(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)
マツダが満を持して2022年9月に発売した上級SUV「CX-60」について、メディアの報道では様々な感想の声がある。その中で目立つのは「乗り心地が硬い」という指摘だ。
筆者は2022年3月にマツダ美祢自動車試験場(山口県美祢市)で海外仕様のCX-60プロトタイプに試乗している。その後、各種のCX-60をテストコース、一般公道、高速道路などで試乗してきた。
また、マツダの幹部やエンジニアたちから、新規導入の直列6気筒3.3リッターディーゼルエンジンや、プラグインハイブリッドエンジン、FR(後輪駆動)用の新型プラットフォーム、そしてマツダらしいクルマと人の“人馬一体”を目指して開発してきたサスペンション構造などについて、CX-60開発の哲学をじっくりと聞いたことがある。
そうした試乗やインタビューを通して、「CX-60は確かに走行速度が低い市街地では、路面の凹凸を乗り越える際など、このサイズの日系SUVとしては乗り心地はやや硬め」だが、それは「単純に硬い」というのではなく、クルマ全体として「張りがある」ことによる「感じ方の一つ」だと認識してきた。
「ガツンと速い」パワーユニットの迫力
その上で今回、「CX-60 XD-HYBRID Premium Sports・4WD」で、マツダR&Dセンター横浜から長野周辺まで雪道走行を含めた約600キロの走行を試みた。主な目的は、CX-60の四駆性能を再確認するためだ。
ボディ寸法は、全長4740×全幅1890×全高1685mmと、これまでマツダの国内ラインアップで最上級だった「CX-8」と比べて全長は短いが車幅が広い。フロントマスクとボディ造形全体も、押し出し感を強めている。インテリアもプレミアムな意匠であり、見た目も車内も、欧州ブランドやレクサスをライバルと想定する「プレミアム高級SUV」だと感じる。
横浜の市街地から首都高速道路、東名高速道路、圏央道までは、平日の午前中なので周囲を走るクルマの数が多い。そうした中では、「大きな高級車を慎重に運転しよう」という気持ちが優先する。
八王子インターチェンジから中央自動車道に入ると、周囲のクルマの数はだいぶ減り、また久しぶりに乗ったCX-60の動きに徐々に慣れてきたため、運転中の緊張感はなくなる。
甲府盆地に行くまで、CX-60は上り坂や下り坂のカーブを軽快に走る。ここで改めて、パワーユニットの迫力を実感する。言うなれば、「ガツンと速い」。
直列6気筒3.3リッターディーゼルエンジンは、低回転域では48Vマイルドハイブリッドのモーター駆動によってトルク感が補完され、全回転域で力強い。さらに、8速ATはダイレクトな変速感があるため、走り全体に迫力が増すのだ。こうした走りの迫力はプロトタイプでは「少々やり過ぎではないか」と思われたが、量産モデルでは程良いところに落ち着いていると感じられる。
乗り心地だが、今回は雪道走行を想定して、本格的なスノーおよびオフロード走行も可能な、タイヤ表面のパターンが深く掘られている日系スタッドレスタイヤを装着したこともあり、道路の継ぎ目を通過する際、ハーシュネス(衝撃音を伴う振動)をやや強めに感じた。ただし、サスペンションのセッティングとして見れば「硬過ぎる」ということはない。むしろ、これまでの試乗で感じてきた「クルマ全体の張りの良さ」が際立っているとの印象を受けた。
また、「CX-5」や「CX-8」と比べるとロングノーズのボディ形状なのだが、前方視界の見切りが良く、走行中の安心感が高い。
若干気になったのは、前車に追従して走行する「MRCC(マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール)」の効き方だ。前を走る車が減速して高速の出口に降り、こちらは直進を続けようとしている時、また前車を追い抜こうとして車線変更した時など、「もう少し早めに加速してほしい」と感じるシーンが何度かあった。こうした制御のセッティングは、マツダが目指す安全最優先という設計思想の現れだと思うが、実際の交通の流れを考えると改良の余地があるのではないだろうか。
ワインディングで本領発揮
中央自動車道を諏訪南インターで降り、八ヶ岳を望みながら高原野菜の生産地として有名な原村を抜け、そして別荘地も多い茅野(ちの)市に入る。蓼科湖(たてしなこ)周辺からその先はワインディング路が続く。
こうしたハンドルを多めに切る道路では、CX-60からは、「大きな高級車」というイメージだけではなく、マツダの真骨頂である“人馬一体”というクルマの性格がはっきり伝わるようになる。
FR(後輪駆動車)という基本構造をベースにして「ロードスター」でも採用している「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」の効果が、クルマ全体の動きや重量が大きなCX-60では、はっきりと現れる。Gが強めにかかるコーナリングの際に、後輪の内側にわずかにブレーキをかけることでロール量を下げて、クルマ全体の姿勢を安定させる仕組みだ。
雪が混じる未舗装面なども走行してみた。走行環境に応じて四輪の駆動配分を最適化する「マツダ・インテリジェント・ドライブ・セレクト(Mi-Drive)」を「オフロードモード」にすると、滑りやすい路面やぬかるんだ路面でもクルマ全体の動きがギクシャクすることは全くない。マツダが目指す人馬一体の哲学が貫かれていると感じた。
CX-60から始まった「ラージ商品群」
マツダは、CX-60から始まった上級車ラインアップ「ラージ商品群」を今後どのように展開していくのだろう。
マツダの商品戦略を振り返ってみると、大きな転換期となったのは、2012年発売のSUV「CX-5」から始まった第6世代商品群だ。外観と内装は「鼓動デザイン」、パワートレインはマツダ独自の燃料理念に裏付けされた「SKYACTIV(スカイアクティブ)」を採用。そして多用なモデルを総括的に設計・開発する一括企画によって、コスト削減と上級ブランドへの転換を両立させることに成功した。
次いで、2019年発売の「MAZDA 3」から、Cセグメント(大きめのコンパクトカー)で車体構造を刷新するなど、FF(前輪駆動車)をベースとした「スモール商品群」の展開を実施。「CX-30」「MX-30」、そして北米市場を見据えた「CX-50」が量産されている。これらはマツダの第7世代だと言える。
同じく第7世代にあたるCX-60からは、FR(後輪駆動車)をベースとした上級モデルとして「ラージ商品群」を新設。今後、日本では「CX-80」、北米などでは「CX-90」の登場が確定している。
このように、2023年1月末時点でのマツダ商品群は、「CX-5」や「MAZDA 2」などの第6世代の改良型と、第7世代のスモール商品群およびラージ商品群が並存している状況だ。
その上で、マツダが2022年11月に公開した「中期経営計画のアップデートおよび203年の経営方針」によると、2030年までを3つのフェーズに分けて段階的に電動化を進めるとしている。そのため、早い段階で第6世代改良型は大幅に刷新される可能性が高い。またスモール商品群とラージ商品群についても、世界各国の電動化に関する規制などの進捗を鑑みながら、臨機応変に進化していくものと思われる。
そうした中、マツダは2023年前半から国内向けにCX-60のプラグインハイブリッド車(PHEV)や直列4気筒エンジン搭載車を発売する。それら各モデルの公道試乗についても機会があれば紹介していきたい。
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