国民の90%が歯の病気になっているというモンゴル。専門家の研究結果によると、虫歯で視力が低下した子どもは約20%に及び、さらに虫歯は心臓や腎臓、胃の病気の原因にもなっているという…。モンゴルの視点から見た国際ニュース、また同国社会の政治的・経済的ニュースを取り扱う現地モンゴルウランバートルのメディア『The UB Post』より翻訳・編集してお伝えする。

全国民の90%が歯の病気

口腔の健康は、人々が生涯にわたって幸福であるために不可欠な要素だ。残念ながら、モンゴルの子どもたちの虫歯は「砂糖の過剰摂取、親の無責任、健康教育の欠如」などが原因で、非常に高い水準にある。

ある調査によると、全国で人口の90%が歯の病気に苦しんでおり、すべての年齢層の中で「子どもの虫歯が最も多い」という。

モンゴルでは、5歳、12歳、15歳、18歳の子どもと35歳から44歳、65歳から74歳の成人の口腔内の健康状態に関する初の全国調査が2013年に行われ、翌年も実施された。これらの調査では、2008年にモンゴル国立医科大学歯学部が実施した調査と比較して、都市部、農村部ともに、子どもの虫歯だけでなく、大人の合併症が劇的に増加していることがわかった。

6歳から17歳の子どものうち、80.6%が虫歯

同じく同大学が発表した2021年の「モンゴルにおける就学生の口腔衛生不良の有病率と相関性に関する研究」でも、学生の口腔衛生不良の有病率は33%であることが判明している。

さらに、2022年5月1日から実施されている全国規模の早期健康診断で、17歳以下の子どものうち、何らかの病気の疑いがあるケースが9万384件登録されている。その結果、子どもたちの間で虫歯が最も多いことが明らかとなった。具体的には、10月6日時点で、6歳から17歳の子どもの80.6%にあたる5万3,178人が虫歯に悩まされていることが明らかになった。

バヤンズルク地区にあるファミリーヘルスセンターの医師 B・ビャンバジャブ氏は、「17歳以下の子供たち合計876人が来院し、早期健康診断を受けています」と明らかにした。「虫歯は特に子どもたちに多く見られます。特に、800人以上の子どものうち76%に虫歯がありました。さらに、50%が慢性扁桃腺炎で、約20%は視力が低下しています」(ビャンバジャブ氏)。

こうした長年にわたる相次ぐ調査結果は、子どもの歯の病気が国民的な大きな関心事になっていることを証明している。だからこそ、口腔の専門家や研究者は、歯の問題が「静かな疫病」のレベルにまで達していると警告しているのだ。

子どもに食べ物ではなく“毒”を与えている

虫歯の最大の原因のひとつは、お菓子や砂糖の多量摂取だ。特に12月〜1月にかけた年末年始は、ほとんどすべての店が、ソーダキャンディーチップス、ベーカリー製品などからなるギフトバッグで棚を埋め尽くす。チップスはもちろん、100%のジュースやお茶にも砂糖が多量に含まれている。最近では、牛乳やヨーグルトにも砂糖が加えられている。子どもの健康を考えて、ソーダの代わりに牛乳を買い与える親もいるが、いちごミルクやバナナミルクにも大量の砂糖が含まれていることを知らないのだ。

医学の専門家は、「糖分の多い食品は子どもにとって食べ物ではなく“毒”である」と話す。これらを見て見ぬふりをする親が増えるにつれ、子どもの虫歯、糖尿病、肥満の危険性が上がっていくのだ。

オーラルケア歯科クリニックの歯科医 B・バヤルマー氏は、「モンゴル人は多くの祝日を祝います。その度に、特に子どもたちはお菓子やフルーツをたくさん食べます。歯の病気だけでなく、内臓の病気、老年症候群、虫垂炎なども増加しています。つまり、休日にお菓子を食べる子どもたちは、後々あらゆる病気にかかる危険性があるのです」と話す。

また、スフバートル郡9区にあるファミリーヘルスセンターのシニアドクター B・ツェツェグマァ氏は、「親は子どもにお菓子やチップス、ソーダをたくさん与えています。子どもの健康を守り、免疫システムをサポートする食べ物や飲み物を与えることで、親が常に子どもの口腔内の健康に気を配ることが必要です。虫歯は、心臓や腎臓、胃の病気など、さまざまな病気の根本原因です。歯の病気を持つ子どもが健康に育つかは疑問です」と話した。

親は「お菓子を買わざるを得ない」状況にある

年末年始やこどもの日、その他祝日には、お菓子の代わりにおもちゃや絵本、ぬいぐるみなどをプレゼントすることを検討してみるのがよいだろう。少なくとも、ギフトバッグに入れるキャンディーなどのジャンクフードは、低糖の乳製品やビタミン豊富な製品に置き換えるべきだ。

一方、ほとんどの店舗では、子どもの目の高さより上にお菓子を置いていない。加工食品を扱う小売業者にとって、子どもは重要な市場であるため、店舗は不健康な菓子やスナック菓子の陳列の前に子どもたちをさらしているのだ。そのため、親は子供にお菓子を買わざるを得なくなる。なぜなら、親は洗練されたマーケティング手法に疎く、子供からの“圧力”によって結局、購入に至ることが多いからだ。

子どもの虫歯が多いもう一つの要因

また、この問題は、幼少期からの口腔内教育が適切に行われていないことも要因だと言える。子どもたちに良い歯作りの習慣を身につけさせるためには、保護者や就学前教育機関が重要な役割を担っている。具体的には、少なくとも季節ごとに専門の歯科医師による歯の診察を受けさせ、正しい歯磨きの仕方を教え、幼児期から正しい歯の手入れをすることが親の責任だ。

実際、子どもたちは歯の磨き方だけを教わり、歯の手入れの仕方や定期検診の重要性、フロスや歯にダメージを与えるものなど、細かいところまでは教わらない。特に親や教師は、歯や歯ぐきを傷つけないように、デンタルフロスの正しい使い方を子どもたちに教えてあげる必要がある。

虫歯は身体の成長に異常をきたす

モンゴルにおける就学児童の口腔衛生状態不良の有病率と相関に関する研究」によると、これらの理由に加え、果物や野菜の摂取不足、保護者が子どもの近くで喫煙すること、また運動不足が子どもの口腔衛生状態不良の要因ともされている。そして「虫歯のある子どもは、身体の成長に異常がある可能性が高い」という。

口腔内の健康を維持することは、全身の健康維持に欠かせない。専門家は、200以上の病気が虫歯の結果として起こり得ると考えている。特に、口腔の病気は子どもの体の成長・発達に直接影響を与えると、国立医療科学大学歯学部のJ・デルガートセグ教授は強調した。

モンゴルでは10人に1人しか健康な歯を持っていないんです。健康な歯が28本から32本あれば良いと言われています。カリエスリスク(虫歯になる危険度のこと)の指標では、虫歯のある人は完全に健康とは言えません。虫歯のある子どもは、健康な歯の子どもに比べ、成長・発達の指標が遅れていることが、多くの研究によって確認されています。

例えば、3歳児で健康な歯を持っている子と虫歯のある子を比較したところ、虫歯のある子の方が体重が2kgも軽いことがわかりました。海外の研究では、口腔内の治療とリハビリテーションを行った6ヵ月後には、子どもの体重が正常に戻ることが示されています」(デルガートセグ教授)

虫歯のある子どもとない子どもで体の成長に差が

2016年、デルガートセグ教授はモンゴルの幼稚園児の成長・発達に虫歯がどのように影響するかを研究した。同氏の研究によると、虫歯のある子どもは、健康な歯のある子どもに比べて、身体の成長・発達に異常をきたす可能性が1.3倍も高いという。また、健康な歯を持つ5歳の子どもは、同じ年齢の虫歯の子どもと比べて、体重に1.6kgもの差があった。一方、身長の差は0.8センチメートルだった。

「未就学児の体重増減は、子どもの健康状態の重要な指標となります。上記の調査では、虫歯の有無によって彼らの体重と身長の指標は全く異なる結果となりました。世界歯科連盟は、虫歯が原因で200種類以上の病気や障害が人体に発生することを確認しました。したがって、歯の病気を持つ子どもは健康に育つことができないということです」とデルガートセグ教授は強調した。

良い歯の習慣は国の政策レベルで

1日2回の歯磨きという良好な口腔衛生は、むし歯などの口腔内疾患の予防に最も有効な方法のひとつとされている。子どもたちの歯科疾患を減らすためには、良い歯科習慣を国の政策レベルにまで持っていく必要があるのだ。

例えば、キューバでは幼少期からの口腔衛生教育に非常に力を入れている。テレビの視聴者の多い時間帯に口腔衛生に関するテレビ番組を放送し、子どもたちに「甘いものは控えめに」「歯みがきはきちんとしましょう」とアドバイスしている。また、学校でも口腔衛生に関する授業が行われている。

歯をきれいに保っていれば、虫歯にならない。簡単に言えば、いろいろなものを食べれば食べるほど、歯は汚れていくのだ。食後に食器を洗うのと同じように、歯も定期的に磨くようにしなければならない。食べ過ぎると虫歯になる。

顔や口の中の奇形増加も

デルガートセグ教授はこう話す。「もちろん、子どもが何かを習得するためには、大人の指導が重要です。生後6ヵ月になったら、親が毎日、赤ちゃんの口をきれいにしてあげることが肝心です。一番大事なことは、『習慣化すること』です。3歳を過ぎてから歯磨きを教えようとしても、子どもはその習慣に慣れることができませんから」と強調した。

また、「最近の子どもたちは硬いものを食べない」と注意を促し、保護者には乾燥豆腐(通称:アルル)など、硬くて噛み応えのある食べ物を与えるようアドバイスした。

さらに、国立公衆衛生センターのB・オユンダリ研究員は、「最近、糖分の多いお菓子や飲み物の摂取が増えたこのに加え、硬い食べ物の摂取が減ったため、これが虫歯の原因になっている」と警告している。これは、「顔や口の中の奇形を増やす原因にもなる」という。

また、デルガートセグ教授は、「よく噛まないと、歯はその役割を果たせません。つまり、歯が本来持っている清掃作用が発揮できないのです。これを専門用語でオーラルセルフクリーニングといいます。食後に歯を磨かなくても、私たちの唾液腺からは常に唾液が分泌されています。その結果、歯の表面は洗われてきれいになっています。その自浄作用は、1日に5回行われていると言われています」と話した。

このような現状を踏まえ、医療の専門家は、国の政策やプログラムは、他国の優れた基準に従って実施される必要があると考えている。また、このいわゆる「静かな疫病」に対処するためには、すべての分野における関係者の関与が不可欠である。

(※写真はイメージです/PIXTA)