「当時は売れたい、という気持ちが強くて。知り合いに『珍しい職業の人はいませんか?』って聞いて、とにかく誰かに会いに行っていました」と語る入江慎也さん
「当時は売れたい、という気持ちが強くて。知り合いに『珍しい職業の人はいませんか?』って聞いて、とにかく誰かに会いに行っていました」と語る入江慎也さん

2019年に起こった闇営業騒動によって、同年6月に吉本興業を解雇されたお笑いコンビ「カラテカ」の入江慎也さん。現在は清掃会社「ピカピカ」を立ち上げ、入江さん自身も現場で日々、汗を流している。

2月1日に発売された最新刊『信用』では、騒動から3年半がたち、自分の行動の何がよくて、何が悪かったのかを自問自答し、「失った信用を少しでも取り戻したい」と苦悩する心の内が綴(つづ)られている。

清掃事業に打ち込む現在の心境、今後の展望、そして吉本興業時代の話まで、入江さんと20年以上にわたって親交のあるインタビューマン山下が直撃する。

* * *

――入江さんの現状を教えていただけますか?

入江 20年7月に清掃会社「ピカピカ」を立ち上げて2年半になりました。現在、フランチャイズを含めて10店舗やらせてもらっています。

――ユニフォームにもたくさん協賛がついていますよね。

入江 「ピカピカスポンサー制度」というものを今年1月から始めました。

――1ヵ月弱で、ボクシングの世界チャンピオンのパンツぐらい協賛がついてますやん(笑)。

入江 はい。一応、コンビ名がカラテカなんで(笑)。まさに格闘技を見ているときに、選手の皆さんがパンツに企業のロゴをつけていたので、「こういうのを清掃会社でやっているところはないな」と思って。

――普通ないでしょ(笑)。

入江 ユニフォームに書かれているスポンサーさんの社名を弊社のホームページに掲載したり、僕がスポンサーさん同士をつなげて交流していただいたりしています。あとは僕が取材を受けたり、講演会に出たりするときにこのユニフォームを着させていただいて、ちょっとでも宣伝になればと思っています。

――芸人時代には、「友達5000人」と言われていましたが、そもそもなぜそんなに人脈を広げたいと思ったんですか?

入江 当時はとにかく売れたい、世に出たい、という気持ちが強くて。それで、「みんながあんまり会ったことのない人とつながったら話題になるな」と思ったんですよ。

――売れる手段として人脈を広げていたんですね。

入江 はい。それで知り合いに「珍しい職業の人はいませんか?」って聞いて、とにかく誰かに会いに行っていました。

――例えば、どんな人ですか?

入江 政治家さんとかマサイの戦士とか。

――マサイの戦士とはどうつながるんですか?

入江 僕が『進ぬ!電波少年』(日本テレビ)に出たときにマサイの通訳をしてくださった日本人女性の方が、日本人で初めてマサイに嫁入りしたんです。向こうは一夫多妻制なんで8番目の妻で。

――すごいですね。

入江 その方から、マサイの旦那さんを紹介してもらって、日本に来たときに会いました。

――それは番組絡みですか?

入江 プライベートです(笑)。

――確かにプライベートでマサイの戦士となかなか会えないですから、面白いですね。

入江 あとは加藤茶さんの義理のお父さんとか。

――え? それはどうやってつながったんですか?

入江 ある会社の社長との飲み会ですね。その社長に「友達を呼んでいい?」と言われて、来られたのが後の加藤茶さんの義理のお父さんでした。

――まだその時点では加藤さんは結婚していなかったんですね。 

入江 はい。その方とはその席で仲良くなったんですけど、しばらくして、「今度、うちの娘が結婚することになったから、旦那さんを入江君に紹介したい」と言われて。それでいらしたのが加藤茶さんでした(笑)。

――(笑)。

入江 友達の娘の旦那さんが加トちゃんだったから、めちゃくちゃびっくりしましたよ(笑)。

――意外すぎますもんね(笑)。

入江 結婚式にも呼んでいただきました。芸人の先輩は加藤さんに呼ばれているから、当然、新郎側に座っているじゃないですか。僕だけ新婦側に座っていました(笑)。

――(笑)。こういったつながりは面白いですが、19年には人脈が広いことが逆にあだとなり、失敗につながってしまいました。

入江 僕は10年間、クラブイベントを開催していて、そこで声をかけられた人と見境なく、何も考えずに連絡先を交換していました。脇が甘かったですね。

――後悔していることはありますか?

入江 芸人さんを営業に誘ったときに、僕が宮迫(博之)さんや(田村)亮さんのことしか考えられていなかったんです。おふたりともコンビを背負っているということを理解できていなくて、一個人として誘ってしまった。本当は蛍原(徹)さんや(田村)淳さんの許可も取らないといけなかっただろうし。さらにご家族のことまで考えられていませんでした。

――カラテカは解散していませんが、相方の矢部太郎さんとは会っているんですか?

入江 年に3、4回ですかね。ごはんに行って現状報告をして、相談に乗ってもらっています。

例えば、僕が「ピカピカでYouTubeチャンネルを開設したいんだけど、どう思う?」と聞いたら、「YouTubeをやると、入江君は登録者数を気にするようになると思う。最初は清掃の動画だけ上げていても、再生回数が伸びないと、性格上、そればかり気にしてしまって、そっちがメインになって清掃がおろそかになってしまう。それはよくないから、今はやらないほうがいいんじゃない」と言ってくれました。

――さすが矢部さん、入江さんの性格をよくおわかりで(笑)。将来的に、カラテカでライブもやりたいそうですね。

入江 17年に17年ぶりの単独ライブをやったんですけど、エンドロールで「また17年後に会いましょう」って出したんです。「ふたりとも57歳のおじさんじゃないかよ」というボケで。

――実際はどれぐらいのスパンでやろうと思っていましたか?

入江 2年後ぐらいにできたらいいなと思っていたんですけど、ちょうど2年後に事務所を契約解除になったんです。

――まさかですね。今は何年後を目標にしているんですか?

入江 僕と矢部が5年後に50歳になるので、その区切りで実現できるように今は清掃の仕事を頑張りたいです。

入江慎也(いりえ・しんや)
1977年生まれ、東京都出身。高校の同級生である相方の矢部太郎と共にカラテカを結成し、よしもとクリエイティブ・エージェンシー(現・吉本興業)に所属。バラエティ番組で活躍する一方、「日本後輩協会」を立ち上げ、後輩力を生かして多様な人脈を駆使するなど多方面で活動。2019年6月、いわゆる「闇営業」問題で吉本興業から契約解除。2020年、清掃業の「株式会社ピカピカ」を立ち上げる

■『信用』
新潮社 1540円(税込)
「友達5000人芸人」と呼ばれ、人脈の豊富さをウリに活躍していた入江慎也さん。しかし、その人脈の豊富さがあだとなり、闇営業騒動を起こしてしまった。この騒動をきっかけに、自身は所属していた吉本興業を解雇となり、この一件に関わった先輩芸人や後輩芸人、さらにその家族の人生をも狂わせてしまった。人とのつながりにおいて、人間関係をどう正しく築けばよいのか。人付き合いについて考えさせられる一冊

取材・文/インタビューマン山下 撮影/山上徳幸

「当時は売れたい、という気持ちが強くて。知り合いに『珍しい職業の人はいませんか?』って聞いて、とにかく誰かに会いに行っていました」と語る入江慎也さん