
文/椎名基樹
◆水道橋博士のバイタリティーと勝負強さ
水道橋博士が国会議員を辞職した。うつ病で議員活動を休むことを発表したばかりだった。博士は、2018年に体調不良で休養している。この時も多分うつ病だったのだろう。
博士が当選したときに、大逆転で運命を切り開く姿に、私は非常に迫力を感じた。「勝負強えなぁ……」と思わず唸った。
最近の水道橋博士は、先述の病気休養もあり、「30年ぶりに地上波レギュラーがなくなった」と告白していた。所属事務所であるオフィス北野は消滅して、博士にとっては神のような存在であった、師匠のビートたけしと距離ができてしまった。博士にとっては受難の時期のように見えた。
そんな時に国会議員に出馬という大勝負に出て、当選を果たし、水道橋博士の価値をもう一度上げた。そのバイタリティーと勝負強さに、私は非常に迫力を感じた。その矢先にそれを手放さなければならなくなった博士が、なんとも不運に思える。
◆「たけしイズム」を体現する弟子たち
同じ凄みを、たけし軍団の先輩である、東国原英夫にも感じた。宮崎県知事に当選して、未成年との淫行という致命的な事件をひっくり返して、ビッグカンバックを果たしたことは、迫力満点の執念である。
彼らの師匠のビートたけしは、フライデー襲撃事件で仕事を失ったとき、弟子たちに「こういう時こそ勉強をして力を蓄えるチャンスだ」と語ったと言う。ピンチをチャンスに変え、あくなき向上心を保ち続ける水道橋博士と東国原英夫は、ある部分の“たけしイズム”を最も体現している弟子たちのように思える。
◆「お笑いドキュメンタリー」スタイルに思うこと
水道橋博士の芸風は「お笑いドキュメンタリー」とも呼ぶべきスタイルである。運転免許証の写真はどこまで変装をして映ることができるのか、実際に試した。これは運転免許書の不正取得の罪に問われ、書類送検されてしまった。しかしこの変装写真は、バラエティー番組で紹介され笑いをとっていた。私も笑った。
自分の身体を実験台にして、さまざまな健康器具や薬を試した著書「博士の異常な健康」はベストセラーになった。こうした博士の姿勢は、「シャレにならないことをシャレとしてやってしまい、世の中のタブーをぶち壊す」という“ビートたけしイズム”を生真面目に遂行し、先鋭化していくことで作り上げられているように感じる。しかし、この方法は「笑いに着地する」のが非常に難しいように思う。
◆精神に与える負担が大きい芸風なのか
橋本徹の発言に食ってかかり、生放送中に番組を降板したことがあった。これは、橋下徹自身がかつて放送中に突然降板宣言をしたことがあり、そのパロディーであると後に説明した。
SNSで言い争いになった、編集者とは真剣勝負でボクシングで戦い、ボコボコにされてしまった。もうこの辺になると、私は博士が何を面白いと思って何の目的でこのようなことをしているのか、理解に苦しんだ。手段が目的になってしまい、ただ世間をあっと言わせることばかりが先に立っているように見えた。
ただこの時、博士は躁状態にあり、よく考えるより先に行動を起こしてしまっていたのかもしれない。うつ病の告白を見て、そんな風に思った。
ビートたけしも、前述のフライデー襲撃事件や生死をさまよった交通事故と、大事件を起こしており、ビートたけしの経歴にも躁鬱のバイオリズムが見え隠れする。ビートたけしイズムを非常に生真面目に再現することに執着する水道橋博士は、期せずして、躁鬱の症状までコピーしてしまったように見える。と言うより、タブーと戯れるという方法論は、精神に与える負担が非常に大きいのだろう。
水道橋博士は、Twitterで議員辞職をしたことをお詫びしていたが、今は、仕事のことは忘れて、とにかく何も考えずに、「だらしなく」過ごして欲しい。
【椎名基樹】
1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

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