2023年2月3日、ブラジル海軍は退役後、アスベスト問題などで解体拒否された空母「サンパウロ」を自国沖合へ沈めました。ただ、姉妹艦である元フランス空母「クレマンソー」も同様の処分問題を抱えて苦労したようです。

30年で一変したアスベストの扱い

2023年2月3日、ブラジル海軍は退役後、アスベスト問題などにより、トルコで解体拒否された空母「サンパウロ」を同国の沖合に沈めて処分しました。

同艦はもともと、フランス海軍クレマンソー級航空母艦の2番艦「フォッシュ」として1963年7月に就役したもので、フランス海軍から退役したのち、2000年11月にブラジルが中古艦として購入し、「サンパウロ」に改名した経緯があります。

この「フォッシュ」よりも早く就役し、先に退役したのが姉妹艦の「クレマンソー」。同艦も「サンパウロ(フォッシュ)」同様、アスベスト問題などから、かつて受け入れを拒否され、なかなか解体が決まらなかった経緯がありました。

そもそもクレマンソー級空母をフランスが造ろうとしたきっかけは、それまで使っていたアメリカやイギリス製の中古空母に頼ることなく、国防面で独立性を保とうとしたからです。その結果、フランスが自国の威信をかけて建造し、1番艦として1961年11月に就役したのが「クレマンソー」でした。

発着艦を同時に行うために、進行方向から斜めにずらした飛行甲板を持つアングルド・デッキ、蒸気の力で機体を射出するスチームカタパルトなど当時の最新設備を数多く備え、全長265m、出力12万6000馬力という数字は、イギリスのオーディシャス級航空母艦と並び、アメリカ海軍の大型空母群に次ぐヨーロッパ最大級のスペックでした。

1968年に南太平洋へ一時配備され、核実験に参加したのを皮切りに、1974年にはジプチへ派遣、1980年代に近代改修を行ったあとは1984年レバノン内戦、1987年から1988年イランイラク戦争1990年湾岸戦争などと戦地へ派遣され続けます、まさにフランス海軍の象徴として、東西冷戦序盤から終結まで、アメリカ以外の洋上航空戦力として無視できない存在感を維持し続けました。

退役から10年以上も解体先決まらず “幽霊船化”

35年以上にわたって第一線で活動し続けた「クレマンソー」は1997年に退役しますが、ここからトラブルに見舞われるようになります。断熱材などとして船体内部に多用されていたアスベストが総計で700~1000tあると問題になったのです。

まず、「クレマンソー」はスペインの会社に売却され、同地でアスベスト処理を行う予定でしたが、その後、安価で行えるトルコで処理する計画へと変更されます。ただ、これが無許可の決定であったことからトルコ政府に受け入れを拒否され、フランス国内でアスベスト除去作業を行う結果に。フランス政府位はこのときの処理で、アスベストを45tまで減らしたと主張しました。

その結果、2005年に「クレマンソー」は、インド西部グジャラート州にある世界最大の船舶解体場であるアランへ向かったものの、ここでも2006年1月6日インド最高裁判所アスベストの残存量について確実な情報がなく、有害廃棄物の移動に関するバーゼル条約に違反する疑いがあると判断。これを受けインド政府は「クレマンソー」が自国領海に入るのを拒否します。

結果、シラク大統領は「クレマンソー」をフランスに引き返させたのです。なお、同艦はインド政府の判断以前に環境保護団体の抗議と妨害に会っており、スエズ運河付近で立ち往生していました。

2006年にフランスへと戻ってきた「クレマンソー」は、手つかずのままブレスト港に係留され長らく幽霊船状態で放置され続けます。その処遇が決まったのは3年後のこと。2009年2月にイギリス北東部のハートルプールの造船所で解体されることとなりました。ちなみに、イギリスでも入港反対の抗議を受けたものの、ここでキチンと解体されました。

就役当時、「クレマンソー」と「フォッシュ(サンパウロ)」はフランス政府や海軍などから大きな期待をかけられ、その後長らく第一線で活動したことからもわかるように現役中は世界中をまたにかけて任務に従事し続けた「名艦」です。

しかし、1960年代と1990年代ではアスベストの捉え方がまるっきり真逆になってしまいました。就役時点では問題ないと判断されていたアスベストが、最終的には世界的に「厄介者」扱いへと変貌していたのです。その結果、姉妹揃って最期は不幸な境遇となってしまいました。

とはいえ、その処分方法は“姉”の方は解体だったのに対し、“妹”は沈没処分と差があるのも事実。紆余曲折を経ながらも無事に解体された分、「クレマンソー」の方が、運がよかったといえるかもしれません。

フランス海軍在籍時の空母「クレマンソー」(画像:アメリカ海軍)。