
手にひどい火傷を負ってしまったら、すぽっと手袋のような皮膚をはめる。近い将来、そんな治療法が誕生するかもしれない。
米コロンビア大学の研究チームは、人工皮膚を複雑な三次元形状に成長させる方法を考案した。
人体のような不規則で複雑な面に平らな人工皮膚をはるのは難しいが、衣服のように「着る人工皮膚」ならこの問題をらくらく解決する。
これにより皮膚移植手術の難易度を下げ、時間を短縮し、しかも見た目などの仕上がりまで美しくしてくれるそうだ。
この研究は『Science Advances』(2023年1月27日付)に掲載された。
着る人工皮膚。それ自体は従来の人工皮膚と同じプロセスで作られる。新しいのは、手の模型を土台にして人工皮膚を育てるというアイデアだ。
まず人間の手などの移植対象を3Dスキャン。これを元に3Dプリンターで、中が空洞で通気性のある手の模型を作る。
そしてその表面を皮膚の真皮にある細胞「線維芽細胞」と「コラーゲン」でおおい、さらに表皮の9割を占める「ケラチノサイト」でコーティングする。
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あとは模型内部の空洞から栄養を与え、皮膚細胞を育ててやればいい。手袋のような人工皮膚が完成するまで3週間ほどだ。
移植用に人工皮膚を育てる様子 / image credit:Alberto Pappalardo and Hasan Erbil Abaci / Columbia University Vagelos College of Physicians and Surgeons
試しにこの人工皮膚をマウスの後ろ足に移植してみたところ、4週間でピッタリくっつき、普通に歩けるようになった。また手術自体はほんの10分程度だったという。
ただしマウスの皮膚の治り方は人間と同じではないので、今後はもっと人間に近い大きな動物で試してみる必要があるとのこと。
実際に人間に移植できるようになるのは、まだ何年も先のことであるそうだ。

立体的で患者の体にフィットする人工皮膚
今回の着る人工皮膚は、1980年代初頭に人工皮膚が登場して以来となる大幅なアップグレードなのだそうだ。
人間の皮膚は50種類もの細胞でできている。ところが最初の人工皮膚はたった2種類で作られ、その後の研究はいかに本物の皮膚構造に近づけるかが焦点だった。
だがコロンビア大学のハサン・エルビル・アバチ(Hasan Erbil Abaci)博士は、皮膚の形状が無視されていることがずっと気になっていたのだという。
というのも、形状もまた機能に影響する重要な要素だからだ。
そこで手の模型を使って、より自然な三次元的な人工皮膚を開発した。
それはただ人間の皮膚の形に近いだけでなく、人工皮膚の組成・構造・強度を大幅にアップさせることにつながったそうだ。
将来的には患者自身の細胞から培養される「着る人工皮膚」
アバチ博士の予想では、将来的には患者自身の細胞から本人専用の着る人工皮膚が作られるようになるとのこと。
手袋のような皮膚を作るには、たった4×4ミリの皮膚片があれば十分なのだそうだ。
また着る人工皮膚は手だけでなく、顔移植などにも応用できるそうだ。いずれは死体臓器移植に取って代わる、”パーソナル”な移植手段になるかもしれないとのことだ。
References:Bioengineered skin grafts that fit like a glo | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo

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