつもの正月より豪勢に過ごすことができました」
ただし、競馬はその後も付き合いで何度か行ったものの、現在は完全に足を洗ったといいます。
「今は正社員として働いているので給料は増えましたが、結婚を考えてる彼女がいますし、将来のことを考えたらギャンブルから自然と足が遠のいちゃって。初競馬であんなふうに勝っちゃったし、あの興奮はいまだに忘れられないですけどね」
まさに絵に描いたようなビギナーズラック。それが常に金欠だったころの出来事とあれば、一生忘れられない思い出になったかもしれませんね。
ー特集・涙の金欠エピソードー
<TEXT/トシタカマサ イラスト/カツオ(@TAMATAMA_GOLDEN)>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中
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