いまだ終わりのみえないロシアウクライナ戦争。各メディアによる報道で大まかな状況は把握できますが、現地の詳しい様子をうかがい知ることはできません。そのようななか、元国連職員で現在はロンドンに住む谷本真由美氏は、日本人の知らない「ロシア」と「ロシア兵」の実態を解説します。にわかには信じられないロシア兵の「給与額」とは……みていきましょう。

時給はわずか10円…極貧ロシア兵の蛮行

ロシアは、ペレストロイカ後に経済が改善されたとはいっても、国土はたいへん広い国で、多くの地域は相変わらず貧乏です。

ロシア兵はウクライナで、あらゆるものを盗みまくって戦車や装甲車に積んで搬送し、ベラルーシ郵便局から送りまくっていることが報道されました。

たとえばロシアの独立系ニュースサイト、「Mediazona」が配送会社であるSDEKにウクライナベラルーシの配送拠点からロシア向けに送付された荷物の行き先と大きさを分析したところ、ロシア兵は略奪品を自分たちの故郷へ送っていたことがわかりました。

開戦前に扱った荷物の平均的な大きさを超える物が多く、中身はタイヤ、スニーカー、家電などで明らかに盗まれたものだらけ。最も多くの荷物が送られたのはシベリアの石炭地帯にあるウルガ(Urga)という街で、この街からは虐殺があったブチャなどに兵士が送られており、5.8トンもの荷物が短期間で送付されているのです。

このような略奪行為は現地の人がスマホで撮影した動画やウクライナ政府の電話盗聴などで明らかになっており全世界に公開されています。

他人の家のスマホやコンピュータ、貴金属といった持ち運びが楽な高額商品だけではなく、ビタミン剤から台所用品、中古の子ども服、さらにエアコンからぶっ壊れた洗濯機、さらに室外機がないエアコンまで盗んでいるのです。

これはロシアの現地に赴いたことがある人間であればよくわかります。とにかくロシアはド貧乏なんですよ。

ロシア人のリアルな生活をうたった民謡「一週間」

ライターの西牟田靖氏が書いた『僕の見た大日本帝国』という本を読むとよくわかりますが、なんと2000年前後の時点でサハリンの一般家庭には水道がなく、家自体が掘っ立て小屋。水道がないから樽に雨水を貯めておいてヒシャクですくっての生活です。この家は現地の基準では豊かなほうなのです。

このような田舎では、なんと運送手段に馬やロバを使っていたりします。

この状況を見るとロシア民謡の「一週間」で「月曜日にお風呂をたいて~火曜日はお風呂に入り~水曜日に友だちが来て~木曜日は送っていった」は、ようするにロシアの実生活であったということがよくわかるでしょう。

正規兵でも月給10万円…ロシア兵の「過酷すぎる」待遇

ちなみにこの貧乏っぷりは私が訪問したロシアの極東や、かつてはロシアだった中央アジアカザフスタンでも似たようなところがあります。ここまではひどくないし、今はおしゃれカフェなどもできて改善されましたが、それでも日本や東南アジア大都会の基準だととんでもなく貧乏です。

日本のマスコミに登場する主要都市の街には外資系のカフェとかZARAH&Mといったファッションブランドの店舗があり、一見西側先進国と似たような風景です。

しかし、少し郊外のほうは道路が舗装されてなく、あばら家が建ち並んでいます。現地に行くと冷戦時代にアメリカと張り合っていたあの超軍事大国は一体何だったのかという疑念しか浮かんできません。

さらにはウクライナで戦闘中のロシア軍が携行する食料の賞味期限が切れまくりで、ひどいものは2015年以前だったことが露呈しても驚くほどではありません。

食料の提供はロシア民間軍事会社(PMC)のワグナー・グループ(WagnerGroup)で、同社はアメリカの大統領選挙にネットを駆使して影響力を及ぼしたインターネット・リサーチ・エージェンシー(InternetResearchAgency)も運営しています。

ワグナーロシア政府と巨額の調達契約を結び、食料や営舎の品質を抑えて中抜きすることで莫大な利益を得ていたという疑惑があります。

ロシア軍の兵站はひどく、食料不足の兵士が店舗を襲うだけではなく、ウクライナの田舎で、ある村の民家に食料を物乞いして回っていたのです。

アメリカの軍事アナリストの分析では、軍用車両のタイヤは激安の中国製のため摩耗が激しく、雪解けの泥の中を走行できない状態でした。夜間用の暗視ゴーグルがなく、暗くなると戦車や軍用車両は移動ができません。GPSはなくソ連時代の紙の地図で移動せざるを得ないという悲惨な状態だったそうです。

ちなみに2022年9月にはプーチンが部分的動員令を発動し、数多くのロシア人が徴兵されました。またイギリスにおける2022年5月の報告では、ロシアの徴兵兵士の給料は時給換算で10円、正規兵でも月給10万円に満たないのです。

日本のブラック企業なんぞ、まだまだ甘いということです。

谷本 真由美

公認情報システム監査人(CISA)