
発達障害の認知度が年々高まっている。従来は子供の問題だと思われてきたが、実は一定数の割合で「大人にも発達障害の人がいる」という事実が知られるようになった。「発達障害」が社会に少しずつ浸透する一方、さまざまな弊害が生まれている。
・「大人の発達障害」をよく理解せずに対応しようとする会社の増加
・会社から対応を一任され、苦慮する現場や上司
・浸透したことにより、逆に働きづらくなっている当事者
これらの弊害が職場を蝕む「大人の発達障害」の最前線に追った。
◆「大変さが理解されない」…特性ゆえのミスに苦しむ
発達障害の当事者は職場で困難を抱えることが多い。悩める当事者たちの声を集めた。
「僕は同時進行の作業が苦手で、例えば電話で話を聞きながらメモをうまく取れません。ほかにも上司から曖昧な指示をされたり、複数の業務内容を同時に伝えられたりすると、混乱して対応ができなくなります。『報連相をしろ』と指示されても、具体的に言われないとどうしたらいいのかわからないんです」(30代男性)
「職場での細かい調べ物や手順の多い作業をするときに困ることがあります。落ち着いて集中すれば最後までできるのですが、上司に横から『どうしてわからないのか!』と威圧的な声かけをされることが多くて……。
それで頭が真っ白になりミスをしてまた怒られるという繰り返し。『横からの声かけをやめてほしい』と頼みましたが真剣に聞いてもらえず、『お前は何をやってもダメだな』と言われたこともあります」(30代男性)
◆1年ともたずに会社を辞めることに
ミスが続いた結果、職場にいられなくなった人も。
「新卒で入った会社では、『社交辞令が言えない』と注意され、『客前に出せない』と特別研修をされましたが、まったくダメで……。結局、1年ともたずに辞めることになりました。会社では『あなたは会話する仕事につかないで』などと言われ、それがトラウマで退職後のバイトでもしゃべることができないくらいダメージを受けました」(20代女性)
◆「理解してもらえない」と苦しんでいる人たち
発達障害は他人から見えないからこそ、「理解してもらえない」と苦しむ人が多い。
「苦手なことを伝えても、真剣に受け止めてもらえず『社会人としてそれはちょっと……』と言われるだけ。結局はほかの人よりもできない自分を責めてしまう。頑張ればなんとか働けるぶん、誰にも気づかれずに落ち込んでしまうんです」(30代女性)
◆普通や当たり前の基準をクリアするまで時間がかかる
また、「『仕事ならこれくらいできるのが普通』という押しつけがツラい」という声も。
「職場では周りから、『普通はこうする』『仕事は完璧にやって当然』などと言われます。でも、その普通や当たり前の基準をクリアできるようになるまで、想像する以上の時間がかかることを少しでも理解してほしい」(40代男性)
理解されない苦しみから解放される日は来るのだろうか。
◆「大人の発達障害」の代表的な症状
①ASD(自閉スペクトラム症)
・場の空気を読むことが苦手
・曖昧な内容から推察することが苦手
・言葉や表情から心情を察するのが苦手
・特定の物事へのこだわりが強い
・状況に応じた臨機応変な対応が苦手
②ADHD(注意欠如・多動性障害)
・気が散って集中が続かない
・順序立てた行動や計画が苦手
・なくし物や忘れ物が多い
・同じ場所にじっとしていられない
・つい衝動的な行動をとってしまう
③LD(学習障害)
・文字の読み書きが極端に苦手
・数字の計算が極端に苦手
※障害の程度が軽い場合には3つのどれか一つにハッキリ分類できる人はまれで、グラデーションのようにさまざまな特性を併せ持つ場合が多いと言われている
取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/菊竹 規 モデル/黒木俊穂

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