
独立行政法人・国立病院機構東京医療センターで、看護師の大量退職が起き、医療現場が危機に陥っていることが「週刊文春」の取材でわかった。看護師への処遇を巡っては、労働基準法違反違反の疑いがかかる複数の事例があるとの証言も得られた。看護師らが取材に応じ、内情を明かした。
東京医療センターは、新型コロナウィルスのワクチン接種を日本で最初に行うなど、日本の医療を代表する病院の一つ。旧海軍の軍医学校病院を起源の一つに持つ国立東京第二病院が前身で、現在は34の診療科、約690の病床数を誇る総合病院だ。
「敷地内に同病院機構の本部もあり、国立病院の『総本山』です」(医療担当記者)
大量退職の背景に勤務管理体制の問題がしかし、同病院では今、職員の退職が止まらない状況にある。病院幹部の一人は、こう証言する。
「呼吸器や総合内科の病棟をコロナ専用病棟に作り替えることになり、入院患者を他科の病棟に移した。他科の看護師は専門外の上、重症者も多い。慢性的な人手不足も重なり、耐え切れなくなった看護師が次々と辞めているのです。職員の調査では、昨年4月から今年1月までに退職・休職を含めて100人の看護師が減っていることがわかりました」
大量退職の背景には、そもそも病院の勤務管理体制に問題があり、数々の労働基準法違反が存在しているという。20代の看護師がその実態を明かす。
「勤務はいまだに『ハンコ』で管理しています。始業は8時半なのですが、勤務の始まる30分前には出勤して、患者のデータを読み込まないと対応ができません。でも、この時間は『残業代』が払われないのです。そもそも残業は、自分で申請することができません。リーダーに『〇時間とりたい』と事前に申請する仕組みで、通れば残業としてもらえますが、『仕事が遅いからでは?』などと言われてしまい、簡単にOKがでない。結果としてサービス残業も横行しています。名のある病院で、数年前は人気の就職先だった。今はただ忙殺され、経験も積めない。日々辞めたいとばかり考えています」
退職のタイミングは年に一度だけ労働問題に詳しい旬報法律事務所の佐々木亮弁護士は、こう指摘する。
「仕事に必要な資料の読み込みは労働時間に含まれます。賃金を払わないのであれば、労働基準法違反となる。また実際の残業時間を申請しているのに認めない場合も違反にあたります」
それだけではない。同センターの元看護師によると、「退職のタイミングは年に一度しかない」と嘆く。
「毎年1月に、『来年度末までの退職希望の有無』を回答する紙が配られる。それを逃すと、その後、1年は申し出てもすんなり辞められなかった」
東京医療センターに事実確認を求めると、次のように回答した。
「今年度末までに看護師646人のうち106名が退職予定です。例年より多いのは理解しており、改善策を考えているところです。また、退職は年1回の調査以外にも都度希望を尊重し認めています。超過勤務については、事前命令、事後確認が原則で、申請させないということはありません。労働基準法に則り適切な人事管理を行っております」
今年1月の「アンケート」では残っている看護師の半数が退職を希望したという。前出の幹部はこう嘆く。
「病床を減らさないと現場はもうまわらない。来年度からの看護体制なんて、ヤバすぎて想像もつきません」
東京医療センターは、看護師たちの悲鳴に応えることができるか。
2月8日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」および2月9日(木)発売の「週刊文春」では、他にもある「労基法違反疑惑」など、東京医療センターの実態を報じる。

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