世界中で利用されているYouTube。アメリカの企業から誕生した動画共有サイトですが、ではあなたは「なぜ日本からYouTubu級の動画共有サイトは生まれないのか?」という問いに論理的に答えられますか? 脳科学者の茂木健一郎氏が納得の答えを出しています。みていきましょう。※本連載は、茂木健一郎氏の著書『「本当の頭のよさ」を磨く脳の使い方 いま必要な、4つの力を手に入れる思考実験「モギシケン」』(日本実業出版)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。

「妄想する力=イメージする力」の重要性

妄想する力が実社会で何に役立つかというと、いちばんはアイデア(発想)やイノベーションに関わることです。

※妄想する力:茂木健一郎氏は著書『「本当の頭のよさ」を磨く脳の使い方 いま必要な、4つの力を手に入れる思考実験「モギシケン」』で下記のとおり説明しています。

よく自己啓発書で「具体的にイメージすればするほど夢は実現しやすくなる」とか「細部までイメージすることで成功に近づく」なんて書いてあると思います。眉まゆ唾つばだなと思っている方もいるかもしれませんが、実は真実なんです。

イメージに関わる脳の部位は、「頭頂葉(とうちょうよう)」というところです。イメージとは、脳機能的には座標軸変換を含む頭頂葉の高次機能によるものです。イメージは、別に将来の夢とかまだ見ていない未来のビジョンなど大それたものばかりではなく、もっと日常的に使われています。

たとえば僕たちは食事中、間違えて箸を鼻の穴に突っ込んだりしませんよね? これって実は不思議なことで、目の前に鏡があるわけでもなければ、僕たちは自分の手がどこへ動いているかはっきり見ることはできないわけです。でも、きちんと箸を口の中に入れられるんです。考えてみれば、驚くべき運動能力だと思いませんか?

このとき、頭頂葉では自分の身体と周囲の空間を正確に再現したマップをつくっています。そして自分の手の座標をつねに変換しながら、周辺の空間を正確に認識しています。つまり、イメージの力で僕たちはきちんと食事ができているんですね。

イメージする力が強い。ここにないものをあたかもあるかのようにイメージできるというのは、頭頂葉の働きがしっかりしているということでもあり、また現実にはないマップを精密につくり上げられているということでもあります。ないものを微細に脳内に構築できている。だからこそ成功度が高まるし、実現しやすくなる。つまり、イメージする力が高ければ成功するというのは、マップを描く頭頂葉が発達しているということです。

イノベーティブな感性に直結する「妄想する力」

日本の企業に足りないのはイノベーティブな感性だ、とよく言われます。このイノベーティブな感性、イノベーションを起こせる力もまた、イメージ力の延長線上にあるものです。

次の問題はある程度ロジカルに考えることができ、またいろいろな人が議論したり、一定の結論を出していたりします。ですから正解を知っている方も多いかもしれませんが、改めて考えてみてください。

【モギシケン】イノベーションする力

Q.大人から子どもまで大人気のYouTube。YouTubeはアメリカで誕生しました。では、なぜ日本の企業でYouTubeは生まれなかった?

<次から1つ選んでください> ➀動画の違法性を恐れて日本の企業では手を出せなかったから日本はネットビジネスで世界に取り残されているからIT関係の優秀な人材は欧米に集結しているから

茂木健一郎ワンポイント解説>

出題ではYouTubeを例にしました。よく言われる同様の命題で、「なぜ、日本ではGAFAのような企業が生まれないのか?」というものもあります。皆さんも1度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

前提として「どうせ生まれないのだから議論するだけ無駄だ」というご意見もあるかもしれませんが、こうした議論をすること自体、大切なことです。なぜなら、こうした議論から自分の中のイメージ力を育てることができるからです。

ちなみに、ここでの正解は①です。少なくともYouTube的な動画サイトの開発について、日本で障害になったのは①だったのです。②③はそういう側面もあるかもしれませんが、それが日本企業からYouTubeが生まれなかった原因かどうかは検証できないので、どちらも正解とはいえません。

“事前”処理型の日本と、“事後”処理型の欧米

それというのも、YouTube的なシステムやルールでは、どうしても著作権などにも抵触する違法動画がアップされてしまいます。YouTubeが開発された当時、インターネットが世界中をつなぎ、動画をアップロード可能な回線が整備され……という与えられた環境条件は多くの先進国で同じでした。

ですから、もちろん日本人や日本企業の中でも動画共有サイト、動画視聴サービスのアイデアはありました。ところが、当時の日本の大手企業では「リスクが大きすぎる」ということでそうしたビジネスには手を出せませんでした。

似たようなことはUberでもありました。これは、事前処理型の日本企業と、事後処理型の欧米企業の大きな差だと言えます。

日本企業の場合、起こり得るトラブルや想定される問題について事前に回避しようとしがちです。そうした慎重派な考え方に対し、欧米では、「まずはやってみよう、トラブルや問題は起きたらそのときに考えればいい」という事後処理型の考え方が主流なのです。このギャップこそが日本の企業、もっと言えば日本全体の課題ともいえ、新しいイノベーションを起こす文化が育たない理由の1つになっています。

茂木 健一郎

理学博士/脳科学

(※写真はイメージです/PIXTA)