厚生労働省から発表された『毎月勤労統計調査』の速報で、賃金総額は上昇も、実質賃金は下落という、日本人のギリギリの状況が明らかとなりました。そこで注目されているのが、岸田総理の次の一手。みていきましょう。

給与額は増えていても実感がない…なぜ?

厚生労働省2月7日に発表した、『毎月勤労統計調査 令和4年分結果速報』で、「結局、給与があがっていない日本」という実態が明らかになりました。

調査結果によると、現金給与総額は32万6,157円で、前年比2.1%アップ。雇用形態別にみていくと、短時間労働者以外の「一般労働者」が42万9,449円で前年比2.3%アップ、短時間労働者である「パートタイム労働者」が10万2,073円で前年比2.6%アップ。

業種別にみていくと、コロナ禍からの回復が大きかった「飲食サービス業等」が12万8,650円で前年比9.7%アップ。以下「運輸業、郵便業」が前年比5.4%アップ、「鉱業、採石業等」が前年比4.9%アップ、「建設業」「不動産・物品賃貸業」「学術研究等」が前年比4.0%アップと続きます。

前年比2.1%アップとなった現金給与総額を細かくみていくと、「きまって支給する給与*1」が前年比1.5%アップ、「所定内給与*2」が1.2%アップ、「所定外給与*3」が5.0%アップ、「特別に支払われた給与*4」が5.1%アップ。給与のベースがあがったというより、コロナ禍からの回復の過程で残業時間が増えたり、業績回復による特別賞与などが、給与全体を押し上げた、というカタチです。

*1:労働契約、団体協約あるいは事業所の給与規則等によってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって支給される給与のことであって、所定外給与を含む

*2:きまって支給する給与のうち所定外労働給与以外のもの

*3:所定の労働時間を超える労働に対して支給される給与や、休日労働、深夜労働に対して支給される給与のこと。時間外手当、早朝出勤手当、休日出勤手当、深夜手当等

*4:調査期間中に一時的、または突発的理由に基づいて、あらかじめ定められた契約や規則等によらない労働者に現実に支払われた給与や、あらかじめ支給条件、算定方法が定められていても、その給与の算定が3ヵ月を超える期間ごとに行われるもの

また物価の影響を考慮した「実質賃金」は99.7(2020年平均を100とした場合)で、前年100.6から0.9%減と、2年ぶりのマイナスに。賃金の実質水準を算出する際の指標である物価(持ち家の家賃換算分を除く総合指数)が3.0%上昇と賃金の伸びを上回りました。

――給与は増えているのに、実感がない

――給与は増えても生活が苦しい

そんな声が聞こえてくるのは、そのためです。

もう給与は上げられない…「資産所得倍増プラン」は現状打破の切り札になるか

政府が物価高を上回る賃上げを企業に要求したことを受けてか、最近、賃上げのニュースもよく耳にすることも。

――イオン、パートの賃金を7%引き上げ

――ファーストリテイリング、国内の従業員の年収を平均15%、職種によって最大4割引き上げ

――三井住友銀行、2023年の新卒初任給を5万円引き上げ

大企業の賃上げのニュースが連日報道されていますが、中小企業まで波及するかは難しいというのが現状のよう。また大企業からも物価高以上の賃上げは難しいという声も多く聞かれます。

失われた30年。賃金が下がり続けた日本。給与が上がっているものの、実感するのはまだ当分先のことか、それとも永遠に訪れることがないのか……悲観的な見方が大半を占めています。

給与は上がらず、それなのに物価は高騰……解決策が見出せぬなか、岸田総理が大号令をかけるのでは、と囁かれているのが、肝いりの政策としてたびたび話題となっている「資産所得倍増プラン」。

家計金融資産は2,000兆円といわれていますが、その半数が現預金で、株式・投資信託・債券などに投資をしているのは244兆円、投資家数は約2,000万人に留まります。また投資で増やすことが広まっている欧米では、たとえば米国では20年で家計金融資産が3.4倍に、英国では2.3倍になるとされていますが、それが日本は1.4倍。そこで、現在1年で15万円ほどの資産所得を倍にしようと目論んでいるのです。

計画の柱とされているのが、以下の7つ。

①家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるNISAの抜本的拡充や恒久化

②加入可能年齢の引上げなどiDeCo制度の改革

③消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設

④雇用者に対する資産形成の強化

⑤安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実

⑥世界に開かれた国際金融センターの実現

⑦顧客本位の業務運営の確保

ただしこのプラン、株価が持続的に続いていくことが前提となっていたり、そもそも投資に回す余裕がある人たちが限られていたりと、全国民に対してのメッセージとしてはお粗末と批判が集中。イマイチ浸透していないのが現状です。

しかし企業にお願いしても給与は上がらないし、物価高は世界的な潮流だし、少子化に高齢化と問題は山積みだし……政府も「もう、ムリ!」とすべてを放り出し、一人ひとりの自助努力に委ねることになるのではないか、ひいては、今まで以上に資産所得倍増プランをいま以上に推し進めていくのではないか、と、一部の専門家でいわれています。

日本国民でいることに絶望してしまいそうな状況ですが、開き直って資産所得倍増に乗っかってみるのか、それとも静観するか。選択を迫られています。

(※写真はイメージです/PIXTA)