今のプロ野球で活躍する選手たちがコーチに求めていることが年々変わりつつあると感じています。その理由として、スポーツメンタルコーチとして選手のメンタル面をサポートすることもそうですし、プロ野球コーチから相談を受ける機会も増えてきたからです。そういった事実を通じて私なりの見解を綴りました。

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コーチングを学ぶことなく指導者になる現実

一般的に、監督・コーチから技術的な指導を受けるのがプロ野球の世界だと思います。しかし「名選手、名監督にあらず」という言葉があるように、実際のプロ野球の世界ではコーチが話すことを本気で信じる選手は年々減ってきていると感じいます。それは、私自身が選手のコーチングを通じてリアルな声を聞いているからです。

しかし、逆の立場で考えると見えてくるものがあります。それが、コーチの現実です。選手を引退し、コーチになる方がいます。指導者になるための勉強をせずに指導者になってしまうわけです。言い換えると、学校の先生になるのに教職課程を踏まず、2週間の学校体験もせず、いきなり担任のクラスを持って生徒たちと接しなくてはいけない現実があります。

コーチングや指導者としての勉強をすることなく、突然コーチになるのはとても骨の折れる過程です。球団から何か特別なトレーニングを課せられることもありません。ただ最近だと、一部のプロ野球球団が専門家を招いてコーチングの勉強をしているようです。また、コーチ留学であったり、国内の大学院でコーチングを勉強される方もいます。筑波大に通われた吉井さんはその事例にあたります。

技術指導のプロが増えた

いきなり指導者になった人たちにとっては、自分が経験してきたことでしか伝えることができないのが現実です。自分の経験したことでしか目の前にいる選手をコーチングします。仮に、指導者としてのスキルを上げていたとしても、なかなか選手から信頼されない現実もあります。伝えたい技術論が選手と噛み合うこともあれば、噛み合わないこともあるからです。

選手が目指したい理想と、コーチとして導きたい理想が別々の方向に行くことはよくあります。仕方がないことなのですが、そういったことが起きてしまうとコーチとしての存在意義を失います。どういう存在としてチームのコーチを務めたらいいのか?迷っているのです。

そういった事態を生み出す理由の一つに技術指導のプロが増えたことが挙げられます。

フィジカルトレーナーは一昔前までは殆どいませんでした。今では各球団に1人いるのが現実です。トレーニングに対する考え方も変わり、どの選手も取り入れています。さらには技術指導においても新たな潮流が生まれているのです。ピッチングやバッティングについても、動作解析やデータを駆使した最先端技術を要したティーチング理論が増えました。

つまり、専門的に技術指導をしている人が増えたことで、技術レベル格段に高まってきたのです。その中での事例として150kmを超える投手が年々増えています。それも、大学生や高校生レベルで。教えるプロが増えたことで、プロ野球コーチとしての役割がどんどん失いつつあるのです。

なので、これから求められるプロ野球コーチ像、指導者像というのが年々変化してきていると私は感じているのです。

時代を先ゆくプロコーチの存在

存在が希薄になりつつプロ野球コーチや指導者であっても、技術指導以外で活路を見出す方が増えている現実があります。ある方はデータを駆使したり、ある方はメンタル面をサポートしたりしています。つまり、戦略面やメンタル面はどれだけ外部にいい指導者がいたとしても、介入できない領域なのです。現場でしか出来ないことを追求していくことで、存在意義を高めていくことができます。

プロ野球選手は個人事業主であります個人事業主だからこそ、結果が出る出ないに関して指導者の影響はさほどありません。(プロに限った話)もちろん、全体を通じてリーグ優勝であったり、チームの順位というものは、指導者たちによる影響は大きいです。個人の選手の結果に関しては、指導者やコーチは本当の意味ではなかなか直接的な関与というのが難しいと考えます。むしろ、それくらい開き直っていいと思うのです。

指導者がこれから求められるのは、技術を教えることではなく、選手のメンタルを支えたり、さらには戦略面をサポートしていくことでチーム全体の結果を支えていく視点を持つことがポイントだと思うのです。これをマネジメントと言ったりします。その中で、選手一人一人が気分良くプレーできるためにメンタル面をオンラインで学ぶ指導者、プロ野球選手のコーチが非常に増えているなという実感があります。

同時に、指導者になりたがらない現役を終えたプロ野球の元選手たちも数多くいるという現実があります。本来であれば非常に華々しい仕事であるはずなんですけれども、プロ野球の指導者に就いたことによって失われる家族との時間であったり、コーチとしての対価があまり満足いくものではないという現実があります。

ただ、やはりプロ野球に携わる者としては、コーチという仕事がこれからもっともっと重要視されていくべきだと思っています。現場のコーチでしたか伝えられないこと、感じられないことがあると思うのです。それは、いくらメンタルコーチイングが重要だと言われている世の中であっても、私たち以上にコーチ自身が輝くことが選手の未来を支えると考えています。

だからこそコーチ業がさらに魅力的な仕事になっていく為にも選手たちのメンタルを支えていくメンタルコーチのような役割を早い段階で学ばれることが重要だと思っています。

その事例として、元日本ハムファイターズ侍ジャパンでもコーチを務めた白井コーチはメンタルコーチとしても活動されており、指導者としてプロ野球コーチを長年務めながら、メンタルコーチの勉強をされていました。そしてコーチから退いた後もメンタルコーチとして活躍された実績のある方です。カーリングの女子のチームも率いて結果を出されていました。

こういった事例も含めて、これからますますプロ野球の指導者はメンタル面をどんどん勉強していく必要性があると思います。それが、他のコーチとの差別化になり、球団から求めらえるコーチとしてなっていくと思います。また、メンタル面をしっかりと勉強していくことができれば、いざ指導者・コーチとしての契約が仮に翌年なかったとしても、メンタルコーチとして活躍していけるフィールドが増えていくと思っています。

迷っている指導者は本当に多いのですが、スポーツメンタルコーチ資格講座が少しでもお役に立てたら幸いです。

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。

プロ野球のコーチが求められることは選手のメンタルケア