8月27日(水)、ニューアルバムTwinkle World』をリリースする八王子Pさん。ダンスミュージックベースにグルーヴィでエレクトリックサウンドVOCALOIDと融合させることで、唯一無二のサウンドを生み出してきた彼が、今作では新たな一面を見せている。

【ボーカロイドが孤独な僕らをつないだ 八王子P×TNSK×わかむらP座談会の画像・動画をすべて見る】

八王子Pといえば、ニコニコ動画で高い評価を獲得した「エレクトリック・ラブ」と「Sweet Devil」という対照的な2つの楽曲。投稿後にはMMDプロデューサーわかむらPがMVを(勝手に)制作し、さらなる話題を呼んだ。メジャーデビューに際して、「Sweet Devil」を(勝手に)イラスト化したTNSKさんもアートワークに加わり、3人体制で1stelectric love』、2ndViViD WAVE』をリリース

そして、3rdアルバムとなる今回、初めて3人でのインタビューを敢行。

Twinkle World」と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。キラキラした世界、輝かしい世界──VOCALOID界の貴公子と呼ばれる八王子Pさんは、意外にもすこしつかれた顔をして収録現場へとやってきた。わかむらPさんらしいともいえる、Skypeを交えた異質な座談会。静かな時間、久しぶりに対面した3人が、少しづつ語りだした真実とは──。

取材・文:石橋加奈子

八王子P メジャー3rdアルバムTwinkle Worldクロスフェード


偶然ではなかった出会い

八王子 自分はもともと2人のファンだったので、いまこうして一緒に仕事をしているのが不思議な感じですね。

TNSK そもそも僕が八王子Pという名前を知ったのは、Twitterで僕の絵が好きとつぶやいてくれたのがキッカケだったんですよね。当時はぜんぜん知らない人で、音楽をつくっていますというプロフィールを見て調べてみてもまだ「エレクトリック・ラブ」一曲しかアップしてなくて。「おやおや、一曲かい」なんてちょっと思ったんですよね。

(一同、笑)

TNSK でも、聞いてみたら「なんだ、このハンパないクオリティ!」と思ったし、同時に「こんな人が埋もれているのか、この業界」とビックリした記憶がありますね。2曲目の「Sweet Devil」でドンと人気が上がったので、「ですよねー」という納得があって。

わかむら 僕が八王子PのMVをつくろうと思ったキッカケには、実は打算的なところもあって。既存のコンテンツに勝手に動画をつけるということをやっていたわけですが、いろんな人に自分の作品を見てほしいので、楽曲のクオリティが高い人を選ばせてもらおうと思ったんです。

TNSK クオリティもだし、とにかくエロいですよね。「Sweet Devil」の歌詞も、「KiLLER LADY」の攻めている感じも好きで、眠くなると聞いて元気になる。

それでいて、八王子Pには奇をてらわないよさがありますよね。気持ちいいところに気持ちいい音をはめ込むし、ひねって外したりしない。良い意味でアーティストっぽさがなくて「素直」な印象。

八王子 キャッチーわかりやすさというのは意識していますね。自分が聞きたい音楽というよりも、聞く人がどういう風に聞いたら楽しんでくれるかなとか。クラブでかけたらこの展開は絶対気持ちいいとか、踊りたくなるはずというお客さん目線は重視しています。

わかむら あとは、僕の好きな4つ打ちの音楽であること。八王子Pの「エレクトリック・ラブ」も「ミクノポップ」というタグで検索してヒットしたと思います。かつ、公式のMVがついていなくて、レコード会社と契約していないという条件に当時の八王子Pはピッタリで。このタイミングを逃すと速攻レコード会社と契約するだろうから、「いましかない」と打算的な考えでMVをつくったんですよ。

初音ミク - エレクトリック・ラブ MMDPV

八王子 それがめちゃめちゃ良かったし、それからは公式でお願いさせてもらえることになった。実は僕もわかむらさんのように、TNSKさんに「いましかない」と思って声をかけた過去があって。



僕はpixivが登場した頃に見る専門で登録したんですけど、TNSKさんがそこで「Sweet Devil」の絵を描いているのを知って、めちゃくちゃ嬉しかったんですね。pixivのことがあったので、そのあとTNSKさんとお話する機会があった時には「行くしかない」と思って、直接「ジャケットを描いてください」と伝えました。



TNSK 八王子Pの曲には「描きたい」って思わせる力があるんですよ。いま、こうして仕事になっているのがありがたいですね。



VOCALOIDを選んだのはボーカルができる友達がいなかったから

わかむら 八王子Pの「エレクトリック・ラブ」「Sweet Devil」へのMV投稿は、実は1週間ぐらいしか期間が開いていないんですよ。当時の僕って、辞表を出して有給消化中だったんで時間があって。その2曲が対照的な曲だったので、続けてつくってもイメージかぶらなかったし八王子Pの棚ぼたじゃないですけど、幸運が重なった。

八王子 確かに早かったですね。

わかむら 学生時代の僕はゲームファイナルファンタジー」のCG黎明期を見てきて、CG制作を志していたんですけど、当時はマシンパワーが追い付かないからCGは分業体制でやるのが主流だということを知って。「僕は映像はつくりたいけど、50人のプロジェクトの一人になるのはいやだ」と思って、全部一人でできる紙ベースの平面的な視覚デザインの仕事に就いたんですね。

でも、映像など動きモノも好きなので諦めきれなかった。個人制作の趣味のところから少しずつ「手伝ってみないか」みたいなことも増えてきて、それこそ八王子Pの動画を投稿したことも大きなきっかけで、どんどんお仕事をいただけるようになったんですよ。

TNSK 僕は、大学を卒業する頃なんて、死ぬ気で働きたくなかったですよ。

八王子 わかります(笑)

TNSK 働く力があるぐらいなら、その力を死ぬ気で働かないほうに使おうと思って、お絵かき掲示板で自分のキャラクター(高木さん)を描いていましたね。僕の中には小学生の頃から「オタク」はいたんですけど、ずっとずっと抑えこんでいて。

大学を卒業して家にいると、自分のまわりに人がいないわけですから、思う存分ネットオタクを解放していました。ひたすら描いているうちに、自分で「一日何枚」というノルマを課しだしたりもして。

八王子 TNSKさんの気持ちがすごくわかるのは、僕の音楽づくりって一人でやったほうがラクだというネガティブなところから始まってるんですよ。

TNSK イヤっていうのが原動力だったりする。

八王子 そう、毎日満員電車に絶対乗りたくないとか。音楽自体は高校時代にバンドマンの友達ができて、バンドサウンドロキノン系を聞くようになったんですけど、いわゆるバンドマンならではの人間関係・金・女といった愚痴を聞いて大変そうだなと思って。大学入った頃には一人でできる打ち込みを始めたものの、いざ自分がつくったクラブミュージックを人前で披露したくなったら、バンドユニットを組む選択もあったはずですけど、めんどうだと思ってまた一人でできるDJに落ち着いた。

わかむら クリエイティブを誰かとやるっていうのは大変だもんね。

八王子 VOCALOIDを選んだのも、ボーカル曲をつくりたくてもボーカルができる友達がいなかったから、ニコニコ動画見てやってみようかなって。

わかむら 僕も一人でやりたくてCG制作を諦めた過去があるけど、いまはいろんな人と組んで制作をすることが多くなって刺激を受けることが増えましたね。コンテンツを手にとって影響を受けるといったこともありますけど、クリエイター同士だと作業中のデータだったりもうちょっと深い部分も見れたりして、気付かされることもたくさんある。

八王子 そうなんです。自分は天才じゃないのでいろんな人から刺激を受けてインプットしないと、どこかで尽きてしまう。自分が形にしたいものを人に伝えるのが苦手なので、そういうのを避けて一人でやったほうがラクだっていう気持ちで始めたんです。でも、メジャーデビューしてからは、いろんな人とつくっていくことは楽しいし重要なんだとわかって、最近は向き合わなきゃって思えるようになりました。

あと最近、身近で学んだことでいえばTNSKさんはガッチリ締め切りを守るタイプなので、僕と真逆っていう……。

TNSK 裏話、しますか(笑)

八王子Pへ、花束を。

八王子 今回、僕の曲がとにかく遅れまくってたんですよ。

TNSK 曲がすべて完成していない段階でイラストを制作するのは、今回が初めてでした(笑)。ラフのラフみたいな楽曲が届いた時に、大丈夫かなとちょっとだけ心配しましたね。

八王子 今回、かなり悩んでしまって。僕たちに求められているものってだいぶ固定化されてきていると思うんです。

わかむら プロとしてやっていくと、制作物を見て依頼をしてくださるのでどうしても「あれのイメージで」「あの路線」でって言われてしまうんですよ。まんまのイメージで出しても通るとは思うんですけど、見続けてくれている人には面白くないだろうし自分もマンネリを感じてしまうと思う。

八王子 そうです。似たようなものをつくっても「また同じか」という意見が出てくると思うし、ガラッと変えてしまっても期待を裏切ってしまうんですよね。そのバランス感を昇華していくというのが、今回のアルバムの出発点でした。でも、新しい自分を見せようと思ってもVOCALOIDではある程度やりきってしまったところがあって……。制作で苦悩している時に届いたジャケットやMVを見て、2人に出会った頃を思い出すぐらい支えられましたね。あれがなかったら、完成しなかったかもしれないです。

TNSK よかったです、お役に立てて。

わかむら 今回のアルバムに収録されている「Carry Me Off」もアレンジがずいぶん変わりましたよね。

ニコニコ動画】【初音ミク】Carry Me Offオリジナル曲+PV】

八王子 僕は、特にリード曲に関してはリスナーが一番聞く「歌詞」と「メロディ」の部分を徹底的に決めてからアレンジしていくんです。僕にとってアレンジはあくまで、自然に歌詞とメロディが入ってくるためのモノと考えているので、ここが決まらないとなかなか完成まで持っていけない。なので、MVを制作するわかむらさんには特に迷惑をかけたと思います。

わかむら しかたないですよ、一次創作者ですから。映像って二次創作なんですよね、音とイラストがある前提でそれを動かしたり演出したりするので。実写のMVでもそうですよね、音楽があって、衣装さんが選んだ服飾ありきでつくっていきますから。僕は一次創作者を尊敬すべきだと思っているので、今回は最初に完成したTNSKさんイラスト含め、2人の雰囲気を踏まえて逸脱しないように僕の感性を入れていくことを気をつけました。

TNSK わかむらさんの話はすごくよくわかります。僕が八王子Pイラストを描くときは「花を持たせる」という感覚でやっていて。八王子Pが僕のファンで、僕もファンになったという関係なので、デビューアルバムジャケットを描くとなった時には「一番いい花を贈らないといけない」と思ってすごい頑張って描いたんですよ。毎回依頼があるたびに、自分が表現したいものはあるんですけど、そこよりも八王子Pに合わせてというか、綺麗な花で飾って送りだしてあげようと思うんです。

八王子 ……めっちゃ嬉しいですッ。ほんッッとうに嬉しいですね……!

わかむら (笑)

TNSK ……お酒が欲しい(笑)

八王子 嬉しいけど改めてこういうこと言われると恥ずかしい、深夜の3時ぐらいにする話ですもんね。

わかむら あー、朝起きた時に恥ずかしくなる感じの(笑)

TNSK もう今日の夜、恥ずかしくなる気がします。



今日からまた始まる、『Twinkle World
八王子 アルバムができた時もすごく不安で、気持ちの整理をつけながら一週間が経ってやっとフルで通して聞いたんです。その時、「あ、ちゃんといいものができたな」と思えた。

朝5時とかにTwitterにグチの一つでも投稿しそうになるほど辛い状況だったけど、曲を聞いて苦労したんだなってファンに悟られてしまったら未熟ですよね。辛いからこそ「Twinkle World」のような、キラキラしたものが出てくるのかなと。


さらに今回、自分の変化という部分をビジュアルでも伝えたくて、メジャーではずっとカッコイイ小悪魔的なミクのビジュアルでやってきましたけど、今までとは逆に、初回盤にはかわいいミクをお願いしましたね。MVでもミクはモデルLat式からTda式に変えて。

わかむら そうでしたね。

初音ミクTwinkle Worldオリジナル曲+PV】

八王子 僕の中では、これまでやってきた小悪魔的なのって、わかむらさんが制作した「Sweet Devil」のイメージが定着していたからっていうのもあります。今回のビジュアルに関してはファンが持つ八王子Pへのイメージ、「エレクトリック・ラブ」「Sweet Devil」という対照的な二本柱を反映させた集大成的なモノになってると思います。

わかむら 八王子Pと組んでいる作詞のq*Leftさん……って言ったほうがいいのかな?

八王子 妹って隠していないので大丈夫です(笑)

わかむら 「エレクトリック・ラブ」が八王子Pの作詞で、「Sweet Devil」が妹さんの作詞なので、当然雰囲気が違ってくるんですよね。今回もたくさん書いてもらっていますが、作詞が誰かによってMVのテンションやつくりも変えています。妹さんは女の子の「気まぐれ感」やこんなノリを書いちゃうの!? という意外性が素敵だと思っていて、八王子Pの作詞には哀しさやはかなさといった「哀愁」を感じるんですね。

八王子 妹が書く詞には、絶対男性には書けないような表現やニュアンスがある。

わかむら そうだよね、あるある

八王子 男性目線で書く女性目線って、どこか少女マンガっぽい感じが出てしまうというか。単純にかわいい曲は書けても、生々しいものは本当に女心を知っている女性にしか書けないと思うんです。

わかむら さっき、MVのつくりを作詞家によって変えていると言いましたが、実は毎回自分でもテーマを設定しているんですよ。映像っていうのは尺も長くてミクが写りっぱなしなので、テーマをつくらないとイメージが宙ぶらりんになってしまうんですよね。

Sweet Devil」だったら、元はユニットデビューしていたけど売れなくて事務所から解雇されてソロで売ることになったアイドル

八王子 えっ(笑)

わかむら かなり綿密に妄想していくんですけど、たとえば今回のリード曲である「Twinkle World」のMVでいえば、もうオリコン1位を3回ぐらい取ってるベテランで、売れ線のピークは若干過ぎた女の子っていう。

八王子 そこまで! 貫禄ついてきたみたいな?

わかむら そうですね、表情も自信満々な感じにしています。実際の女の子っていうのは、年を重ねたり性格も変化していくんですが、VOCALOIDっていうのはそれがないのでクリエイターが意識して目先を変えないと同じイメージになってしまうんですよね。

八王子 なるほど

TNSK ミクと絵描きの関係でいえば、自分発信のイラストは別として、オリジナルイラストや世界のイメージに挑戦したいという気持ちが強いですね。自分なりに解釈してやるのが楽しくて。原作は越えられないけど、こうすればもっと自分好みになるという。二次創作できるのがミクの魅力なのかなと思いますし、それが公式で許されている世界だと思っているので。

八王子 VOCALOIDの何よりいいところって、音楽以外の人たちとつながれたっていうのがむちゃくちゃあって。そのおかげで自分も2人に出会えたし、もうkzさんの「Tell Your World」の世界そのまんまですよ。一人で始めた音楽活動ですけど、3人で制作してきたアルバムも一段落して落ち着いたので、これからのためにいろんな人と会ってインプットをする時間にあてていきたいです。
左から、TNSKさん、Skype越しのわかむらPさん、八王子Pさん