大昔、ある魚が死んで土に埋まり、やがて化石になった。それから3億1900万年後に発見されたその化石には、世界最古の脊椎動物の脳が保存されていたそうだ。
『Nature』(2023年2月1日付)で発表された研究によると、その魚は「コッコケファルス・ウィルディ(Coccocephalus wildi)」という条鰭類(じょうきるい)の仲間であるそうだ。
約2万7000種が分類される条鰭類は、今生きている魚の大部分が属する大きなグループだ。
コッコケファルスの化石は、現生の魚だけではわからないこの大グループの脳がたどった進化の軌跡を知る手がかりであるという。
じつはコッコケファルス(Coccocephalus wildi)の化石自体は、100年以上前にイギリスの炭鉱で発掘されたものだ。
今回、米ミシガン大学や英バーミンガム大学をはじめとする研究チームは、その化石の頭蓋骨の中身をCTスキャンでのぞき込んでみた。
すると、そこには長さ2.5センチほどの脳と脳神経が残されていたのだ。
その状態はきわめてよく、「精密なまでのディテール」で保存されていたという。
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コッコケファルスの頭蓋骨の化石。外観からその重要性はよくわからない / image credit:Jeremy Marble/University of Michigan News
脊椎動物の脳がたどった進化を知るヒント
骨の化石はどこにでもあるが、脳のような柔らかい組織の化石はとても珍しい。
それが重要なのは、大昔の脳と現代の脳を比較して、その進化の道筋をうかがい知ることができるからだ。
たとえば、現生の条鰭類の脳は、胚の中で発達しながら外側に折りたたまれていく。ところがコッコケファルスの脳は内側に折りたたまれているのだ。
脳を撮影したCT画像 / image credit:Figueroa et al./Nature
バーミンガム大学の古生物学者サム・ジャイルズ氏によれば、コッコケファルスの脳は、ヘラチョウザメやチョウザメの脳に似ているという。
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ヘラチョウザメとチョウザメは3億年以上前に条鰭類から枝分かれした「原始的」な魚とされている。
なお、今は珍しいとされる脳の化石だが、知られていないだけで案外普通に存在する可能性もある。
研究の主執筆者であるミシガン大学のロドリゴ・フィゲロア氏は、「最新の画像処理技術の普及によって、じつは脳や軟組織の化石が普通にあることがわかったとしても、驚きはしません」とニュースリリースで語っている。
References:319-million-year-old fish preserves the earliest fossilized brain of a backboned animal | University of Michigan News / 319-million-year-old fossilised fish illuminates backboned animals’ brain evolution - University of Birmingham / written by hiroching / edited by / parumo
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