トライしない人は、夢を実現することはありません。自分の夢をどこまで実現できるのか、それにトライする人生は、きっと楽しいでしょう。ジャーナリストの岡田豊氏が著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)で解説します。

「考えること」を大切にする企業は成長する

■迷ったら自分の良心に立ち返る、誰のための何のための仕事か

会社は、社会にとって、働き手にとって、欠かせない存在です。会社は生活の糧や未来への希望などを生み出す原動力です。会社員は、一人ひとりが自分の良心や志を大切に、楽しみながら、思い切り仕事をすればいいのだと思います。

公務員は特別な使命を負った自立した立場の人です。“上司”は首相や閣僚、知事や市区町村長などでしょうが、“雇用主”は、国民、都道府県民、市区町村民です。年齢や経験に構わず、自立した思いとアイデアで、「民」が幸せになれるよう思い切りやってください。

会社員も、公務員も、毎日、小さな判断、あるいは、大きな判断を迫られて過ごしています。軸がぶれそうになったら、自分の良心と志に立ち返ればいい。公務員は「民」の方を見て本来の自分に立ち返る。“上司”に忖度したって、出世できるとは限りません。出世より大切なことがあります。それは自分の良心と志を大切にして、誇りを持って生きることです。

自分の誇りを捨て去って、心外な選択をして出世した自分。余計な忖度を振り切って、民や未来のために自考で選んで行動し、誇りを守った自分。どちらの生き方をするのか。後者の生き方をする人が増えたら、世の中はきっと明るく、希望が持てるような気がします。その誇りはきっと生涯、自分を支え、勇気づけてくれることでしょう。

■個性を大切にする会社、「常に考える」「さんづけで呼び合う」

「常に考える」

未来工業のホームページを開くと、この大きな文字が目に飛び込んできます。この会社は『日本でいちばん大切にしたい会社2』(坂本光司著、あさ出版、2010年1月)にも掲載されています。経営理念は「常に考える」。1965年創業。「人に言われたことをやるのが嫌」でいきなり自社製品を創り、そうした理念が育っていったそうです。「他社と同じモノはつくらない」ために「常に考える」のだそうです。

これを具体的に裏付けているのが、「500円の提案制度」です。社員が新製品を1件提案すると採用の成否にかかわらず、500円が支給されます。毎年約5000件の提案が出され、一部が新製品として生み出されるそうです。

この会社では、上司と部下が互いに「さん」づけで呼び合います。「部長の仕事をしている社員」「課長の仕事をしている社員」「一般社員の仕事をしている社員」という意識なんだそうです。職場の職務や役職はありますが、個人としては、平等だという意識。「フラットな付き合いができる」という意識は職場にプラスの効果をもたらしています。

「常に考える」企業文化として社員の自主性を育み、個人、個性を尊重しようとする考え方が反映しています。

未来工業は「ホウレンソウ」を強制しません。通常、報告(ホウ)・連絡(レン)・相談(ソウ)は、従業員の上司に対する、いわば鉄則のようなものですが、一人ひとりが自主的に考え、判断し、行動してもらうというスタイルにしているそうです。

また、全員が正社員。「人をコスト扱いしたくない」という考えに基づいていて、定年は70歳までの選択定年制を採用しています。社員の不満を契機に制服を廃止しました。

社員の個性を大切にするこの会社の業績はどうなのでしょうか。2020年3月期は増収増益で、過去最高の売上高を更新しました。「個性」「自主性」「考えること」を大切にするこの企業は成長を続けています。

業績は不安定でも起業が楽しいワケ

■「赤字でもストレスはゼロ」起業のススメ、トライする選択

知人のOさんは、15年ほど前、脱サラして起業しました。

大手百貨店や大手不動産会社に勤めていましたが、40代で思い立ち、ひとりで、不動産売買の会社を創りました。創業当初、なかなか赤字体質から抜け出せなかったのですが、「自分のペースですべてやれるので、ストレスがゼロ」と言っていました。会社員時代は、それなりに楽しいと感じていましたが、振り返ると、窮屈で、堅苦しかったそうです。

「くだらない会議に付き合わなきゃならないし、同僚が帰らないから自分も帰れない」

自分の時間を無駄にすることが苦痛でした。

会社員時代もそれなりに楽しかったが、自分が創った会社はそれを超える楽しさがあるんです。とにかく、楽しい。自由を手に入れた、という感じです」

雇用する社員はいません。社長ひとりで奮闘する会社です。

「大変になるのも、楽になるのも、すべて自分の責任だから、人のせいにしたり、何かに責任転嫁したりすることがない。だから、心がすさんでいくことがない。常に心が健康で楽しくいられる」

業績は不安定なのですが、「楽しい」と言います。

業績が落ち込み、会社継続はもう無理かなと覚悟して頑張っていると、大きな仕事が入る。そんな繰り返しで、なんとか15年、持ちこたえてきました。

これまで、絶望の淵に立たされたこともありました。車を売り、生命保険を解約し、購入したマンションを売却しました。

家族と賃貸アパート暮らしになっても、起業したことに後悔はありません。いくつかのピンチを乗り越えると、「何とかできる」という妙な自信が身に付くそうです。

Oさんはなぜ起業したのでしょうか。子どものころから、自考が始まっていたようです。

神奈川県小田原市で育ったOさんの家庭は、裕福ではありませんでした。親に欲しいものを買ってもらえず、「読みたい漫画を友達から恵んでもらった」と言います。だから中学時代にはアルバイトをしました。

「いつかいい暮らしがしたかったんです」

父親は酒を飲むと「自分は高卒だったから出世できなかった」と愚痴をこぼしていたそうです。

父親の姿を見て、会社員の悲哀を感じ取っていました。小学校の卒業文集には「将来、会社をつくる」と書きました。早くから、自分の力で自分の人生を切り拓きたいと考えていました。

自分で事業を立ち上げ、運営する人生は、目に映る風景がどんなものになるのか、会社員の私には想像がつきません。楽しいと言われると、トライしてみたくなります。一方で、そう簡単にはいかないだろうなと、臆病にもなります。会社員は、組織の中で時には辛酸をなめ、屈辱を味わうこともあるでしょう。一方で社長業もつらいでしょう。

Oさんはこう言います。

「どちらも大変です。どっちが自分に合っているかということでしょうね。私は自分でやる方が心地よかった。気力は常に満タン状態。まだまだやります」

会社から会社の価値観を押し付けられ、会社の評価に縛られる生き方よりも、自分で会社の使命や理念を構築し、自分の価値観を創り上げる方が楽しい。Oさんを見ていると、そんな気にさせられます。もっと日本人は起業に挑戦していいと思います。

マイクロソフトを立ち上げたビル・ゲイツさん。アップルを創業したスティーブ・ジョブズさん。松下電器を築いた松下幸之助さん。起業し、イノベーションを起こすことに成功した人は、起業にトライし、イノベーションにトライした人だけです。トライした人だけが、道を拓くことができます。

トライしない人は、夢を実現することはありません。自分の夢をどこまで実現できるのか、それにトライする人生は、きっと楽しいでしょうね。リスクはあるし、不安も大きい。でも、トライする人が多ければ多いほど、新しい事業、新しい世界が実現する確率も高まるでしょう。

大勢の人がトライする社会は、きっと明るく、たくましく、楽しい。トライするのかしないのか。自考してみれば、答えは自ずと出るのだろうと思います。

岡田 豊 ジャーナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)